昔を思い出させる夢
「私たち、親友だよね」
そう笑いあったのは、もう随分と昔。家は遠かったけれど、小学校で知り合った私たちは、趣味や性格が合ったからかすぐに仲良くなった。何をするにも、一緒だった。
親友、という響きが心地よかった。私は特別、絶対に裏切られない。そういった友達を持つことは、とても嬉しいものだった。
「二人は仲良しだよね」そう言われると必ず「だって親友だもん」と返す。それが当たり前で、私は本気で、その子は私が大好きで、私もその子が大好きなのだと、そう思った。
「ねぇ、知ってる?」
悪魔のように囁かれた、内緒話。小学生というものは、〝特別〟に弱い。自分だけが特別、という状況が嬉しくて仕方がなかった。だから、内緒話が大好きだ。これもまた、自分だけが知ってる状況を生むからだった。
「○○くんて、アサのこと好きなんだってさ」
そうして、内緒話に定番なのは恋バナだった。
私は噂にも内緒話にも興味はなかったけれど、恋バナはやはりどきどきして楽しいもので。好き、と言われて嫌な気はしなかった。
けれど、その後、私の親友が○○くんのことを好きだということを知った。当然私は、親友に言おうとした。「私は○○くんのことは何とも思ってないよ」と。
その頃からだった。私の親友は、よそよそしくなった。ゆっくり話し合う機会もなく、ただただ距離だけが遠くなった。
「待ってよ、ねぇ、なんで避けるの?」
私は怒った口調で、声を張った。私をあからさまに避けた親友は、足を止めたがこっちを見なかった。
「ねぇ」
「なんか用?」
私は絶句した。その一言はまるで、用がないと話しかけてはいけないと言っているように。突き放すように。彼女は、私を拒絶した。
「な、にそれ。なんなの、この前から!○○くんのこと?それで怒ってるの?」
「別に怒ってないよ」
親友は、酷く抑揚のない声で吐き捨てた。
「私、今まで言わなかったけど、あんたのこと大嫌いだったの」
「ッ…」
言葉が、詰まった。
「もう近づかないで」
「…待って、待ってよ!」
こっちも見ずに、吐き捨てられた言葉が悲しくて、私は到底受け入れることができなかった。彼女は、そうして私から離れて行った。
その翌日、私は一人ぼっちになった。
私が親友だと思っていたその子は、有る事無い事をクラスメートに言いふらしたのだ。私にその内容はわからないけれど、もしかしたら酷い悪口を言われてたのかもしれない。
震える手、肩身の狭い感覚、呼吸すらも辛い。周りの人たちの視線が、とても気になる。
そんな私を見ていたあの子は、どんな気持ちで見てたのだろうか。私にはその子の表情が、勝ち誇って見下しているように見えた。
*
「………あー」
瞼を持ち上げると、見えたのは見慣れた天井。私の部屋の、白っぽい天井。
首や額に汗が滲んでいて、気持ち悪くなった。
「夢かぁ」
夢と知って安心する反面、鮮明に思い出された記憶に身震いした。
「……う…」
じわ、と涙が浮かんだ。震える手で、涙を拭った私は、体を起こした。
もしかして、私は同年代が平気に…つまり、トラウマを克服したのかもしれないと思った。昔、怖い思いをしたけれど、もう一度友達を作りたい。本気で、そう思った。
そして、武生くんやトモが私の周りにいてくれて、怖かったけれど嬉しかった。また昔のように、笑いあえるんじゃないか。そう思った。
「だめだ…やっぱり―――…」
私は、やっぱり、皆が怖い。




