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hello goodbye  作者:
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逃走開始

がくがくぶるぶる、なんでこんなことに。隣を歩く巨大な人間に、私は涙目を向けた。

私は何故、学校一の不良の隣でがくがくしているのだろう。何故、学校に一緒に登校しているのだろう―――…いや、それも気になるが…それよりも、最大の疑問は朝の出来事。


娘さんを僕にください、隣を歩く不良くんはそう言っていた。

間違いだらけの出来事である。まず、私はこの不良くんと仲良くない。同じクラス、ということしか。あまり学校にも来ないし、来たところで仲良く離すようなことはないだろう。よって、名前も知らない。プロポーズされるような覚えもない。


そしてなお且つ、だ。この不良くんが挨拶をした相手は、私のお母さんではないのだ(つまり不良くんの勘違い)。むしろ、女性でもない。長くウェーブのかかった栗色の髪を横にゆるく束ねたフユさんは、れっきとした男であった。神様は不公平だと誰もが思うほどの美貌を持ち、町を出歩くと人目を引き、何人もの男女を惑わせた罪な男である。どこでどう間違えたのかは分からないが、きっと私がフユさんと仲良く話しているのを見たのだろう。だからって、母親だと決めつけるのは早すぎる気がするけれど。


ああ、帰りたい。すごく帰りたい。ただでさえ人前に出るのも億劫なのに、不良くんが隣に居るだけでとてもとても肩身が狭い。握りしめた拳は汗が滲んだ。

フユさんの提案で、一緒に登校することになった。何故私が、学校一の不良と、登校を、しなくては、な、ら、な、い、ん、だ!!!不満と不安が爆発しそうで、苦しい。

「なあ」

「うひょえッ」

心臓が止まるかと思った。

否、心臓は止まらずにむしろばくばくと活発に動いているが、呼吸は数秒止まった。いきなり声をかけられた、そりゃあびっくりするわ。私、チキンだもん。びっくりしすぎて思わず変な声が出て、慌てて口を手で覆った。なんつー声を出してんだ、私。動揺が丸見えじゃないか。足が思わず止まり、ふっとその場でしゃがみこんだ。


落ち着け、落ち着け。

言い聞かせても、体が言うことを聞かない。かたかたと震える唇をかみしめ、女子高校生にしては長い膝丈ほどの制服のスカートをきゅっと握った。

「大丈夫か」

私の異変に気付いた不良くんが、私の目の前にしゃがんで顔をのぞいた。

しかし、不良をやっているだけある。生傷や血の滲んだ絆創膏だらけの顔は、とてつもなく怖かった。悲鳴を上げようとしたけど、ひゅっと息が喉の奥で鳴っただけだった。

おでこから、一滴滲んだ汗が垂れた。



私の人見知りは小学校高学年頃からだった。当時の私は、いじめを受けていた。きっかけは些細な口喧嘩、しかし最終的にはクラスメートほとんどを敵に回してしまった。私は独りで、小学校生活を終えた。


そうして中学に入っても、私の味方を作ることはできなかった。理由は二つ。一つ目はいじめの主犯格の子も、同じ中学に入っていたこと。そして二つ目は、私が同年代恐怖症になってしまったこと。

同じくらいの歳の人と、話ができなくなっていた。怖くて、怖くて、私が口を開いてまた何か起こってしまったら。いじめられたら。そう思うと、話なんてできなくなっていた。


そうして私は、両親に心配かけるのも嫌で、高校生になったらなるべく目立たずに生きていこう、そう思った。



思った、はずだった。

学校に着くと、私たちは注目を浴びていた。いや、正しくは私の隣の不良くんが皆の視線を集めていたのだ。彼は目立つ、とことん目立つ。それこそ、私が完全に霞むくらい。

しかし、いい意味で目立っているわけではなかった。不良くんは、金髪坊主に鋭い眼差し、ガタイの良い大きな体に着崩した制服、そしてなにより纏わりつく伝説の数々(つまり暴力沙汰)が、彼を悪者へと突き落としているのだ。


人は見た目で判断してはいけない。どこぞの花屋のオネエさんだって、誰もが惹かれる美貌を持つ柔らかな人だが、昔はいろいろやんちゃしていた元不良らしい。実際私がフユさんと喧嘩しても負けるのはいつだって私で、力で勝てないので口喧嘩しても勝てたことがない。昔から仲よくしているフユさんも、昔は不良だった。

わかっている、頭では。でも、怖い。フユさんはフユさんだ。年上だし、昔から一緒に居るし、怖くはない。でも、不良くんは…だめだ。隣にいるだけで、威圧感が私を襲う。


そうして私は耐えられず―――…逃げた。

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