初めましてお義母さん
「おーい真冬、今日夕飯食ってくか………あ?」
熱くて顔が真っ赤な私、にやにや笑みを浮かべるフユさん、と見覚えのない男子高校生二人(武生くんとトモ)を見たお母さんは、何を思っただろうか。
いきなり花屋に乱入してきたのは、あろうことか母、千紘だった。お母さんは、四人をぐるっと見回した。実に、迫力のある無表情だった。
「………」
あ、どうしよう。
ガン見してる、目を合わせたらきっと石になる、どうしよう怖すぎて顔見れないや。
前回、武生くんとフユさんがやらかして青空商店街に瞬時に広まったプロポーズ騒動。一旦は問い詰められたものの、フユさんちに逃げ込むことに成功した。
そういえば、そのままだった。この鉢合わせは非常にまずい。お母さんにプロポーズ騒動の主犯がここにいることを察して欲しくない、私はそう思ってなんとか誤魔化そうと試みた。
「あ、お母さん…た、ただい……」
「武生涼はどっちだ」
ただいま、がぶっちぎられて、鬼のような形相のお母さんは武生くんとトモを交互に睨んだ。トモが、あまりの迫力に息を呑んだのがわかった。
ああ、もうなんかいろいろばれてた。やだもう怖い、すごく泣きたい。
「え、と…」
「どっちだ」
誤魔化しはきかない。うちの母親は、嘘も後ろめたいことも、敏感に察知する。昔から、嘘をついたらげんこつが飛んできた。毎日毎日…まい、にち……うん、もう嘘はつけない!げんこつの記憶がまだ新しくて、嘘をつける気にはならなかった。
あ、やばい。これ、詰んだ。
わーもうこれどうしたらいいんだ!崖っぷちの私は、フユさんに助けを求めようと視線を送った。しかし、フユさんはにやにやと、とても楽しそうに笑っていた。激しく、蹴りを入れたくなった。入れないけれど。
泣きそうになった私を庇うように、私とお母さんの間に遠慮がちに入ったのは、武生くんだった。いつも無表情、たまに怖い顔をする武生くんには、戸惑いが見え隠れしていた。けれど、この状況をどうにかしなければ、というように名乗り出た。
「俺です」
お母さんは、名乗り出た武生くんを見て目を細めた。
「お前か。うちの馬鹿娘に惚れたあげく、結婚の挨拶の相手を間違えた奴は」
馬鹿娘って…!理不尽に貶され、私は悲しくなった。お母さんは、ふうん、と武生くんを眺めた。そして武生くんに近付くと、急に胸ぐらをつかんだ。
「!?」
一番驚いたのは、なんと私である。驚きすぎて声も出ず、お母さんの手をなんとか外そうと慌ててお母さんに掴み寄ろうとした。けれど、それを止めたのはフユさん。フユさんは落ち着け、と言っているように私の背中をあやすように叩いた。
お母さんは、私に構うこともなく、自分より身長の高い武生くんの胸ぐらを掴んで、武生くんを屈ませた。見上げて、武生くんの顔を見つめながら、口を開いた。
「幸せにしなかったら、殺す」
私は絶句した。え、なんなの。これ、親公認になっちゃったの?ていうか、お母さん、あっさり娘明け渡しちゃったよ。
「はい!」
ぱっと表情を明るくした武生くんは、わかりづらいが明らかに目を輝かせた。
え、ちょっと待って!どういう状況なの!
「真冬、お前よりずっといい男じゃねえか」
「あら、千紘さん。言ってくれますね」
「きもいから、オネエやめろ」
「ふふ」
かわいらしく笑ったフユさんを眉をひそめながら一瞥したお母さんは、私に向き直った。
「遊佐には私から言っておく」
「お父さんにも言うの!?」
「当たり前だ。しかし、お前がこんないい男連れてくるとはな。驚きを通り越して、笑える」
「貶められてる!さっきから!」
わしゃわしゃと私の髪を混ぜるように撫でたお母さんは、武生くんに言った。
「こんなんでよかったら、もらってくれ」
おいこら。




