暇つぶしと化した二人
真冬はとても楽しんでいた。
幼馴染で、妹のように思いながら一緒に成長してきたアサに彼氏ができた。小さかったアサが、彼氏を作るなんて、思っても見なかった。
真冬にとってアサは、妹のようなものであり暇つぶしであり、かわいい女友達だった。だからこそ、アサに彼氏ができた時には、それこそかわいい娘を持つ両親がやるように、つれてきた彼氏をふるいにかけて落としてやろうと思っていた。必要とあらば邪魔でもしてやろう、そう思いながら。
そうして、そんな時期がやってきて。
わざわざ家まで、結婚の挨拶をしに来た男。結婚なんてまだ早い、アサは高校生なのだから。いきなり結婚を申し込むなんて、しかも自分が母親に間違われるなんて、どんな男がアサに惚れたのだろうか。そう思って男の顔を見てみたら…
「……」
ああ、なんて面白いんだろう。
運命なんて信じてないし、あれはまさに偶然。
昔々、休日に、家の花屋の手伝いが嫌で、家を抜け出してぶらぶらと散歩をしていた時に見つけた乱闘。否、一方的に高校生にボコボコにされていたガキ一人。
なんて卑怯で癇に障るのだろう。体格差もあるのに、小学生一人に高校生が五人。
ああ、助けるのもめんどうくさい。目障りだから、早く通り過ぎてしまおうか。
真冬は、他人には興味が薄かった。特に高校生時代は、仲間や家族のような親しい人以外には無関心で、無慈悲だった。
しかし家族に害のあるものは排除し、仲間を傷つけるものからは体を張って守り抜いた。
通り過ぎよう、無駄な労力だ。
胸糞悪いものを見てしまった、とため息をついた。真冬はふいっと目を逸らし、足の方向を変えた。
耳障りな喚き声、高校生集団が何か言っている。あの小学生も本当に災難だな。
完全に背中を向けていた、何も見ていなかった、興味もすでに別に向いていた…はずだったのに。
「………?」
なぜだかわからなかった。無意識に、もう一度その小学生を視界に入れた。それは、やはり運命と言うにはあまりに気まぐれで、偶然と言うにはあまりにできすぎた、今思うととても忘れられない一瞬であった。
「!」
目を、奪われた。
殴られていた小学生は、それでも凛としていた。殴られながら、顔中腫らしながら、痛みが激しいはずなのに恐怖に屈服せず、凛としていたのだった。
ぞわ、と鳥肌が立った。衝撃が、体に走る。
小学生の強い光を宿した瞳に惹きつけられるように……真冬は衝動的に地を蹴った。
自分が助けたあのときの小学生が、まさかアサの彼氏になるとは。
なんておもしろい縁なのだろうか、と真冬は昔のことを思い出して笑った。
邪魔なんてしない。
私を惹きつけたあのときのガキんちょがアサの彼氏ならば、文句なんてあるはずもない。むしろ、少しだけ…そういうやつがアサの男ならばと思った時もあった。だから純粋に、祝福してあげようと思っている。
アサも、満更ではなさそうな反応だし。
でも、今はまだ退屈だから。
次の面白いことがあるまでは、アサも涼ちゃんも、私の暇つぶしにしてしまおう。
真冬は小悪魔のような、悪戯っ子のような笑みを浮かべて、再びアサの頭を撫でた。




