何も変わってなかった
随分、印象が変わった。
小学校の頃の記憶では、もうちょっと本当にやんちゃしてそうな…まだ成長期がきていなかったからか、細く小さい体ではあったが、堂々とした佇まいといい、着崩した服装といい、身につけたアクセサリーといい、自己主張が強くて独特な雰囲気を纏っていた。
それが当時小学生であった自分にはとてつもなく衝撃で、憧れで、見かけるたびに目を輝かせた。
でも今は―――…
「あら、涼ちゃんじゃないの。よく来たわねぇ」
程よいオネエさんになっていた。
「ただいま、フユさん」
青空商店街についた三人は、真っ先に花屋さんに向かった。智大が、真冬に会いたいと言っていたからだった。店内で花を抱えていた真冬は、アサよりも先に武生に近づいた。アサが呆れ気味に真冬に挨拶をすると、真冬はアサに顔を向け直し、微笑んだ。
「おかえり。そっちの子は?」
「は、はは初めまして…アサちゃんのクラスメートの宮井智大と言います…」
失恋傷心中の智大は肩を落としながら自己紹介をして、アサはそれを見て苦笑した。学校より表情が柔らかいのは、ここが彼女の居場所となっているからだろうか。自分には笑ってくれない、けど真冬には笑う。そのことが、武生はとてつもなく悔しかった。
「クラスメート、ねぇ…涼ちゃんといい、トモちゃんといい…アサ、あんた一体どうしたのよ」
「えーと…」
「人見知りは直ったの?」
「…ううん」
真冬の質問に、アサの表情が曇る。
「けど…」
「ん」
「この二人は…平気、かな」
アサは口をぎゅっと結び、眉を下げた。本人がここにいるから、武生はまだ怖い、とは言えなかった。
アサの心遣いは、結果的に武生を喜ばせた。武生はぱっと表情を緩め、アサの言葉を噛みしめた。智大は武生の顔を見て、噴き出しそうになった。武生が喜んでるのが、瞬時に分かったからだ。
「そ、よかったじゃない」
真冬は柔らかく笑って、優しくアサの頭を撫でた。その瞬間だった。武生の顔が一瞬にして、一気に暗くなった。機嫌が悪いのではなく、怒っているのではなく、何かの苦痛に耐えているような、そんな顔。智大は首を傾げ、武生を見つめた。
さっきもこんな表情をしていた。確か、真冬の話をしていた時。
もしかして、こいつ…真冬相手に嫉妬している?ありえない、と思いつつも、武生の表情は、そのまんまそれだった。
真冬がアサに触れるたび、仲良さそうにするたび、アサが笑うたび、武生は難しげな顔で唸るのだった。
「ちょ、フユさん。頭なですぎ…今日は機嫌いいの?」
アサの言葉が、武生の耳に入った。真冬は細く長い手でアサの黒髪をいじると、「だっておもしろいんだもん」と笑った。
武生は直感した。
こいつ、わざとだ!!わざと自分に、アサと仲の良いところを見せびらかしている。武生は、ぎっと真冬を睨んだ。
アサはわけがわからず、「おもしろいってなに、私の髪型そんな愉快なことになってるの?」と的外れなことを言っていた。
ああ、印象は変わったけど…何も変わってない。小学生の頃の記憶を辿ってみる。
圧倒的な力で高校生集団をねじ伏せた真冬は、どこか小馬鹿にしてた。自分で助けた武生にさえ、愉快そうに笑っていた。
楽しむことをやめない真冬、昔からこうやって人を馬鹿にして楽しんでいた。
このやろう、と眉をひそめた武生。真冬の挑発にあっさり乗った武生は、勢いに任せてアサの腕を引っ張った。
「え…」と呟いたのは、何にも知らなかったアサであった。




