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hello goodbye  作者:
1/27

hello

「お義母さん、娘さんを僕にください」

「誰がお義母さんだ、お前なんかにあの子はやりません!!」

…朝から変なものを見てしまった。

たらたらと冷や汗を垂らし、目を逸らした。朝の出来事、学校へ行こうと家を出ると、状況がまったく掴めない謎の場面に遭遇した。



青空商店街、それが私の住む商店街の名前である。私の家はその商店街の八百屋〝やおいち〟、そして私はその八百屋の長女、米倉麻(よねくらあさ)。そんな私の青空商店街には、ちょっとばかし(いや、かなりか)目立つ人がいる。

〝やおいち〟の向かいの花屋さんには、幼馴染で七つ上の綺麗なオネエさんがいる。私が今高校二年生の16歳なので、既に今年の誕生日が過ぎているそのオネエさんは24歳。


青空商店街は近所付き合いがとてもよい。家主よりも先に既に家に上がり込む無礼な魚屋のおっさんだったり、うちのりんごをかすめとるコソ泥同然のアホな薬局のおっさんだったり、この商店街には実に無礼―――…いや、楽しい人たちがいる。

しかし、そんなのはまだ序の口である。ご近所同士が家族同然の扱いになって、図々しさが増すこの小さな商店街に、抜きん出て輝く美しいオネエさんがいた。そう、花に囲まれ幸せそうに花屋を営み、明るい笑顔には女の私でさえ心臓を締め付けるオネエさんだったが、根っからの男だった。



…目の前に見えるのは、幻だろうか。

いや、幻であって欲しい。結婚の挨拶を受けていたのは、先ほど説明した花屋の美しいオネエさん、男、名前は真冬さん、呼び名は「まーくん」「フユぽん」「まふゆん」とまぁそれぞれだけど、私はフユさんと無難に呼ばせてもらっている。いやまぁ、そんなことはこの際どうでもいい。


―――…お義母さん、娘さんを僕にください。

フユさんは、そう言われていた。

お義母さん!?あの人娘いたの!?

向かいの家ということもあって、生まれてからずっと仲良く育ってきた仲だけど、初耳でした。ていうか、あれ。男じゃなかったっけあの人。あ、違うのか。あの人見てると(美しすぎて)よく自分が女だと否定したくなったものだけど、女の人だったのか(現実逃避)。


そして、忘れそうになったが突っ込みどころがもうひとつある。

フユさんに結婚の挨拶をしていたのは…あろうことか、私のクラスメートのいかつい不良でした。顔中傷や絆創膏だらけ、金髪の坊主頭、身長は(170ほどの)フユさんが見上げるほど、つまり190くらい。あまり学校に来る姿を見ず、噂では暴力に明け暮れていると聞いている。鋭い目つき、怖い顔つきと巨体に恐怖を感じない者はいない。もちろん、私も例外ではない。

「ッ……ッ…!」

逃げようと思って、じりじりと後退した。

何故だ、何故そんな奴がここにいる。そして何故オネエさんに結婚の挨拶を?


不良くんは、フユさんの―――「誰がお義母さんだ」という―――ドスの効いた声を聞くと、ばっと顔を上げた。不意を突かれたように驚いて、目を丸くしていた。

あの顔は、本当に女の人だと思っていた顔だ。フユさんの地声は低くもないが、女だと間違えるほど高くも柔らかくもない。高くしようと思えばできるし、可愛い声だって出せるフユさんだけど、さっきの声は男の低い声だった。

正直怖い、あんな可愛くて美しい顔からあんな声が出るなんて…軽くショックを受けた。


フユさんが、不良くんの言う〝お義母さん〟ではないことに気付いた不良くんは、驚きのあまり数分フリーズすると一言「誰だお前!!」と焦ったように叫んだ。

いや把握せずに結婚の挨拶したのかよ。私は逃げるのも忘れて、呆れてため息をついた。

「お義母さんじゃ…ない…だと」


茶番だなあ、と思いながら邪魔しないように通り過ぎようとすると、不良くんが私に気づいて目を丸くし、「あ」と声を漏らした。わ、こっち見た。あれ、なんだその反応。

続けてフユさんも私をに気付き、手を上げた。

「あら、アサじゃない」

オネエさんなフユさんは、声を高くしようと思えばできる。今は、女の声。この人が男だなんて忘れてしまう。可愛らしく手を振ったフユさんは、私に歩み寄った。

「おはよう」

「おはようございます、何の騒ぎですかこれは」

眉を顰めた私に、フユさんは細い手で口元を覆い、楽しそうに口を開いた。

「あんたも隅に置けないわね」

「…なんのことですか」

「ああ」とフユさんは両手を合わせ、不良くんに向き直った。

「そうだ涼ちゃん、結婚だなんて気が早すぎるわ。まずは〝お友達から〟ね?」

フユさんは不良くんの坊主頭をガシッと鷲掴み…え、鷲掴んだ…?あのー、フユさん。その人学校一の不良で、問題児で、顔つき怖いし図体でかいし、ていうかとてつもなく恐ろしい人なんですけど、鷲掴み…?恐ろしくて目を背けたくなりますマジで。

フユさんは不良くんの頭を鷲掴むと、有無を言わさない迫力で言った。語尾の辺りの力のこもった「ね?」には、気づかないふりをした。不良くんも怖いけど、どっちもどっちだった。二人とも恐ろしい。


不良くんが鷲掴みされながら頷いた。

なに、話が読めない。

私が首を傾げていると、フユさんは笑った。

「この人、あなたを嫁に欲しいんですって」


私の話だったのか!!

予想外の展開に私は思わずこけた。

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