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Take 8 Determination 

平穏な日々はそう長く続かなかった。

日を増す毎に悪魔達は増え、その犠牲者も多くなっていった。当然の様にアーシェラ達もそれを倒す為に駆り出され、危険と隣り合わせの毎日をおくる。分かっていたとは言えアーシェラは戸惑う。そしてそんな迷いをかき消すように必死に戦い続けた。


けれどその日は来た。


完全に敵対した教会と悪魔達による戦争。それは悪魔達の一方的な虐殺によって始まり、微かな希望すらも打ち砕いた。




いつかはくるのだろうと覚悟していた筈だった。だというのにそれを現実として受け止めると苦しみが胸を襲った。激しさを増す闘いの中、シファンが命を落した。この時アーシェラは13歳、まだその事実を正面から受け止めるには幼すぎた。

薄暗い部屋の中、眠ったように死んでいるシファンをアーシェラとルイスは見つめていた。

「どう、して…」

瞳から溢れ出した涙は止まる事無く頬を伝う。

こんな苦しい思いをしたのは初めてだった。初めて身近な人間の死を体感した。

「…っ、う…」

泣く事しか出来ない。悲しみが世界を覆ってしまったようだった。けれど何一つ終ってなどいなくて、むしろこれから始まるのだと言う事を心の何処かで感じていた。

「泣くな…」

優しくかけられた言葉と同時に頭を撫でられ、アーシェラは顔を上げる。

どんな顔をしていいのか分からないといったルイスと目が合い、再び涙が溢れ出す。頭に触れる優しい手が心を揺さ振った。

泣いている場合などではなく、一刻も早く打開策を見つけるべきだと心では叫びながらも、頭が正常に働いてくれない。ただこの手を失うのだけは嫌だと強く思った。

「お前がそんな泣く必要ない」

ルイスの言葉に返事は返せなかった。分かってはいても自分の無力さを感じずにはいられない。もっと力があれば、もっと自分に何か出来れば…全てを守る事が出来るだろうに…そう思ってしまった。

「ごめんなさい…もう、平気だから」

言うが早いかアーシェラはその場を後にする。

そのままその場にいてしまえばルイスの優しさに甘えてしまいそうだった。それでは何も変らない、そうアーシェラは思う。

(私に…出来る事……)

考えながらアーシェラが辿り着いたのは、はじめてここに来た時に連れてこられた大きな広間だった。大きな天使の像と美しいステンドグラス…アーシェラにとって忘れられない出会いの場所。

「…主よ」

天使の像に歩み寄り、膝をつく。

「どうか…お導き下さい、お救い下さい」

縋るように祈りを捧げる。きつく握り締めた手は微かに震えていた。恐ろしかった、死ぬ事がではなく、失う事が…

「私の…私の全てを捧げても構いません……お救い下さい」

このままでは遅かれ早かれ皆死んでしまう。それが分かっているからこそ出た言葉だった。

「死なせたくない人がいるんです…お願い、します……私は全てを捧げます!だからっ!!」

祈りはいつしか叫びに変っていた。喉の奥から絞り出すような悲痛な声。その目からは涙が溢れ出していた。

「お願い…私に、護る為の力を……」

その場に崩れ落ちるように両手をつく。

どれだけ祈りを捧げても、どれだけ願っても、叶えては貰えないのだと諦めかけていた。もしも祈りが届くなら、シファンが死ぬ事もなかっただろう。

「私が護るから…神の代りに、私が護るから……」

アーシェラ達が敬愛する神は見守っていてくれるだけであり、何かを実行する事など無いのだと…気がついていた。だからこそ力が欲しかった。神の代りに皆を護れるだけの力が…

「力が欲しいですか…?」

不意に背後から声がした。突然の事に心臓を高鳴らせながらその声へと振り向く。

「あなた…は?」

そこには目を疑うような美しい女性が、優しくアーシェラを見下ろして立っていた。しなやかに流れる金の髪は腰まであり、その肌は雪のように白く、瞳は深い海のように綺麗な青をしている。

まるで女神のようだとアーシェラは息を呑んだ。

「はじめましてアーシェラ・シルバニア、私の名はマリア・エルノアール。この教会の設立者であり、聖乙女と呼ばれるものです」

聖乙女、その言葉はアーシェラも何度か聞いた事がある。神を最も敬愛し、悪を最も嫌悪する教会の総帥。その者に与えられる称号であった。

「聖…乙女様…」

「貴方の声が聞えました。救いを求める声が…」

その言葉にアーシェラは涙を流す。神には届かずとも、聖乙女にはその祈りが届いたのだと微かに安心した。希望という名の光を見た気すらする。

「アーシェラ・シルバニア、力が欲しいですか?皆を護れるだけの力が…」

優しい問いかけにアーシェラは強く頷いた。

「貴方にはそれを得るだけの資格があります」

「ではっ!」

「ですが…それは貴方から全てを奪ってしまう。貴方は神に全てを捧げなくてはならなくなるのです」

顔を上げたアーシェラの目に映ったのは、酷く真剣な目をしたマリアの顔だった。その目はどこか哀しげでアーシェラは思わず言葉が出てこなくなる。

「力を得ると同時に貴方は孤独になるでしょう。ただ一人、永遠の時を生きねばなりません。歳をとる事も無く、剣を置く事も出来ず、人を愛する事さえも出来なくなってしまいます」

「人を…愛する事も…?」

思わず聞き返していた。アーシェラは分かっていたからだ、ルイスに対するこの想いがなんと呼ばれるものなのかを…

「貴方は神だけを愛し、神の為に生きなければならなくなります」

それは永遠の鎖。

「それから解放される時が来るとすれば…それは死か、神への裏切りか、新たな乙女が現われた時だけ…」

そこまで言われてようやく気がつけた。マリアが自分に聖乙女としての力を受け渡そうとしていることに…

「もし…神を裏切ってしまったらどうなるのですか?」

人を愛する事が出来なくなるという事は、アーシェラが誰かを心から愛し、神よりもその人間を選べば裏切ったという事になってしまうのだろう。

だから、それだけは聞いておかなければならなかった。

「もし神を裏切ってしまったり、新たな乙女にその力を渡してしまったならば…全ての力を失い、全ての記憶を失います。全てを…白紙に戻されるのです」

「全てを…失う」

それは、両親との思い出やルイス達との出会い、その想いさえも…無かった事にされるという事だ。

「だから…選ぶのは貴方です。後悔しない様に…選んで下さい」

その言葉から暫く静かな沈黙が訪れた。

力を得れば皆を助けられるかもしれない。けれど自分の想いをなかったことにしなければならない。ずっと永遠に縛られ続ける事になる。

「なぜ…私を?聖乙女様は戦っては下さらないのですか?」

押し付けがましくそんな言葉が口から出ていた。そんな自分がアーシェラは自分で信じられない。いた堪れずマリアから目を逸らすが、マリアは優しく微笑んで口を開いた。

「私にはもう…神を敬愛する事が出来ないのです」

「え…?」

思わず顔をあげたアーシェラとマリアの視線が合う。

「私は…クレイルを愛しています。クレイルも私を愛していると…そう言ってくれました。だから私は…神を裏切ってしまう」

「でも、そんな事をしたら!全て…忘れてしまうんじゃ……」

アーシェラには分からなかった。そんな事がわかっているというのに、その道を選ぶ気持ちが…

「全て忘れてしまうでしょう…それでも私は彼を愛しているのです。私が忘れても、彼が覚えていてくれる…それで十分だとおもえるのです」

穏やかな優しい顔だった。だからもうマリアは心を決めているのだと、アーシェラは悟る。

「私は…」

ルイスを本当に愛しているか分からない。それでも死なせたくない気持ちは本物だった。彼が生きていてくれるのであれば、それでいいと思えた。

だから…

「皆を護る力が欲しい」

そうはっきりと答えていた。






手にしたのは光の剣。纏うは純白の絹。輝く金の髪に、青い瞳。

戦場に不釣合いな少女は、真っ直ぐと前を見据えて、立ち尽くす。誰もが予想しなかったその姿に、人々は息を呑む。少女が振るう剣の一振りで悪魔が倒れていく。

「アーシェラ…」

その少女の名を呼んだのはルイスだった。自分の目を疑う、どうして…アーシェラが、何があったのかと…頭が混乱する。

「私が守るわ…全て…」

短い言葉だけを残し、アーシェラは悪魔の軍隊に向かって駆けた。

その速さは少女のものではなく、それどころか人のそれでもありえないものだった。ルイスはその体を引きとめようとして、その速さに追いつけなかった。

「アーシェラ!!」

声を上げるが、それはアーシェラには届かない。

その姿を追いかけようと駆け出した瞬間、手を捕まれ引き止められた。反射的に振り返った先にいたのはクレイル。

「行って…どうするんですか?」

「どうって…何言ってるんだよ!アーシェラはっ…!!」

つかまれた手を振りほどいて、クレイルに食って掛かろうとしたところで、言葉が詰まった。

「まさか…アーシェラが?なんで…どうしてだよ!」

気がついてしまった。アーシェラが新たな聖乙女になったのだと……気がつけども、納得できるものでもない。

「彼女が自分で選んだんです…」

「嘘だ…なんであいつがそんな事選ぶ必要がある!?」

クレイルの言葉に間髪要れずに怒声を返す。

「死なせたくないからですよ…貴方を」

射るようなきつい眼差しがルイスを捕らえる。その瞬間、言葉を失った。

「ここに来た時の様に何も知らないで選んだわけじゃない……聖乙女という存在の全てを知った上で、彼女はそれを選んだんです」

「…なんでっ」

それ以上、ルイスは何も言えなくなる。あの普通の少女が、どうしてそんな道を選ばなければならなかったのか…どうしてそこまで追い込まれたのか、わからなかった。

ただ尚更にここにいられないと思った。だからクレイルに背を向けそのまま駆け出す。

「どこに行くんですか!」

背中にかけられたクレイルの声に返事も返さず、ルイスはアーシェラの駆け出した方へと向かった。

向かい来る悪魔の残党を倒しながらアーシェラを追う。けれど普通の人間であるルイスにとって、悪魔の相手は厳しく、その体は進むたびに傷ついていった。痛みを感じないわけではない、体が重くないわけでもない、それでも歩むことを止める事が出来ないだけだった。

「…っくそ、アーシェラ!!」

叫びに近い声を上げる。この声だけでも届けばと思う…もう遅いのだと気がつきながらも、その姿を追う足は止まらない。

その名を呼び続けながら、闇の中を駆け抜けるだけだった。



聖乙女になるには必要なものがある。

神の星の廻りに生まれ、神に愛される容姿を持ち、神を敬愛し、身も心も清らかな乙女でなければならなかった。


ルイスは初めてアーシェラの姿を見たとき、自分の目を疑った。

それは聖乙女に必要なものを全て持っていたから…だからクレイルが次の聖乙女にする為につれてきた少女だと瞬間的に悟った。最初はその運命に哀れみを感じていたのかもしれない。

けれど今は違った…哀れみなど無い。一年という期間、少女と言葉を交わし、行動を共にして、アーシェラという人物を知った。素直にそんな彼女を好きだといえる。

だから追いかけていた。本当に自分の為にアーシェラが聖乙女になったというならば、伝えなければならない言葉がある。

そんな事をする必要はないのだと……伝えなければならない。




駆け抜けた先で見つけたのは、血を流し横たわる悪魔の中、静かにたたずむアーシェラの姿だった。

「アーシェラ」

ルイスの声に振り返ったアーシェラは年相応の少女のものだった。微かにその瞳が揺れている。

「どうして…ここにいるの?」

「あほか、それはこっちの台詞だ。勝手に一人で突っ走って、無茶する奴だな」

呆れたようにため息混じりにそんな言葉を吐くが、そんな言葉を口にするルイスの体の方がアーシェラよりずっとぼろぼろだった。

「こんな…傷だらけで、どうして追ってくるの…」

泣きそうな目をして顔を伏せたアーシェラに、言葉が詰まる。少しだけ考えた後、その頭に手を置いて答えた。

「そんなもん…お前が仲間だからに決まってる」

ルイスは聖乙女の定めを全て知っている。だからこそアーシェラに向けた言葉はそんなものだった。

「どうして…」

何か言おうとして、途中でアーシェラの言葉は止まった。それ以上何も言えなくなる。

「一人で戦おうとするな、もっと他の奴等を頼れ」

言い聞かせるようなその言葉に、アーシェラは顔を上げる。いつものように笑うルイスの顔が目に映った。

「ルイス…私…」

言葉を続ける前に、それは斬撃に打ち消される。アーシェラの眼前が赤に染まり、飛び散った血液が白い服に顔に跳ねた。

「あ…ぁ」

喉が潰されてしまったかのように声が出なかった。ただぐらぐらと揺れる視界で斬撃を受け倒れるルイスの姿を捕らえる。赤く染まった身体、その影から見えた一人の悪魔。

「あぁあああああああああああああぁぁ!!!」

アーシェラが叫び声を上げ、剣を振りかざす。何の躊躇いも無く悪魔の身体を切り裂いた。あふれ出した血がアーシェラの身体を汚したが、そんなものは気にもならない。

ちぎれた悪魔の身体をそのままに、アーシェラはルイスに駆け寄る。

「ルイス!ルイス!!」

倒れた身体に手をかけ名を呼ぶ。うっすらと目をあけてアーシェラに目を向けたルイスは、薄く笑う。

「なんて顔してんだよ…」

力なく笑うその姿に涙が止まらなかった。

「どうして?私は力を手に入れたの…こんな傷ぐらいっ…」

いくら聖乙女といえど、人の傷を治すことは不可能だった。命を操作することなど出来るわけがない。

「アーシェラ…もういい、だから泣くな」

「よくない…よくないわよ!」

ルイスが死んでしまってはアーシェラが力を得た意味がなくなってしまうのだ。だからこそ現実を否定するように必死に首を振る。

「お願い…お願い……助けて」

誰に祈るでもなくアーシェラは泣きじゃくる。嫌だと思って、全てを捨てる覚悟をして手に入れた力なのに…役に立ってはくれない。

「アーシェラ」

名を呼ばれ、ルイスに目を向ける。そっとアーシェラの頬にルイスの手が触れた。

「お前は…自分の為に戦え、自分が正しいと思った事を貫けばいい……誰かのためになんて…戦う必要ないんだ」

もう遅いとしても、それだけは伝えなければならないと思った。それが遠い未来になろうとも、アーシェラが自分でそれを選ぶその時の為にも…

「ルイス…ルイスっ…」

言葉が出てこなかった。どうすればいいのかわからなかった。助けて欲しかった。

「忘れんなよ…お前は、自分の為に…戦えば……いい……」

糸が切れたようにルイスの手がアーシェラの頬から滑り落ちた。目は閉じられている。もう二度と…開くことは無い。

「うっ、あ…あぁああああああぁぁぁ!!」

小さな子供のように声を上げて泣いた。何も考えず、ただその涙が枯れるまで泣き続けた。






きっと暫くの間立ち直れない程にアーシェラは塞ぎ込むだろうとクレイルは思っていた。

けれど現実は違った。ルイスの亡骸と共に帰ってきたアーシェラは酷く落ち着いた顔をして、ルイスを弔い、普段通り神に祈りを捧げていた。

「アーシェラ」

天使の像に跪くその姿に声をかければ、静かに立ち上がる。

「今回の事…私の責任でもあります、一人で追わせるべきではなかった…だから――」

「クレイルさん」

謝罪のようなその言葉を遮ったのはアーシェラの呼びかけだった。

「マリア様は…どうなさっていますか?」

その口から出てきたのは全くもってクレイルが予想していなかったもの。まさかアーシェラがそんな事を今聞いてくるとは思わなかった。

「…元気です、記憶は…無くなってしまいましたが、それでもいつも笑っています」

「なら…よかった」

振り返ったアーシェラの顔に浮かんでいたのは笑顔だった。目的を失ってしまったはずのアーシェラは、信じられないぐらい綺麗に笑っている。

「クレイルさん…私はこの闘いを終らせます、悪を最後まで追い続けます。神の為だけに…戦い続けます。それが私の…誓いです」

言い聞かせるような言葉だった。事実それはアーシェラが自分自身に言い聞かせた言葉だったのだろうと思う。だからクレイルはそれ以上何かを言うのはやめた。

「出来る限り…手伝いますよ」

手を差し伸べたクレイルに笑みを返す。少しだけ戸惑った後、アーシェラはその手を取った。


この日から、アーシェラにとって戦う理由が変った。

たった一人だけを護りたかった…その為に手に入れた力。けれどその護りたかった一人は護れず、意味を失ったアーシェラは自分を誤魔化した。

『元より戦うのは神の為…それこそが私の生きる意味』

それから一日たりとも、自分が同士であった者達の屍の上に立っているという事を忘れた事はない。だから…その誓いを、剣を簡単に置く訳には行かないのだ。











薄暗い部屋の中、アーシェラは目が覚めた。

どれほど眠っていたのだろうか…、そう考えたが実際にはそんなに長く眠っていなかったのかもしれない。目が覚めた風景は、眠ってしまった時のそれと変り無かった。

懐かしい夢をみたと思う。本当に、遥か昔の事だというのに掠れもしない記憶。それを思い出す度に、アーシェラは胸が軋んだ。

あの思いは何だったのか…それは今でもハッキリしない。幼すぎたのかもしれないとアーシェラは思う。もうそんなはずはないというのに、今もまだ分からないままだった。

(…私が、戦う理由…)

それを考える度にルイスの言葉とフェルデナントの言葉が頭の中で繰り返された。

(私は…多くの屍の上に立っているの……簡単に全てを捨てたりは出来ない)

戦い続けたその結果、当然とも言える犠牲者が沢山いる。アーシェラが戦い続けると決めた時から、それは避けて通れない道だった。

(私が全てを捨てたら…何も残らないじゃない!)

暗闇の中アーシェラは一人で頭を抱える。

捨てる事は出来ない。けれどカルネラの様な悪魔を狩る事も出来なかった。

「私は…」

どうする事が正しいのか分からない。正しい道など本当はないのかもしれない。それでも自分の心だけは決めなければ前には進めなかった。

(…傷)

不意に頭の中にフェルデナントの傷が浮かんだ。アーシェラを庇って出来た傷…それは思いがけない行動だった。互いに利害の一致だけで共に行動していただけで、護る理由など何一つ無かったというのに…

「…理解できないわ」

フェルデナントは借りがあったから返しただけだと言った。けれど、それよりも以前…夏樹と対峙した時もフェルデナントはアーシェラに手を貸そうとしていた。

「借りがあるのは…私の方よ」

口にして、はじめてアーシェラは自嘲したものながら笑みが浮かぶ。

「…もう誰もいない。あの頃の皆は……だからルイス、貴方の言う通り自分の思う通りに、剣を取ってもいいかしら?」

静かに立ち上がる。真っ直ぐと前を向いて心を決めた。

何が正しいのか…どうする事が最善なのかは分からないまま……けれど今の自分の心だけは決まった。

「主よ、お赦し下さい…」

今だけは、貴方に祈る事は出来ない―その言葉だけは口にはしない。

ただ跪くのも手を組む事もその時はしなかった。








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