Take 7 Reason
夜、その全てが闇に包まれることなどなくなった世界。
街頭の光は未だ光を灯し、街行く人の影も少なからず見受けられる。そんな様子をビルの屋上から見下げる一人の男。
「さて、どこに隠れているやら……」
男の口には笑みが浮かぶ。百々撫と別れてすぐ行動を開始した彼は、見晴らしのいいビルの屋上へと足を運んだ。暫くジッと街を見下ろす。常人には決して見ることができないであろう遥か彼方すら男には見えていた。
「あぁ…見つけた」
楽しげに喉が鳴った。事実男は楽しみだと感じている。
一瞬だけ強い風が吹く。次の瞬間、男の姿はビルの上から消えていた。
ビクッとカルネラの体が震える。
「――っ」
見ればその顔は青く染まっていた。何がどうしてしまったのか分からない俺は、カルネラの顔を覗き込む。
「カルネラ?」
「駄目…来る…」
呟く様な小さな声だったが、その言葉ははっきりと聞き取れた。『来る』それは教会の人間が…という事なのだろうか、それとも…
「キョウスケさんっ!逃げてっ!!」
急に立ち上がってカルネラが叫ぶ。驚いて立ち上がるが、当然逃げるなんて事はできない。当たり前だ。
そう思った瞬間、意識とは別に背筋が凍りつく。息ができない。声が出せない。指一本すら動かせない。『何が』と問う前に分かった。これは教会なんかじゃない。あんな優しいものなんかじゃない。それは…
―絶対的な殺意―
「こんばんは」
柔らかい声。けれどそれには全く感情が感じられなかった。
「貴方は…」
カルネラの声に、恐る恐る視線の先を追うことができた。そこに立ち尽くしていたのは全身を黒で包んだ長身、細身の一人の男。ただそれだけなのに、相変わらず声が出せない。
「結構手間取らせてくれたみたいだなぁ…こっちはお陰で色々大変なんだ」
俺達の様子などまるで気にしていないように、肩を竦める。
「あーでも、あれには感謝しているよ…聖乙女の使徒を瀕死にしてくれた事。まぁこっちとしては殺してくれてた方が有難かったんだけど」
言葉に返事が返せない。その体から発せられる殺意から、俺達の敵である事は明白だった。だが男は聖乙女の使徒を瀕死にしてくれて、ありがたかったと言っている。
「TRINITY…」
「そうか、カルネラも思い出したんだな」
TRINITY…聞いたことのない名前だった。カルネラの顔がみるみる青くなっていく。それに相反するように男の口が釣りあがる。
「何を…しに来たんですか」
「何?あぁ…連れ戻しにきたとでも思ってるのか」
馬鹿にしたように笑う。ひとしきり笑った後、スッと真顔に戻って視線を返す。
「残念ながら、もうお前もあいつも不必要だ……処分しに来た」
冷たいはっきりとした言葉。その言葉の意味がはっきりと分かっているのに体が動かない。どうすればいいのか思い浮かばない。ただ頭の隅で警報がなり続ける。
―逃げろ
―逃げろ、ニゲロ
一瞬、静寂の中で響いた物音に、カルネラの手を引いて駆け出す。
「―!」
そんな行いは無意味だと分かっている。分かっているがそれ以外にどうすればいいのかが分からない。だから全速力で走り抜ける。それしかできないかのように……だが、それすらもできないのだと知る。
「逃げられるわけないだろ?」
目の前に佇む男。駄目だ…逃げ切れるわけがない…死んでしまう……
「キョウスケさんっ!」
目の前が真っ暗になった瞬間、カルネラの声に引き戻される。必死な顔が目に映る。
そうだ、まだ諦めるには早い。まだ何もしてはいない。
カルネラに頷きを返したとほぼ同時にその手を強く引かれる。少しからだのバランスを崩しながらも、どうにか倒れこまずに足を踏ん張る。視線を元に戻せば、俺の前に立つカルネラの背中が目に映った。
「絶対…キョウスケさんには手出しさせない」
まっすぐと男を見据えながらカルネラは構える。だが、男は微動だにしない。少しだけ考えるそぶりを見せ、納得したように笑みを浮かべた。
「キョウスケ…そう京右だ…、確か契約者の名前だったな」
「―っ!」
カルネラと俺はほぼ同時に息を呑んだ。男の視線が俺に定まる。
「キョウスケさんっ、逃げて!!」
それは叫び声に近かった。声とほぼ同時に駆け出したはずの俺の体は…その場に倒れこむ。
「―っぐ」
その衝撃に眉を潜めた。だが気がついていなかった。それよりももっと…恐ろしいものが迫っているのだと…
「キョウスケさんっ!!!」
その声が、意識が途切れる前に聞いた…最後の声だった。
そっと目を閉じた。もうすぐ夜が明ける。アーシェラは祈るように手を組み、跪く。
フェルデナントが出て行ってから、アーシェラはずっとこの場所で考えていた。自分にとって悪とは何なのか、自分にとって戦う理由は何なのか…
「…全ては神のお心のままに…」
心にずっと植えつけてきたその信念。それが正しいのだとずっと言い聞かせてきた。否、正しいと信じていた。けれど、『…他人の言葉で簡単に折れるような信念なら捨てろ』そう言ったフェルデナントの言葉が頭から離れない。本当に折れてしまったのだろうか?たった一言で、簡単に折れてしまったのだろうか?ずっとずっと…戦うと決めたあの日から…誓ったはずなのに。
「私はどうすればいいの…ルイス」
泣き言など、ずっと言わなかった。
神に選ばれたのだと…その日から、自分を捨て、家族を捨て、ただ神の為だけに生きてきた。
「全て無駄だったの?」
思えばあの日、あの剣を手にしていなかったなら、どうなっていただろう。
ただ普通の少女として、生きて死んでいたならば…愛しい人を失う事もなかったのだろうか?
「…私はっ、何の為に戦えばいいのっ!」
遠い昔、神のために全てを捨てた。だからこそそれは絶対であり、同時に自らの存在意義でもあった。ここで神を切り捨てたとすれば、過去にアーシェラが失った全てのものは無意味にすら感じられた。
自分の過去を無に返すことなどできない。それには失ったものが大きすぎる。大切なものを全て失って手にした剣を、捨てるなんてできない。
「こんな事…私は望んでいなかった」
その剣を手に取ったのは大切なものたちを守るため。それは決して多くではなかった。
「…ルイス」
ただ一人、たった一人を守りたいが為だった。
その為に全てを捨て、その剣を手に取ったのに……
「どうして、貴方はいないの…」
誰も傍にはいなくなっていた。
遠い遠い昔の話。
アーシェラ・シルバニアは小さな田舎町に生まれ育った普通の少女であった。人より少し信仰心の強い面はあったが、それも他者とそう大差を付けるような問題ではなかった。そんな普通であったはずの少女の運命を変えたのは、本当に些細な出来事からであった。
12月24日、アーシェラの12の誕生日に運命を変えるその男は尋ねてくる。
その日、アーシェラと両親はささやかながら誕生日パーティーを行なっていた。パーティーと言ってもそんなちゃんとしたものではない。いつもと変らぬ夕食にケーキ代わりの菓子パンがあるだけ。それでも幼いアーシェラにとっては雰囲気と特別な日だという気分のスパイスだけで、十分なパーティーになる。ただ幸せな気分を味わいながら、アーシェラはその日を終えるのだと思っていた。けれど、星が空を覆う時間帯になった時、一人の来訪者が訪れる。
軽く叩かれた扉を開けたその先に立っていたのは、一人の神父であった。信仰心が強かったアーシェラにとっては、その姿だけでも自然と安心してしまう。神父は一度深く礼をした後、その視線をアーシェラへ向けた。
「はじめまして、私はクレイルと申します」
少女に向ける自己紹介にしては少しかしこまり過ぎた印象を与えるそれに、アーシェラは同じ様に頭を下げる。
「こちらこそはじめまして、アーシェラ・シルバニアと申します」
アーシェラのその言葉は少しばかりませた感じを漂わせる。それでもクレイルは変った様子もなく、更に優しく微笑んだ。
「思った通り聡明な子ですね、私の目に狂いは無かったようで安心しました、アーシェラ」
そう言ってクレイルは一度アーシェラから、その両親へと視線を移した。
「私、教会から参らせて頂きました。クレイル・オーズウェンと申します」
「教会?」
鸚鵡返しに返事を返したのは両親。アーシェラは神父なのだから教会から来るのは当たり前だなどと思っていた。
けれどそれはアーシェラが事を知らない子供だったからからという事…
教会は、神の使者として信仰を深め、広めるだけでなく……悪魔や吸血鬼と行った者達と戦う組織でもあった。
「アーシェラ…私は貴方を迎えに来たんです」
「私を…?」
クレイルの言葉に素直に首を傾げる。意図が掴めないでいた。
「そうです…貴方には素養があるから…」
クレイルの言葉は事実であった。アーシェラには教会に入るだけの素養が備わっている。ただこの時まで誰一人それに気が付かなかっただけだった。
「私と一緒に…来て下さい、アーシェラ・シルバニア」
優しく差出された手…それがアーシェラの運命を変えた。
まるでそうなる事が運命だったかのように、アーシェラはその手を取ってしまった。
そしてこの日から、全ては始まったのだ。
後日、教会総本部に連れてこられたアーシェラは圧倒されていた。
この時、まだアーシェラは12になったばかりの普通の子供なのだから、それを目にすれば当然の事だった。高く聳え立つまるで城のように立派な教会。一瞬にしてその美しさにアーシェラは心を奪われる。
「すごい…」
やっとの事で口に出来たのはそれだけだった。そんなアーシェラの様子にクレイルは薄く笑みを零す。
「さぁ、行きましょう…貴方を待っている仲間がいます」
そっと手を引かれるまま教会の門を潜る。不思議と緊張はしなかった。どちらかといえば好奇心というのだろうか、その方が大きい。
「仲間ってどういうことですか?」
よくよく考えればアーシェラは教会の事を殆ど知らずに来たに等しい。だからこの時はまだ知らなかったのだ。自分が悪と呼ばれる者達と戦うなど……
「そうですね、その話は皆がそろってから…ということでよろしいですか?」
そう優しく微笑みを返されて、それ以上は聞く事が出来なくなってしまった。
暫く歩いて着いたのは少し大き目の広間だった。扉を開けた正面には大きな天使の像が立ち、ステンドグラスから射し込む光は柔らかく美しい。思わず息を呑んだ。
「シファン!ルイス!いないのですか?」
アーシェラの先を歩くクレイルが部屋を見渡しながら声を上げる。何度か声を上げて、やっとその姿が現われた。
「あ、クレイルさん帰ってきたんですね」
ひょっこり顔を出したのは、アーシェラより少しだけ年上だろうか、色素の薄い金髪が少しはねついている。くりっとした目の、まだ幼い顔立ちをした少年だった。
「シファン、ルイスはどうしたんですか?」
「えーっと…それが待ちくたびれてどっか行っちゃったみたいなんですよねぇ…」
シファンと呼ばれた少年が、クレイルの問いかけにばつが悪そうに答える。決してシファンが悪い訳ではないのだが、何となく言い辛いのだろう。
「全く…まぁいいです、先にシファンには紹介しておきます」
クレイルがした小さな手招きに答えるように、アーシェラはその側まで歩み寄った。並んでみるとアーシェラの小柄さが目をひく。シファンも小柄な方なのだろうが、アーシェラはそれより一回り小さかった。
「彼女がアーシェラ・シルバニア…私達の新しい仲間です」
「よろしくお願いします」
クレイルの言葉に続いて、アーシェラが丁寧に頭を下げた。それにつられるようにしてシファンも頭を下げる。
「こ、こちらこそお願いします、シファン・マネリーです」
簡単な自己紹介を終えるなり、クレイルがシファンに目を向けた。
「ルイスを探さなければいけませんね…手伝って下さいシファン」
「あーはい」
ルイスがフラフラと出ていってしまったのを見過ごしていたシファンに断れる訳もなく、有無を言わさぬ形でその言葉に頷いた。
「アーシェラはまだここを良く知らないのですし、待っていて下さい。出来る限り早く見つけて戻ってきますので…」
アーシェラは素直に頷く。別に待つ事自体は苦痛でもなんでもない。こんな美しい場所で待っていられるのならば全く構わないと思っていた。
「それでは、行ってきますので」
言うが早いか、クレイルとシファンは揃って部屋を出ていってしまう。
一人ぽつんと残されたアーシェラは静かに当たりを見渡す。やはりその目に一番焼き付いたのは美しい天使の像だった。その像の前でアーシェラは静かに膝をついて、祈りを捧げるように手を組んだ。
「神の御加護があらん事を…」
目を閉じて、暫く神に祈る。これより先、神が全てを見守っていてくれるように、誰も傷つかぬように…そうアーシェラは祈った。
そして再び目を開き、座って待っていようと振り返った瞬間、一人の男と目が合った。
アーシェラより五つ程年上だろうか、背も高く顔立ちも幼いものではなかった。銀の色をした髪をばさばさと無造作に掻きながら、静かに歩み寄ってくる。
「……」
無論アーシェラにはそれが一体誰なのかは分からない。けれど男は迷う事なくアーシェラの前で立ち止まった。
「…お嬢ちゃんが、アーシェラ・シルバニア?」
半信半疑で問い掛けられた言葉に、頷くとその男は驚いたように目を見開く。それから暫くアーシェラの姿をまじまじと見つめた後、たった一言だけ呟いた…
「ちっさっ…」
その瞬間アーシェラの頭にまるで石でもぶつかったかのような衝撃が走った。当然ながらショックを受けただけなのだが…あまりにショックが大きすぎてついアーシェラは手を上げる。
「――!」
パシンッという大きな音が響き、アーシェラの手は男の頬を叩いていた。
それが最悪とも呼べる出会い。
彼こそがもう一人の仲間であるルイスだと知ったのは…その少し後の事だった。
男の名はルイス・レント。それがすぐ今の事だと分かる程、彼の頬が腫れていた。アーシェラとルイスが互いに自己紹介を終えたのは、本当に先程…それからというもの、ずっと気まずい雰囲気が流れている。
「まぁ…あえて何があったのかは聞かない事にします」
「いや、そこは普通聞くだろ!!」
冷静にそう言ってのけたクレイルに激しく突っ込みを入れたのはルイスだった。
「どうせ聞いてもろくな事じゃないのは分かりきっていますし…時間の無駄でしょう」
傍目から見ていても分かる程にクレイルはルイスに対して冷たい。すっぱりルイスの抗議の声を切りさって、クレイルはアーシェラに向き直る。
「アーシェラ…貴方に話しておかなければならない事がいくつかあります」
ふと優しいながらも真面目な顔つきになったクレイルにアーシェラは無言のまま頷いた。
「まず、この教会という組織について…アーシェラは神に祈りを捧げ、人々の懺悔を聞き、迷い人を導くのが教会の、神父達の役割だと思っていますね?」
「…違うのですか?」
純粋な疑問だった。アーシェラはそれこそが教会の役割だと思っていたし、事実殆どの人がそう思っているだろう。
「勿論それも…教会の役割です。でも実はもう一つ…重大な役割を持っているんだよ」
まるで秘密の話でもするかのように、クレイルは口元で指を立ててみせた。
「それが悪といわれる者達から人々を護るという役割、神の使者として神の代りに悪を裁く存在…それがもうひとつの教会の姿なんです」
「悪を…裁く……」
鸚鵡返しのようについ呟いてしまった。そんな言葉を聞いても急には理解できない。アーシェラはそれが「悪」とはなんなのか具体的なものを知らないせいなのだと思った。
「アーシェラ、我らが敬愛する神や天使がいるように…悪魔やその類の者達も存在しているのです」
瞬間的に、それが悪なのだとアーシェラは理解した。信仰心の強さからか、同時に納得もしたのだ。
「我々はエクソシスト、魔を狩る神の使者なのです。そして…貴方にもその素質がある」
素質と言われても、いまいちピンとはこなかった。何の変哲もない村で育ち、生きてきた自分に何があるというのか…アーシェラはそう思うが故に返事が返せなかった。
「神を思う心…それが本物であるならば、ほかに必要なものなどないのですよ、だから安心して下さい…アーシェラ」
神を思う心、アーシェラにとってそれは揺るぎ無いものだった。だからその言葉に今度は頷く。神を思う事なら、敬愛する事ならば自分にも出来る。そう思ったから…
「私に…出来る事があるなら…」
恐る恐るながらアーシェラは言葉にする。その時、正直に言えばまだ見ぬ悪という存在を恐れていた。しかしそれも当然の事…この時アーシェラは、まだ12の少女だったのだから……
アーシェラが教会に来てから、一年の時が流れた。
その間にアーシェラが知った事、それは悪魔やその類の者達が実際に存在するという事。そして人知れずその者達の犠牲になっている人々がいる事。
はじめて悪魔と対峙した時の事をアーシェラは一生忘れないだろうと思った。
床や壁に飛び散った血、鉄の臭い。千切れた肉の断片、そこからこぼれ出した臓物。そして皮膚の剥ぎ取られた首から下のない頭を持った悪魔が一人、楽しげに笑いながら佇んでいた。それがアーシェラがはじめて悪魔と対峙した時に見た光景。
目の奥が痺れた。声が出なかった。足が動かなかった。初めて恐怖をその身に感じた瞬間だった。
その時、動けなくなったアーシェラを助けたのはルイス。その瞬間からそれまでアーシェラがルイスに持っていた苦手意識は消え去り、違う意識が生まれ始めた。
「またそんな所にいたのね…」
空を見上げる様にして声を上げたのはアーシェラ。正確に言うなれば空を見上げている訳ではなく、屋根の上にいるルイスを見てのことだった。
「なんだ?何か用か?」
「別に用なんてないけど…」
ただ目に付いたから声をかけた。そんな風にアーシェラはそっぽを向く。そんな様子を見て、ルイスが屋根の上から飛び降り、アーシェラの前に立つ。
「何よ?」
目の前にたたれてしまうとアーシェラは完全にルイスを見上げなければならなかった。それほどに二人の間には身長差がある。
「いや、相変わらずちっせーなーと思っただけだけ」
アーシェラの頭に手を置いて、馬鹿にしたような笑みを浮べたルイスに、むっとしてその手を払いのけた。
「っ失礼ね!伸びてるわよ!………三センチぐらいなら」
最後の最後だけ声が小さくなってしまう。この時のアーシェラの身長は一四〇センチ程しかなかった。まだ年が年なのだから仕方がないとは思いつつも、ルイスの一言以来コンプレックスになってしまっている。
「もう少しこう…成長してもいいと思うぞ」
それは色々な意味を込めての言葉だったのだろうが、アーシェラにそれが伝わる訳もなく、ルイスのそれは嫌味にしか聞えない。
「そういうルイスは人間的に成長したほうがいいと思うけど?」
ふんっと嫌味ったらしく口にしたアーシェラは、どこからどうみても反抗期の少女のようだった。だからついルイスは笑ってしまう。
「な、何を笑ってるの!?」
「いや、これでも我慢したほうだ、許せ」
一度笑い出したせいでとまらないのか、ルイスは言いながらも笑い続けている。それに一層顔を膨らませたアーシェラ。
「み、見てなさいよ!後何年かで驚くような成長してあげるんだから!」
まるで宣戦布告のそれを笑って受け止める。数年経てば、アーシェラは驚くような美人になるんだろうなとルイスは密かに思う。
「楽しみにしてるぜ、アーシェラ」
正直な感想として返せば、アーシェラは驚いたような顔をした後、やはりそっぽを向いてしまった。
(…変な気持ちだわ)
ドキドキと動悸を繰り返す胸を抑えながら、アーシェラは俯く。
いつの日からか、ルイスに惹かれていた。認めたくないけれど自身気がついていた。
ルイスを失いたくないと…目に焼き付いて離れないあの光景のようにだけは絶対にさせたくないと…
そしていつからか、それがアーシェラの戦う理由になった……




