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自称勇者


 わめき散らすだけしか出来ない脆弱な生き物だな。


 それが私の彼等に対する認識だ。


 かつての王や勇者、英雄と呼ばれた者たちと比較するのは哀れに思えるほど。


 「魔王」と呼ばれている私のレベルよりも遥かに低いレベル70。


 此処に来る途中の森には、90レベル近い魔物たちが徘徊しているはずだが…魔法を使って移動してきたのなら戦っていないのだろう。


 私の城には誰も居ないし侵入は容易いだろう。


 それにしても…



 (一体何時までしゃべっているのやら…)



 頭の中がお花畑になっているとしか思えない勇者とお供の女戦士。


 その間に割って入ろうと神官と魔法使いが目つきを悪くしている。


 いずれも女性であり、彼等の恋模様は随分とドロドロしていそうだ。


 視線を動かして暇そうにあくびをしてみても反応は無い。


 何故だろう。物凄く寂しい。



 相手にされないと言うよりは視界にすら入っていないのだろうか。


 彼等は自分達の世界に浸りすぎて周りの騎士や魔法使い達が剣呑な表情になっていくのに気が付いていないのだろう。


 現在の国王はかの王の子孫に当たる男だ。


 思慮深く、魔法に秀でた名君だと聞いている。


 その国王が勇者一行に同行させたのだろうが、何とも可哀想なものだ。


 自分達が先制攻撃を仕掛けたいのは山々なのだろうが肝心の勇者様が戦闘どころではないので動けないのだろうな。


 全く持って現国王も見所が無い。


 否。彼を勇者に選んだ神こそ、人間を見る目が無いのだろう。


 恋にうつつを抜かす男より、国の為、民の為に身を盾にする騎士のほうが余程勇者らしい。


 私個人は侵略やら略奪等々には興味ないが、私の配下と思われている魔物たちは人間に並々ならぬ興味があるようだ。


 暇さえあれば街に下り、美しい人間に化けて誰かを惑わして遊んだり。


 時には一人の人間と本気の恋に落ちてしまったりと色々な話がある。



 そう言えば…。


 最後まで私に仕えようとしてくれた悪魔(魔物の上位種)も人間の男と恋に落ちていた。


 人間界の様子を見に行くといったきり姿を現さなかったが、30年近くたって人間と連れ立って私の前に現れた。


 くすんだ金色の髪の女へと姿を変えて生活をしていたらしい。


 連れの男とは「冒険者商会」なる場所で知り合い、共に戦闘を行う仲だったとか。


 男は長年連れ添った相棒である女が魔物であると知っても裏切らなかった。


 何故だ、と問う私に男は苦笑した。



 「ずーっと一緒に居たんだぜ? 何か隠し事があるくらいは覚悟してたさ」



 そう言って肩をすくめながら「まさか悪魔だとは思わなかったがな」と零すと金色の悪魔は目に見えて視線を彷徨わせた。


 挙動不審になる女が愛しくて堪らないのか。


 男は優しく魔物の肩を抱きしめ、その額にそっと口付けた。



 私に仕えていたときには見せる事の無かった優しい微笑みをする魔物を眺めて、思わず溜息をついた私は悪く無いだろう。


 夫婦として成立しているのかどうかは不明だが幸せそうな表情に言いたい口を閉じた。


 私が何を言おうと彼等が愛し合っている事実は変わらない。


 最後まで残ってくれていた彼…いや、今は「彼女」になったのか。


 彼女が幸せそうならそれでいい。


 二人が人間社会に溶け込めるかどうかは私が心配する事ではない。


 彼等自身が解決しなくてはいけない事柄なのだから。



 (結局、あれ以来彼等の姿は見ていないが…)



 魔物の寿命は無いに等しい。


 致命的な怪我を負わない限り魔物を殺すことは出来ない。


 だけど人間と恋をした魔物は慕っている人間の男に寿命を合わせているに違いない。


 人間の時間は短い物だ。魔物である彼女は早すぎる夫の死に耐えられたのだろうか。


 連絡を取らない、覗き見をしないと言う約束をしたのだ。


 私が心配して覗き見ようものなら怒られてしまうだろう。


 幼少期から傍に居た友のような存在から怒られるのは意外と堪える。



 「勇者様~」


 「大丈夫! 君達はこの命に代えても守ってみせる!」


 「「キャア―――ッ!!」」



 甲高い嬌声だ。耳障りな事この上ない。


 まぁ私はまだ良い方だろうな。


 距離が離れているから耳が痛くはならないし、鬱陶しくもない。


 勇者の近くに居る護衛の連中は大変そうだが…。


 さすがに私を殺そうとする相手を助けてあげるほどお人よしでも…ああ、私は化け物だから当てはまらないか。



 疲れたように溜息をつく私に気付きもしないことを注意すべきなのか。呆れるべきなのか。


 勇者…。


 そう称される者達は幾人も目にしてきたが、目の前の男のように緩みきっている奴は初めてだ。


 敵である私など視界に入っていないかのように振る舞っている。


 …あんまり長居されても困るから適当に奥地にでも転送するか…?



 「……魔王陛下は変わりませんなぁ…」


 「ん?」



 騒いでいる勇者達に意識を集中させていたとは言え、この私に気付かせずに近付くとは…どうも厄介な人間が幾人か混じっているようだ。


 しかも話しかけてきた相手は「変わらない」と言った。


 面識があるのか? 私の記憶には無いのだが…。



 「覚えてない様子ですな」


 「ああ。全然覚えていない。何処かであったか?」


 「お会いしましたとも。…随分と前になりますが…。此処に遊びに来た王を覚えておりますかな?」



 話し方は記憶に無い。


 だが…。



 「…見事な銀髪だな」


 「はい」


 「以前もそう言って褒めた記憶がある」


 「初めてお会いした時も魔王陛下は私の銀髪を気に入って下さいましたなぁ」



 初めてあった時は「臆病者」だと思った。


 脆弱な身でありながら己が主を守ろうとする心根に目を細めた。



 「そうか…。あの時の魔法使いか。随分とまぁ、大きくなったじゃないか」


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