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独白


 ※主に一人称で話を進めていく予定です。

 ※一応読みやすさを重視して書いています。

 ※支配者様は戦闘は苦手です。でも殲滅戦は得意です。




 正直に告白しよう。


 私は大層暇だったのだ。


 誰も訪れる事のない深い毒霧に閉ざされた空間で何もする事が無かったのだ。


 統治するべき民も居らず、世話をすべき家畜たちは存在しない。


 一息吸い込んだだけで生き物を死に至らしめる猛毒は他者をきつく拒む。


 私自身。本音を言えば人付き合いは苦手だ。


 何を話していいのか分からないし、相手の顔色を伺うのは得意ではない。


 それでも人並みの感性は備わっているつもりだ。


 私だって何処にでも居る人間と同じだ。


 只一つ、化け物じみた力さえなければ…。


 それさえ無ければ多くの人間と同じように他人の顔色を伺い、断りたい案件であっても無理を通して受け入れるのだろう。


 だが、私には力がある。


 我慢などする必要は無い人間に他者と同じように顔色を伺い続けるのには無理があった。


 苛立つ気持ちを抑える気持ちもすぐに消え去り、実力行使で相手をいいようにしてしまう。


 人間としては最低の行為なのだろうが弱肉強食の理を持ってすれば充分に受け入れられる考えだろう。


 強い者は強い。弱い者は弱いままで終わるのか、それとも力を得ようと動くのか。


 全てはそこで決まってしまうのだろうと私は思う。


 強者が生存競争の最上位に胡坐をかいて座っていれば力と智恵を持った下位の者たちに引きずり落とされるのは分かりきった事だ。



 だが、強者は必要以上に強くなってはいけないとも考える。


 強すぎる力を持つ者がいくら理性的だと理解してはいても、どうしても怯えは出てしまうだろう。


 もしかしたら強者を利用しようとする者や亡き者にしようと画策する者も出てくるに違いない。


 私はそこまで頭は良くないし、難しい事は分からないから利用はし易いだろう。


 けれど人間達は私には手を出そうとはしない。


 化け物と蔑みこそすれ、直接的な接触は避けている。



 「…つまらない」



 そう。私の心情はそれ一つ。


 真っ黒な毒霧と大量の魔物の存在が彼等を遠ざける一因となっているのだ。


 かと言って私が此処を離れるわけにはいかない。


 猛毒を含んだ霧が周辺の町に流れていかないように結界を張り続けなければいけないからだ。


 …別に強制されているわけでもないし止めてもいいはずだ。


 それでも私は此処を動かない。


 否。「動けない」が正しい表現だろうか。



 人間と言う生き物は恐ろしい物なのだ。


 感情があるが故に輝き、心があるが故に他者を慈しむ事が出来る。


 それだけを見れば素晴らしい生き物のようにも感じられるが、人間と言うのは様々な一面を持った生き物なのだ。


 心と言うものがあるが故に他者を憎み、ねたみ、虐げる。


 感情と言うものがあるが故に怒り、悲しみ、そして時には些細な優越感のために異種族を滅ぼす。


 人間全てがそういう訳ではない。


 苦しみながらも他者を受け入れ、許し、笑いあう。


 己が苦しいときに助け合えるのも人間だけだ。


 自分を省みず戦闘に身を投げる人間も居れば、金のために他者を蹴り落とす愚か者も居る。


 それが人間と言う生き物なのだ。


 感情と心に左右される不安定な人間たち。


 私は彼等が大好きだ。



 小さく笑みを作ってから思い出す。


 随分と前に馬鹿な事をやっている王がわずかな手勢を率いてやって来た事があった。


 王は連れてきた魔法使いに結界を張らせながら私の前にやって来て言ったのだ。



 「女。お前が此処の主なのか?」



 脆弱な人間でありながらも尊大な態度を崩さない王。


 背後で控えている騎士たちの鋭い視線。


 王宮魔法使いだと言う男の苦しそうな顔。


 その全てが滑稽でならなかった。



 「ふふふ…」


 「……何が可笑しい?」


 「いや、何でもない。随分と賑やかしい人間が来たからね。少し驚いただけさ」


 「ふんっ。当然だな。俺は王なのだからな!!」



 腕を組んで踏ん反り返る王が反り返りすぎて倒れそうになった。


 それを表情一つ変えずに騎士が支えたときは目を丸くした物だ。


 何せその騎士は「よく支えられたな」と言う私の言葉に「慣れていますので」と答えたのだ。


 コレを笑わずして何を笑えと?


 大声で笑い出す私に王は気分を害すどころか嬉しそうに言った。



 「ほほう! お前も生きて居るのだな!! 俺の反り返りを見て笑わなかった生き物は魔物と魔族ぐらいなものだ! では俺は帰るぞ!! 邪魔したな女!!」



 カラカラと喉を鳴らして満足そうな王に私は尋ねた。


 「一体何をしに来たのか」と。


 その問いに王は上機嫌でこう答えてくれた。


 私にとって今でも宝物になっている言葉。



 「楽しい時、面白いとき。人間と言うのは笑うものなのだ。そして、女。お前もまた人間のように笑って見せた。それはつまり、お前の見た目がどうであろうと立派な人間だという事だ」



 王は隣国として存在している私の領土を訪れた。


 彼等は少数でありながらも国では精鋭と呼ばれているものたちばかり。


 隣国である私の国の良い噂を聞いたことが無かった王は、自分が退位する前に調査に乗り出したそうだ。


 退位しても自分の代わりが居るので後先考えずの行動だったらしい。


 王は私の国に入った瞬間に眉を潜めたそうだ。


 深い毒霧に覆われた大地で生きているものは居らず、生えている木々も(自身からは攻撃をしないが)魔物ばかり。


 やはり噂は本当だったのか、と考えが纏まりつつあった所で私と会った。


 王は大層驚いたといっていた。


 どんな化け物が出てくるのかと構えていたところに私のような人型が現れたのだから。


 それでも騎士や魔法使い達は警戒を怠らなかった。


 見た目だけで判断してはいけない事を彼等は知っているのだ。


 だが、そんな考えは私と話して消え去ったそうだ。


 自分達よりも強い力を持ちながらも話は通じる人間の女のような姿の支配者。


 王が笑わせようとした場面で実に楽しそうに笑っていたのが決定打だったそう。


 私は彼等に話の通じる人間と同じ感覚を持った化け物として認められたのだ。



 「だが俺の国でのお前の噂は消させんぞ?」


 「それで構わないよ。私は恐ろしい強者として畏れられているほうが楽だからね。人間同士の面倒な諍いには関わりたくないよ」


 「だろうと思ったわっ!」



 子供のように歯を見せて笑う王に私は言葉も無かった。


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