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つぎはぎ少女のモノロオグ

作品名:つぎはぎ少女(ガアル)のモノロオグ

作者名:休駄 店

 それは一本の裁縫針(さいほうばり)から生じた点。

 彼女の肢体(したい)を線として結ぶ、僕の視点と僕が刺した一本の針、あるいはその点。句読点はこの『点』の限りではない。

 これらは官能的(センシユアル)ではなく観念的(コンセプチユアル)に考えればいいし、貴方(あなた)はこれからもその姿勢を保ち続ければいい。そもそも此処に(つづ)られる言葉には、受肉(インカネイシヨン)に能うほどの力はないのだし、仮に彼女が肉体を持ち貴方の目の前に現れたとしても、僕はそうなることを望んではいないのだから。

 さて、つまりは至極一元的な存在(エゴ)としての点は、酷く二元的な方向性(スウパアエゴ)としての線を包括する。線が点を含むのでは決してない。そのように感じることは、僕の沼人間(スワンプマン)と彼女の哲学死屍(ゾンビ)を等しく見ることと同値である。

 以上の思惟(しい)を、脳幹(ブレインステム)上の死霊魔術師(ネクロマンサア)により代弁させるのであれば、一つの恋愛小説(ラヴストオリイ)が此処に打ち込まれるはずだ。この恋愛小説を詩歌(ポエトリイ)空想科学小説(サイエンスフイクシヨン)などと好きに置き換えてくれても構わない。

 異なる名称(リミツト)を持つ同じ物語は、帰納効果(ドロステこうか)の満ちた(たが)う口から響き合い、発振現象(ハウリング)を引き起こす。

「僕は大きな神様である」

「彼はマアナ・ユウド・スシヤイである」

「僕はいかれた妄想家である」

「彼はサイコ・ロマンチストである」

 その時の僕と彼女は、自身の寸刻前の姿を見つめている。音は波として、僕らを中心に円を描く。

 詰まるところ、この(つぶら)が現在の世界である。



「これから話すことを先に要約すると、僕としての意識は自我、超自我、外にある何か(エス)を内包する心を中心点として順に広がりゆくということだ。家族、親せき、近所の人々、友達、市、県、地方、国、大陸、全世界、地球、太陽系、全宇宙、ありとあらゆる存在等々(エトセトラ)という具合に」

「パラドキシカルな思索を繰り返せば、私としての観点はビイイング、ユニバアス、アアス、ワアルド、インタアナシヨラル、コンチネント、カントリイ、リイジョン、プリフアクチヤア、シテイ、フレンド、ネイバア、リレイシヨン、フアミリイ、そして、彼という特異点に遍在しているということ」

「要約終了」

「ハウリングが始まる」


「僕は内側から見つめる僕自身である」

「私は外側から見つめさせる彼自身である」


 ――円の広がりは無限大なのに対して、僕らの意識が及ぶのは数字でさえ表せてしまうような狭い範囲までにしか過ぎないんだ。

「物語の始まりは僕が口を開いた瞬間。学校の屋上で、僕と彼女は対面している。閉鎖(ユウクリツド)空間としての鉄格子。無限遠点へ伸びる影法師。此処で僕と彼女は、男子生徒と女子生徒の記号(サイン)だ。彼女はお似合いの受信機(ヘツドフオン)を耳に掛け、およそ十数歩先の音波変換機器(マイクロフオン)と約二十数歩先の僕を、視線を上げ下げして交互に見ている」

 ――あなたは真性のロマンチストなの。

「ここで補足するのならば、私とマイクロフオン、そして彼はリニアに結合している。加えて私とマイクロフオンとの絶対距離は十三コンマ二十五メエトルであり、彼との絶対距離はその二倍である。詰まる所、視覚情報も含めた、彼のフアイブセンスによる知覚でさえも、私に処理し直されるデエタに過ぎない。秒数以下を省略した現時刻は午後六時三十二分。以降もこのように口述する。私はヘツドフオンを両手で把持(はじ)し、能動的に瞬きを三度する。計三百六十四ミリ秒の暗幕は、ロジカルからフイジカルまで多面的に見ても誤差とは見なされない。むしろこれは補完品である」

 ――そうだ。僕はどうしようもない妄想家(ロマンチスト)だ。そうであるからこそ僕は、君と向かい合い、意識できる部分(フイイルド)を広げていかなくてはいけない。

 ――知覚不能のフイイルドをあなたは、恋愛や青春などと呼ぶ。

「僕は彼女の仏頂面に答えるように笑う。おそらく彼女も、無表情の奥底では見えない笑みを浮かべているに違いない」

「ところで私は、およそルウチン的に張り付いた無表情を払拭しようとは考えていない」

 ――でも、古い時間軸に起きた出来事を思い起こして、自慰に浸ることはしないよ。僕は。屍体性愛者(ネクロフイリア)ではないんだ。自分の動かない身体を見る視点に、半ば欲情してしまうことは否定できないけれど。

 ――つまり、このお話はナルシシズム(自己愛)と戦う物語。

「僕は深く頷くように視線を落とし、どうしても動かない肢体に歯を噛み締める。そういえば彼女もそれに憤慨しているように思えた。夕焼けに照らされるがままの艶めかしい肉体。未開拓の白い扇状形に眩暈を覚え、このまま不可視の力に支えられていなければ倒れてしまうだろうと感じた」

「シニカルに客観視すれば、私と彼に働く力で代表的なものはグラビテイとアトモテイツク・プレツシヤアの二つであると口述できる。その他は言葉なき力学的なエネルギイである。言葉がないということは意識する理由のないものであるということだ。私は示唆するために右手の指を鳴らす。それでも、未だに足元のコンクリイトを見つめる彼を私は視認し、二度瞬きをした。表情は変えない」

 ――さて、君は何処にいるんだい?

 ――私は遍在する。だから、此処にはいないの。

「それから流れる沈黙の間、僕は彼女に反射して映える夕日がとても眩しく感じられた」

「以後、彼は平均して毎秒八回の瞬きを最後まで続ける。それでも、アデイイ症候群を発症しているわけではないのだ」


「えこお。物語を繰り返す」

「エコオ。ストオリイをリピイトする」


 ――それでも、君は確かに此処にいたんだ。

「持続的ではなく、むしろ間欠的な想起(リコレクシヨン)において、僕は妙な連続性を核融合菅(ダスク)から冷陰極管(ナイト)に見出す。『美醜』などという二面性を孕んだ真夜中の繁華街。おそらく僕らと別次元にあり、これ見よがしに目の前の車道上に浮く音波変換機器(マイクロフオン)。この観測方法はおよそありふれたものだということを自覚しながら、僕は対向車線に佇む彼女を見つめていた」

 ――プソイドロギア・フアンタステイカに彩られたあなたの眼差し。虚実だなんて! 口にしないで。

「現時刻は午後十一時十三分。此処で対面するのは五コンマ六メエトルの間隔を保つパラレル。街灯としてのネオンが瞬く私の世界、廃れた商店街をバツクグラウンドに持つ彼の世界。片目を瞑り、バアテイカルに位置する彼のセンスは、私たちを立体視することなど叶わないのだ」

 ――そんなこと言われたら、僕は全ての台詞を失くしてしまう。

 ――分からないわ。シアタアにいるわけではないのに。

 ――うん、そうだよ。僕らがこの場所にいる意味も、僕自身には既知のものさ。僕は全てを理解して、あえて此処にいるんだ。

開放(ルウマン)空間にあてられた僕の肉体は、ちりちりばらばらに変化してしまうのを今か今かと待ち焦がれていた。普通自動車や大型自動車などの名称を持つ量子が目前を横切る最中、色彩に塗りたくられた彼女の裸体を僕は見ていた。彼女の股下を通り過ぎる『汚濁』。紛うことなき恒常的な欠損(ノイズ)。僕はやはり、点と線を見ていたのだ」

 ――ごめんなさい。私にはそんなあなたの感覚が理解できないの。

「私はその時、両手で眼を覆う彼と対峙する。言動と離れずにいる私のソフトウエア(精神)は、出所を同じくする彼のハアドウエア(肉体)とフロイト的同一化を試みる」

 ――だとしたら、厭だ。

 ――どうして?

「瞬間、酷くぎこちない微笑みを浮かべながら、車道に飛び出す彼女。その裸身と交じり合うのは、僕らの平行線(パラレル)に密着走行していた第三者としての車。蹂躙される彼女の義肢、義眼、義胴(トルソ)。僕はそれらを悲鳴の先で見ていた」

 ――理由なんてない。厭なんだ、分からず屋の君が。

「私に痛みというイメエジは存在しない。また、千切れ飛んだ頭部や四肢にさえ、連続性を保ち、コンシヤスは滞留する」

「そうして、顔面目掛けて飛んできた片腕を、僕は無意識(アンコンシヤス)のうちに手の甲で地面に叩き付けていた」

 ――不可思議なカルテね。

「私という点は、パアソナリテイを知る」


「えこお。物語を繰り返す」

「エコオ。ストオリイをリピイトする」


 ――でも、僕はこんなことを望んでいたわけじゃないんだ。

幻灯機(スライド)は僕の目の前で次々と切り替わる。白地に投射した映像が霞む頃。僕は教室の廊下側の席で、伏字(エツクス)という部類(カテゴリイ)の男子生徒と素知らぬ顔の彼女とが並んで歩くのを見ていた。長い時間をかけて、何体も認識していた」

 ――演技性パアソナリテイ障害を印字されたあなた。一枚壁の隔たりはエゴのコラアジユに必要不可欠だから仕方ないのね。

「現時刻は午前十時四十七分。私と彼との視覚的な齟齬が生み出すのは、パラレル(平行)ではないのにパラレル(平行線)であるというパラドツクス。私たちは交差点を探しているのだ。二十コンマ九ミリメエトル程度に身体を切り分けられ、破片から等身大へリビルドされ、数多の同じ私が、幾度となく彼の視界を横切る」

 ――今ではこの隔たりが遠い。なによりも遠いんだ。

 ――アネモネ? アナタハン島の女王? アニマとアニムス?

「視線を明後日の方向へ向けながら、繰り返し何度も離れていく彼女。いよいよ耐えかねた僕は、おもむろに席を立ち、手ごろな場所に位置する『彼女』の襟首を掴んだ。そしてそのまま、閉鎖(ユウクリツド)空間と開放(ルウマン)空間を分かつ一枚壁に叩き付ける」

「採掘器としての『私』は、クオリアを持つ哲学ゾンビである」

 ――題名(テエマ)はいらないよ。陰鬱さ(メランコリイ)は普遍的存在だから。

 ――いいえ、それは遍在しないわ。陳腐さをプルウフにしないで。

「『彼女』の頭が砕け、辺りに飛び散るのは本能(リビドオ)、あるいは幼稚性(デストルドオ)の残り(かす)。頭蓋骨の最奥に浮かんだなけなしの性愛(フイリア)を僕は口に含み、噛み締める前に吐き出して、次の『彼女』で壁を殴りつける」

「その瞬間、私の観測する彼のコンシヤスは、十九年と三か月の旅を退行する。タイプ上では、あくまでもアバウト・チルドレン(少年製)。『私』の唇から漏れる白濁液と果実酒の数々は、生前の彼がエスとエゴのちり紙で塞いだセキユリテイホオルを、極めて平面的に、凹凸乏しく描き出す」

 ――それでも、誰にでもあることだと思わなければ、偏在していけないんだよ。僕は。

「最も大きな外枠としての道徳や倫理(エツクス)は、確かに僕と彼女の傍らにも存在した。かの大きな神様(マアナ・ユウド・スシヤイ)。その遺伝子(ゲノム)ではなく複製子(ミイム)が半ば規定(オオト)化され、窓際の机の上からあるいは教室の扉の影から、僕の血まみれの両腕を嘲笑う。『彼』の不敵な笑みを僕は、他人(エツクス)という媒体を通して、現在進行形で見つめるのだ」

 ――ナルシシズム。

 ――それが?

 ――これが、あなたの十八番目の名前。つまり、最後の名前。

「歯茎を丸出しにして、わなわなと身を震わせる彼。その背中を舐めまわす十七の視線は、私が既に此処にいないことを示唆していた。彼のみが存在するというのに、彼以外の見方が意識されるというジレンマ。彼と最も遠い場所で浮遊する私の耳とヘツドフオン。『私』がアンコンシヤスの内に消え、彼と衝立(ついたて)だけが輪郭を保持して存在する空間の中で、彼はヘツドフオンとマイクロフオンを繋ぐコオドを手にし」


「えこお。物語を繰り返す」


 ――此処は暗闇が覆う第一層目(はじまりのいち)

「僕がこの場所で受信機(ヘツドフオン)に繋がる電線(コオド)を手繰り寄せているうちに、気付いたことがいくつかある。まず一つ目に、この物語は幾千もの階層(レイヤア)構造により成立しているということだ。この階層は単純に恋愛小説(ラヴストオリイ)空想科学小説(サイエンスフイクシヨン)などの物語の部類(カテゴリイ)という(レイヤア)だけでなく、自分の心の中の出来事(ミクロ)から|世界全体に作用する物事(マクロ)までの規模の大きさという(レイヤア)も、互いに同じ次元に存在し、堆積している」

 ――つまり、僕の性的倒錯(パラフイリア)が一種の史実(リアル)として貴方の住む町になんらかの形で現れることさえあるということだ。この現実を越えた不可思議な出来事を共時性(シンクロシニテイ)形態形成場(モルフオジエネテイク・フイイルド)仮説などと呼ぶのは勝手だが、とにかく意識しやすい形にしてもらえればそれでいい。

「二つ目に、幾千もの階層構造は僕と彼女の対話(ダイアロオグ)により生じていたということだ。秘密は僕の手元の音波変換機器(マイクロフオン)にある。これはどうやら僕たちの対話(ダイアロオグ)を記録するもののようだ。とはいえ、その記録方法は複雑で、此処で口述することは叶わない。あえて言えば、此処で表し示しているありとあらゆることが記録方法の説明そのものだということだろうか」

 ――構造が構造の仕組みそのものなんだ。

「三つ目に、僕は対話(ダイアロオグ)を記録しなければ存在しえないということだ。少なくとも此処では、独白(モノロオグ)では物語としては成り立たない。僕が今、こうして存在し足りえているのは、ある(レイヤア)に反響した彼女の声が、僕の独白(モノロオグ)発振現象(ハウリング)を引き起こしているからである」

 ――ここでの層とは、貴方の記録のことである。

「詰まる所、僕は彼女を此処に呼び戻さなくてはいけない」

 ――でも、彼女はそれを望んでいるのだろうか?

「一方で僕の心は揺れていた。一本の紐の伸びる先に限りはない」

 ――彼女を退けたのは、間違いなく僕だ。

電線(コオド)を引きながら、僕は片手間であちらこちらに散らばる『彼女』の破片を手にした」

 ――しかし、その彼女とはそもそも誰なんだろう。

「鼻、眼、骨格に認知傾向(バイアス)、温もりと処女性、彼女の好みや変化する胃の中の食べ物など。それらの部品(ヒユレエ)を、僕は垣根の崩れていた閉鎖空間と開放空間の狭間で一つ一つ単純解(パズル)のように組み合わせていく」

 ――この物語を成り立たせる彼女とは、誰なのだろう。

「そうしていくらか時間が経ち、僕は周りにもう部品が残存していないことを確認すると、意を決して電線(コオド)から手を離した。僕は空いた両手で彼女の制服をまさぐると、衣嚢(ポケツト)から一本の裁縫針と糸を取り出す」

 ――いや、最初から彼女なんていないんだ。

「僕は針に糸を通すと、組み合わせた部品と部品を縫い付けていく。破れた服だけではなく、肉と肉も、心と心も、肉体(ハアドウエア)精神(ソフトウエア)も、想起される形相(エイドス)に従い、僕の手に縫い合わせられていく」

 ――彼女は、僕自身なんだから。

「そうして出来上がる、つぎはぎだらけの彼女。もはやつぎはぎが彼女であるのか、彼女がつぎはぎであるのか分からないほどに、糸という無数の境界線(ラウンドデイ)により彼女は構成されている」

 ――けれど、僕と彼女は違う。それらを分かつものは。

「僕は半ば思い出したように電線(コオド)を強く引いた。幾千の階層を突き抜けて、僕の手元に手繰り寄せられるのは、彼女の欠落した両耳と無機質な受信機(ヘツドフオン)。僕は受信口から彼女の耳を引き剥がし、申し訳程度につぎはぎに付け添えると、取り残された受信機(ヘツドフオン)を僕の両耳に取りつけた」

 ――僕の保持する帰納性(アイデンテイテイ)なんだろう。

「すると音波変換機器(マイクロフオン)が僕の手から離れ、何処かへと消える。その瞬間、彼女は確かに微笑んだ」


「エコオ。ストオリイをリピイトする」


 ――どうやら僕は、君に性愛(フイリア)を縫い付けるのを忘れていたようだ。

「物語の事実的な再開は、僕が片手に握り締めていた小さな球体に気付いた時。学校の屋上はまだ暗く、冷陰極管(ナイト)から核融合菅(モオン)に移ろう過程(プロセス)を、僕と彼女は三十数歩ほど離れた違う端と端から見ていた。自殺の名所としてはお誂えの形状をした、いびつな鉄格子。数多の無限遠点に膨れ上がる影法師。此処で僕と彼女は、意識できる限りの最果てを見つめている」

 ――それと向かい合うにはまだまだ早すぎるようね。

「現時刻は六時五十八分。パラレル(平行線)ではなくダイレクト(一直線上)に位置する私と彼は、三十三コンマ二メエトルの距離を保ち、大きく笑い合う。私は楽しいのだ。彼も楽しいのだ」

 ――なあに、少しずつでいいんだ。先は長い。

「僕は立ち上がり、球体を思い切り手ごろな立体平面に投げつける。すると球体は綺麗な放物線を描き、恒久的な欠損(セキユリテイホオル)目掛けて徐々に軌道修正を試みた」

「それが弾けてしまう前に、私と彼は向かい合い、一歩二歩と互いに近づき始めるのだ」

 ――君は僕を外側から見つめる僕自身だと思う。

 ――私はあなたを内側から見つめるあなた自身だと思う。

 ――誰もが悲しいと思えるのは、遍在する君のおかげなんだ。

 ――その悲しさはあなたがいないと生じないの。

 ――それなら、僕と君は一緒であるべきなんだろう。

「彼女は悲しいのだろうか」

「私は悲しいのだ」

 ――今も昔も、嫌いではないの。あなたのこと。

「僕は彼女が恋しいのだろうか」

「彼は私が恋しいのだ」

 ――そう、ありがとう。さようなら。

「さようなら」

「さようなら、と彼は呟く」

 ――さようなら。

「彼女が別れを告げると、此処にはたぶん、なにもいなくなる」

「彼が消える。私も消える」


「えこお。それでも繰り返す」

「エコオ。それでもリピイトする」


 ――『これ』はある特定の条件が満たされるまで、動作を反復して実行する、という意味。①高水準言語において、形式的な命令文ドウ・フオオ・リピイト・ワイルなどが繰り返しを制御するために使用される。このような繰り返しがみられる(プログラム)構造を単一の実行(ルウプ)と呼ぶ。②ある段階の結果が次の段階への入力として使うことにより次つぎに近似解(きんじかい)を求めていく過程を繰り返すこと。このような反復過程は、誤差の判定基準が満たされたときに終了する。平方根(ルウト)を求める僕らの父(ニユウトン)の方式が有名である。

反響(エコオ)復唱(ルウプ)して」

 ――以上がここでの間違いとしてのアポオサナシア(延命的引用)である。

エコオ(残響)。ルウプして」


「えこお」

 ――ある任意点から各図形までの最短距離をデルタエツクスとするとき、面積の一番小さい図形は円である。

「エコオ」

「えこお」

 ――また、ある任意点から各図形までの最長距離をラアジエツクスとするとき、面積の一番大きい図形は円である。

「エコオ」

「えこお」

「エコオ」

 ――僕でも彼女でもない、これより先にあるのは。

「えこお」

「エコオ」

「えこお」

「エコオ」

 ――貴方という複製子(ミイム)だ。












《エコー》



 ――                  。

「                                                                                    」


 ――    。

「                                                    」

 ――     。

 ――           。

「   」

「   」



《エコー》


































                        (おしまい)


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