I dreamed.
作品タイトル:I dreamed.
作者:月兎
「あー、ねむいなぁ」
雑誌を放り投げてソファーによりかかる。気持ちいい。やっぱりソファーは欲しいな。小さいのでもいいから、こんな感じでフカフカなやつ。でも高いからなぁ。
「なになに、夜更かし?」
「徹夜でゲームでもしたとか? あんたが勉強で睡眠時間削るなんてするわけないし」
「もしかして恋煩いとか!」
「ないわー」
ぐでーっとしている私を茶化すように二人は盛り上がる。……もう少し、心配そうにしてくれたっていいと思う。そして貴様ら、私だって恋くらいするわ! 恋してセンチメンタルになるくらいするわ! いや、今回は恋関係ないけど。
「別に夜更かしはしてないよー。十二時前にはねたし」
「うわ、いい子すぎる! まぶしっ」
そう言って眩しそうに光を遮るようなそぶりをする恵里。とりあえずイラッとしたので手近にあったぬいぐるみを投げつける。締まらない顔がなんかイラッとくるキノコだ。最近人気らしい。
「わ、ちょっと!」
「こら。あたしのぬいぐるみ投げるな」
避けられた。そのせいでぬいぐるみは部屋の隅のほうに飛んでいってしまった。
「恵里拾ってきて」
「なんで私が? もー」
悠美に言われてしぶしぶと拾いに行く恵里。文句言いながらもなんだかんだで拾いに行く恵里はいい子。
「で、起きたのは?」
「七時十五分」
「そんだけ寝といて寝不足ってどういうことよ」
「や、別に寝不足ってわけじゃなくて、なんかつーか、気持ち的な感じでさ。こう、寝た気がしないっていうか……」
私は二人にここ最近見ている夢について話した。
そう。ここ最近、私はずっと同じ夢を見ている。いや、正確にいえば同じ夢ではないのだけど。その夢の中で私は〝俺〟で、ごくふつーの大学生っぽい。性別は男。年齢はよくわかんない。友達はそこそこ。とりあえず私が夢で見た限りでは。特に劇的な何かがあるわけでもなく、たぶん、普通の大学生活をしている夢。高校生の私には大学生活なんてわからないんだけどね。そんな〝俺〟の夢をここ最近続けてみているのだ。
ちなみに、その〝俺〟も〝俺〟が通っている大学も私は知らない。いったい、どうして私はそんな夢を見るのだろう。
「まぁ、そんなわけで寝た後もそんなリアルな夢を見てると寝た気にならなくてさぁ」
「男、ねぇ。もしかしてあれじゃない? 運命の相手とか!」
「ほんとそういうの好きだね、恵里は」
「だっておもろ……ステキじゃん!」
おい。私の耳にはっきりと届いたぞ。今、面白いからって言おうとしたよね恵里。じとっと睨み付けると恵里はわざとらしい感じにそっぽを向いた。しかもご丁寧に口笛まで吹いている。無駄にうまいのがむかつく。
「ま、現実的に考えると、最初と二回目はただの偶然で、それが続いたから気になって、そのせいで連続してその夢を見てるんじゃないの?」
「おお、それっぽい! さすが悠美!」
「ガチで運命の人とかだったら面白いのになぁ」
「えー。あんな冴えない普通な感じの人が運命の人とかちょっとやだなぁ。もっとこう、渋くて素敵なお」
「はいはい。あんたのオッサン趣味はいいから」
私が素敵なオジサマについて力説しようとしていると、悠美がさっき恵里に回収させたぬいぐるみをぶん投げてきた。人には投げるなとか言っておいて、自分で投げる分には許すのか。何て理不尽な。私は華麗に顔面でキャッチする。とりあえず文句を言いながら悠美に投げ返すも、悠美は危うげもなくキャッチする。くっ、勉強できて運動能力も悪くないとかずるいぜ。
「ま、所詮夢なんだし気にすることはないんじゃない?」
あぁ、また夢を見た。また、〝私〟の夢だ。ここ最近、ずっとだ。今回の夢では俺、いや、〝私〟は友達と遊んでいた。誰の部屋かはわからないけれど、誰かの部屋だったと思う。もうあやふやで、あんまり覚えていないんだがな。
一体、なんだってあんな夢を見るんだ。夢の中の人物や場所に全く心当たりがない。俺に女子高生の知り合いなんていないし、そもそも〝私〟たちが着ている制服にだってみおぼえがない。記憶にないものを夢で見ることって、できるのか? 夢っつーのは記憶を整理するとかそんな何かだって聞いた覚えがあるが。……謎だ。
こないだあのアホに相談したら「JKの夢とか羨ましすぐる。ちょっとそこかわれ」とかほざきだすし。とりあえず一発殴っておいた。反省も後悔もしてない。むしろ達成感を覚えるくらいだ。あー、家電とかみたいに殴ったらあいつのアホとか変態とか直んないかなぁ。直んないよなぁ。
それともあれか? あの夢が俺の願望とかそういったのを表していて、じつは俺は女子高生になりたいとか考えてるとか? あるあ……ねーよ。
そんな風につらつらと考えていた俺の意識を携帯のバイブが現実に引き戻した。あぁ、そーいやサークルで投稿する小説書いている途中だった。疲れたから40分ほど休憩しようって思って寝たんだっけか。
軽く伸びをする。下敷きにしていた腕がしびれて感覚がない。しばらくはペンを握れなさそうだ。
そうだ、せっかく図書館にいるんだし夢関係の本でも探してみようか。ユングとかフロイトとかしか思い浮かばないんだが。ま、その辺は検索すればなんか出てくんだろ。つーかそんなことより、先に小説の方終わらせないといけないじゃねーか。締切近いし。
あー、どっかにタイムマシンとか落ちてないかな。もしくは車でタイムトラベルとかできたりしないかな。
「で、今日も見たわけ? 謎の男の夢ってやつを」
謎の男って、なんか響きカッコいいな。そんなたいそうな感じなないんだけどな、〝俺〟。悠美の質問に私はうなずく。そう、昨日の夜も〝俺〟の夢を見たのだ。悠美に言われて気にしないようにしようと思ったのだが、そんなことを思うと逆に気になるっていうのが人間というもので、もしかしたらそのせいなのだろうか。
「今回の夢は、なんか図書館? の中にいたなぁ。うん、本がいっぱいあったし図書館だと思う。やっぱり知らないとこだったよ。なんか必死に書いてたなぁ、〝俺〟」
「へー」
悠美から振ってきたくせに興味のなさそうな返事。私が口をとがらせてぶーたれていると、教室の扉ががらりと勢いよく開いた。恵里だった。先生の手伝いから解放されたらしい。
「ようやくごっはーん!」
席に着いた恵里は鞄からご機嫌にお弁当箱を取り出す。男子が使うような、ちょっと大きめのお弁当。やっぱり、いつみてもでかい。小さい体のどこにこれだけのお弁当が入るんだろう。しかも恵里、太んないし。なんだっけ? ゲーセンで踊ってるんだっけ?
「いただきまーす!」
手を合わせると、恵里は幸せそうにご飯を口に運び始めた。よく噛んで食べている割には結構なスピードでお弁当箱の中身が消えていく。
「そーだ、今度の土曜にでも遊びに行かない? 気晴らししたい」
「お、いいね! 私さんせーい」
「あたしも構わないよ」
ご飯を食べながらふと思いついて二人に遊びに行かないかと提案すると、二人とも結構ノリノリで賛成してくれた。
「どこ行く? ゲーセン? お買いもの?」
遊びに行こうとは誘ってたけど、何をするか全く決めていなかった。どうしようか。
「そーだなぁ、サンシャインシティーとかどーよ。あそこだったら結構なんだってあるし行き当たりばったりでも結構楽しめるでしょ。」
「いーんじゃない? あたしとしてはなんかスイーツ系食べたいわ」
「私もそれでいーよー」
スイーツ……どこがいいかなぁ。まぁ、適当に回って適当に入ればいいかな。うん。土曜日、楽しみだな。
「んで、そんな感じで楽しげなお昼の時間が」
「もういい。そこまでだ」
「あん?」
急にさえぎられて俺はいぶかしげに奴を見る。どういう夢だったか話せっつったのはお前だろうに。すると奴はガタッと立ち上がり、そのままつかつかと俺の方へと歩いてきた。そしておもむろに殴り掛かってきた。
「おぅ!?」
いきなりの事で避けられない。奇襲効果により回避判定にマイナス補正……ってんなバカなこと考えている場合じゃなくて!
「とりあえず殴らせろ」
「殴ってからいうなバカ野郎!」
殴られた頭をさすりながらつい叫ぶ。周りからの視線に現在食堂にいたことを思い出した俺は慌ててトーンを下げる。
「むしゃくしゃしてやった。反省も後悔もしていない(キリッ」
「反省くらいしろ! つーかキリって口で言うな、口で。まったくキリってしてないからな」
「てへぺろ」
「うぜぇ!」
全く反省の見えない奴の様子にイラッとなった俺は今度はこちらが殴ってやろうと拳を振りかぶる。しかしこちらの思惑は気付かれていたようで、振りかぶった拳はがっちりつかまれる。そのままギリギリと力比べの様相を保っていたが、少しして俺は正気に戻った。もう殴らないからといって手を離させ、再び座りなおす。
「あー、何やってんだ俺」
「ぷぎゃー」
「人のこと言えないからな、お前。つーか元凶お前だからな?」
なんていうか、疲れた。これだからこのバカの相手は疲れるんだ。いや、まぁ、楽しいんだけれどよ。
「まったく。JKの夢なんて羨ましいぜ。あー、俺もかわいい女の子の夢とかみたいなー。で、そのこと運命の出会いとか」
「二次元乙。現実に帰ってこい」
「あーあー。現実なんてみえませーん」
くそ殴りてぇ。でもこのハイスペックな変態であるバカは俺の攻撃程度なら軽く避けるからなぁ。……そうだ。今度ハリセンでも作ってこよう。芸人気質のこいつなら嬉々として喰らってくれるはず。
「そーだ。土曜日暇?」
「土曜? 特に予定はないぞ。俺のサークルは木曜だし」
携帯の予定表を確認すると、今週の土曜はきれいに開いていた。ちょうど先週と来週は予定が入っていたのに。これは奴の誘いを受けろという何かのおぼしめしか?
「あ、じゃメイト行かね? 臨時収入はいったんだよね」
「臨時収入?」
「こないだばーちゃんちの収穫手伝ってバイト代出た」
「まじか。うらやま」
臨時収入とか羨ましい。まぁ、俺も先月はあんまり使わなかったから懐は少々暖かめなんだがな。
「で、どうよ」
「べつにかまわねーぜ」
先日の約束通り私たちは池袋に来ていた。電車を降りて駅を出て、私たちは目的地であるサンシャインシティーに向けて歩き出した。
「そーいや、こないだ見た夢で、〝俺〟も今日池袋に来るって言ってたような気がする」
「まじで? もしかして実際にいたりしてねー」
「あほか。マンガじゃあるまいし」
「ま、そだよねー」
そうやって、三人で盛り上がりながら歩いていたら、向かい側の道に、見覚えのある、顔が。あれって、あの顔って。向かい側にいるのは確かに〝俺〟で、私の視線に気づいたのだろうかこちらを見た〝俺〟の顔が驚愕に彩られて、
そして、世界が崩壊した。
ジリリリリリリリリリリガチッ
やかましく騒ぎ立てる目覚ましを止める。ああ、もう起きる時間か。あー、学校だるいなぁ。しかも今日は僕日直じゃん。
なんか、夢見てたみたいだし、このまま寝続けていたいよなぁ。……あれ? どんな夢見たっけ?