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揺れる電車のドアの近くの角に高校生の美佐子と鼠の僕らは、おじさんが娘を溺愛しているというだけの内容のフランス映画を見た帰り道。
面白かったような気はするけども面白がっちゃいけない気がするし、これをおもしろいといってしまうと嫌われやしないかと、お互い牽制しながら遠慮しながらの沈黙の地下鉄の中。絵が綺麗であんなに最低な内容でもおしゃれに仕上げるフランス人ってすごい。なんてこと切り出そうかともじもじとしつつ沈黙し、押し黙っていると外の景色が変わり、地下鉄なのに地下を走らずに川の上を走っていますねと美佐子が言った。
見ると大きな道路と平行して川の上を地下鉄が走っている。
なに川なのかは、わからないけども地下鉄なのにねと答えると2人を乗せた車両は線路からふわりと浮いて川に映る夜景がどんどん広がりをみせて、電車は月に向かって走っていった。
星も町の灯りも、うるうると震えているんですねと美佐子は言った。
地下鉄なのにどこへ向かっているんだろうねと僕は言った。