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美佐子が服を欲しがるので何軒もついて回る。
どれも納得がいかないのか、どの店もロクに見もせずにないとだけ言うので、どういうものが欲しいのかというと、赤いサテンの昔の漫才師が着るようなジャケットが欲しいという。
そんなもの何時着るんだというと、今買いたくて欲しい物と着る物は別だいう。
ないものをさがして、やっと見つけて、それから”やっぱちがうな”と言いたいだけかもしれない。
「納得したいの?」
「うん」
結局赤いサテンのジャケットはなかったが、結構探したけどないということで満足したらしい。
「お腹空かない? 何か食べたいものある?」
「あまくてしょっぱくて、すっぱいけど結局苦いというものが食べたい」
「なんでもいいってこと?」
「いえ、高い料理は大概がそうでしょ?」