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小説版

絵本風を普通に小説に戻したものです。

内容は変わりません。



ここはこうした方が良いなどのアドバイスがありましたらください。

ここはとある小さな町。

これと言った名所が無く、何もない所ではない。

そんな町に私はいた。

学校に行き、友達と喋り、放課後に寄り道をして帰る。

なにも変化の無い平凡な毎日、平凡な自分、そして、普通の友達。

私には、それだけで十分だった。




私の家の隣に幼なじみの拓也が住んでいる。

拓也とは幼稚園のときも、小学校のときも、ずっと一緒にいた。

でも、中学校に入ってからは、朝学校に行くときと放課後に一緒に帰るだけになってしまった。

それでも私はたとえ拓也と一緒にいる時間が減ったとしても、私にとってはそれだけが変化の無い毎日を過ごす唯一の生き甲斐だった。


そして、今朝も私は自分の家の前で拓也が来るのを待っていた。

「────まったく遅い!」

いつもの時間になっても、拓也は出てこない。また寝坊なのかな?

このままじゃ学校に遅刻してしまうから、そろそろ拓也を起こしに行かないと────



「(──ピンポーン)ハーイ。」

拓也の家のドアベルを鳴らすと、軽快な声が聞こえてきた。

そして、家の中からドタドタ……という足音がして、ドアから20代後半の女性が出てきた。

拓也の母だ。

実年齢は40代で、見た目に騙される人が多い。

「あら、唯ちゃん。どうしたの?」

おばさんは呑気に首を傾げていた。

今日は拓也の学校が休みだと勘違いしているみたい。

「おばさん!

拓也を起こさないと、遅刻しますよ!?」

「ッ!?」

言い終わると、突然おばさんは驚いた表情になり、その目から涙が溢れだした。

「どうしたの!?」

「────唯ちゃん……」

突然のことに慌てる私に、おばさんは言い聞かせるように言った。

「────あの子……昨日から帰って来ないの────」

私はおばさんが呼び止めるのを聞かずに、家を飛び出した。

なんで帰ってきてないの?

あいつは、拓也は悩んでいる素振りなんて、一切見せていなかったのに。

なんで!?




もしかしたら学校にいるかもしれない。

そんな希望を持った私は、走って教室のドアに手をかける。

「(──ガララッ)ゆ、唯!

そんなに急いでどうしたの!?

それよりあんた、なんで来たのよ…………」

ドアの向こうにクラスメイトが驚いた表情で立っていた。

「ねぇ……拓也は……いる?」

「…………いないよ。」

息切れしながらたずねるけれど、クラスメイトはうつむきながら言った。

「ゴメン!

私、今日休む!!」

「えぇ!?」

今は呑気に授業なんて受けてられない。

私はまた走り出した。



学校を抜け出し、私は拓也が行きそうなところを探すことにした。

家の近くの公園、本屋、カフェ、あの丘、ゲームセンター。

途中、警察官に追いかけられたけど、拓也はどこにもいない。

ふと気がつくと、私は隣町に来ていた。

自分の町と少し異なる景色、来たことのない道、知らない人がいっぱいいる道。

「──あの、この人を見ませんでしたか?」

彼と初めて撮ったプリクラを片手に持って、隣町の知らない人達に聞いていくけれど、拓也はどこにもいなかった。


キョロキョロとよそ見をしながら道を歩いていると、マンホールの蓋が開いていることに気付かず、落ちてしまった。

闇の中を落ちていく。

ただ分かることは落ちている感覚だけ。

下へ落ちているだろうか?

もしかすると、上へ落ちているかもしれない。

どこまで落ちていくのかと思った瞬間、視界がまぶしい光に包まれた。


────ポフッ。


突然柔らかい感触が全身を包み込む。

なんだろう?と思うと、私は大きなクッションの上にいるようだ。

「────えっ……?」

やがて、目が慣れてくると、目を疑うような景色が目の前に広がっていた。

見慣れた町並み、見上げる先に地面、見下ろす先に地面、見たことのない生物が町中を歩いている。

不思議な地下世界に来たみたい。

もしかすると、拓也がいるかもしれない。

そんなはかない希望を信じて私は、拓也が来たのか聞いて回った。

けれど、拓也はここに来ていないみたい。



「そろそろ地上に戻ろうかな……って、あぁー!!」

地上に戻ろうにも、帰り方知らないし〜。

もしかして帰れないの?

「(──トントン)ひゃうっ!!」

肩を叩かれ振り向くと、うねうねした生物が大きな口を開けていた。

食べられると覚悟したそのとき、

『────お嬢さん、あそこのエレベーターで地上に戻れるよ。』

見た目からは想像のつかない、老紳士のような渋い声で親切に帰り方を教えてくれた。



エレベーターに乗り、出てきたところは私が住んでいる町のさびれた立体駐車場だった。

空はすっかり綺麗なオレンジ色の夕焼け空になっていた。

時計を見ると、時計の針は5時を指している。

「今日はもう帰らなきゃ。」

家に帰ったらきっと怒られるだろうなぁ。





────会いたいよ……ねぇ、君は今頃何をしているの?────



帰る途中、家と学校の間にある踏み切りの前で、私はふと足を止めた。

夕日に染まる踏み切り…………これを見ると、なぜか胸がズキズキと痛む。

そして、何かデジャヴを感じる。


────カンカンカン……と警報を鳴り始め、遮断機が目の前に降りてくる。

「────……拓也!!」

ガタンゴトン……と電車が私の前を横切る直前、踏み切りの向こうに見慣れた後ろ姿があった。

声の限り叫んだけれども、私の声は電車の騒音にかき消される。電車が通り過ぎると、拓也の姿はすでに無かった。

そして、遮断機が上がり、私は駆け出した。

ひたすら続く一本道を、私は駆け抜ける。



ようやく私がたどり着いた場所は、白い煙の上がる火葬場だった。

でも、その白い煙は不思議と懐かしい雰囲気がある。

「────あ……あぁ…………。」

やっと見つけた。

あの白い煙が拓也だ。

ようやく思い出した、昨日の記憶を──────




昨日の夕焼け空が綺麗な頃。

私は拓也と一緒に、あの踏み切りがある一本道を歩いていた。

「今日の夕焼け空は、やけに綺麗だな…………」

「急にどうしたの?」

拓也は空を見上げて呟いた。

大きな雲が綺麗なオレンジ色のグラデーションを彩り、確かに綺麗だ。

「ん?

あーなんかこんな綺麗だったら、嫌な予感がするからさぁ。」

「えー?

逆に運が良いとか考えないの?」

私の手には、古びた手作りのお守りがついた携帯がある。

それを操作していると、後ろから声がしてきた。

「どれどれ?

…………お母さん、今日の夕食は何ですかぁ?……ってバカ唯!

もうすぐ家に着くだろ!?」

「人のメールを勝手に見ないでよ!」

勢い良く拓也から携帯を遠ざけると、ドンッと知らない男の人にぶつかってしまった。

「す、すみません!」

「いや、気にしないでいいよ。」

すぐに頭を下げて謝るが、男の人は苦笑いを浮かべたまま歩いていく。

「まったく周りを見ないよな、バカ唯は。」

「バカ唯言うなぁ!

寝坊する奴に言われたくないもん。」

歩きながら茶化してくる拓也にそう言い、携帯に目を戻す。

すると、何かが無くなったことに気づいた。

────お守りだ。

紐が古くなって切れたみたい。

カンカンカン……と踏み切りが警報を鳴らし始める。

踏み切りまで戻り、線路の上にお守りを見つけた。

取りに行こうとするが、突然私の手は掴まれる。

「行くんじゃねぇ、危ないぞ。」

「いや!

あれは大切なの!!」

振りほどこうとしても、拓也は離そうとしない。

「ボロボロになった『たかが』お守りだろ────」

「『たかが』じゃない!!」

拓也の一言にカッとなって叫んでしまった。

すると、拓也の掴む手の力弱まったので彼の手を振り切り、遮断機が降りた踏み切りに飛び込んだ。

「バ、バカ唯…………!」

聞こえるのは、拓也が喚いていることだけ。

「ほら、大丈夫で────」

お守りを拾って振り返った先には、ギャギャギャ……とまるで悲鳴のような音と共に、電車が無情にも迫ってきていた。

避けようとしても、足が言うことを聞かない。

もう駄目だと思ったとき、拓也の声が聞こえてきた。

「世話焼かせやがって、唯!!」

────ドン!

そして、私の身体は突き飛ばされた。

一瞬が長く、永く引き延ばされた中、私がいた場所に拓也がいた。

怒った拓也じゃなくて、ほっとした笑顔の拓也がいた。


また私が後先考えず、バカなことをしたのに笑っていた。

私なんかどうでもいいはずなのに、私を助けてほっとしていた。



――――――なんであなたは笑ったの?



時間の流れが元に戻り、ビュンッと電車が私の身体を掠めて行った。

そして、拓也は呆気なく吹き飛ばされ、ボールのように地面を跳ねていった。

止まった拓也の体はピクリとも動かず、赤い血が流れていた。

私はそれを唖然として眺めることしかできなかった。

「私が取りに行かなかったら、こんなことにならなかった。

私のせいだ。

ごめんね、拓也…………たくやぁ…………。

──────ッ!!」

私はただ泣き叫ぶことしか出来なかった。



記憶が戻った私は、花を買片手に拓也の家の前に来た。

「(──ピンポーン)ハーイ。」

ドアベルを鳴らすと、軽快な声と共にドタドタ……という足音がして、拓也の母が出てきた。

「あの……おばさん。

えっと……その…………」「唯ちゃん……遠慮しないで家に上がって?」

話す言葉が見つからない私に、おばさんは何かに気づいたようだった。

「──……ハイ。」




家に入ると、おばさんが案内した所はいつものリビングではなく、拓也の部屋だった。

そして、机の上には大きな拓也の写真と壺がある。

────拓也の……骨壺だ。


「それじゃ、唯ちゃん。

私はちょっと買い物に行ってくるね。」

「──あの。」

おばさんが部屋を出ようとしたとき、私は反射的に呼び止めていた。

「おばさん、朝のことはすみませんでした。

私、記憶喪失に……なって、ました?」

目が熱くなるのを必死にこらえながら、ようやく言えた言葉。

おばさんはドアを見つめたまま、

「きっと……唯ちゃんに悲しんで欲しくなくて、それはあの子がしたと思うわ。

だって、あの子は……ううん。

ありがとう、唯ちゃん。」と言って部屋を出た。

おばさんの頬に涙が流れていた気がした。




沈黙が部屋を覆う中、私は拓也の骨壺の前に花を置き、拓也と向かい合うように床に座った。

写真を見つめると、拓也との思い出が走馬灯のように思い出される。

枯れたと思った涙が目から溢れだし、私の頬をつたって落ちていく。

「──……一緒の大学に行くって約束したね。


成人したら、一緒に酒を飲もうって約束したね。


高校に合格したときに

今も、これからも、ずっと一緒だねって言ったね。




────なんであなたは死んだの?


なんであなたは私をかばって死んだの?


あなたさえ……拓也さえ生きていてくれさえすれば良かったのに────なんで私なんかをかばって死んだの!?


まだサヨナラも言えてない。

この間、言い合ったときのゴメンなさいも言えてないよ……──




────実はね。

あなたにずっと言えなかったことがあるの………………




────私は…………拓也のことが…………────」


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