DREAM TAXI
ゆっくりと瞼を開けて目を覚ます。
首を横に向けると、カーテンの隙間から陽射しが洩れていた。その光は真っ直ぐ僕の顔に伸びている。
身体を捻り光から顔を背ける。すると、テーブルに置かれた時計が視界にはいった。僕は目を疑う。
午前八時!
ベッドから飛び上がり、急いでクローゼットへ駆け込んだ。
いつもは規則正しく七時に起きて、余裕の笑みを見せながら仕事場につくのに。そんな言葉が頭の中をぐるぐると回っている。
顔は洗わない。歯も磨かない。当然食事もとらない。
背広に着替え、バックを持ち、部屋を出る。
なぜこんなに急ぐかと言うと、今日は大事なプレゼンテーションがあるからだ。昨日の深夜まで、プレゼンテーションにミスがないかパソコンで確認していた。おかげで、時計を確認するのを忘れていた。自嘲的な気分になる。
エレベーターで下り、エントランスを駆け抜け外に出る。そして道路に向かって手を挙げた。
車を持たない僕はいつも自転車なのだが、時間がないのでタクシーに縋るしか、ほかない。
すると、タイミング良くタクシーが止まり、中に飛び乗る。「◯◯◯◯会社までお願いします」僕は運転手に行き先を告げる。運が良ければぎりぎり間に合う時間だった。
「お客さん、運がいいね」
僕はのけぞってしまう。相手の口から[運]と言う単語が発せられたからだ。もしかして、君はエスパーか? と予想してみる。
「このタクシーは別名、『マッハG◯G◯G◯タクシー』って呼ばれてんだから」運転手が親指を立てて、真っ白い綺麗な歯を見せた。
僕は驚いてしまう。アニメの視すぎだよ。
「いいですから、早く目的地へ向かってくださいよ」
「ハンドルに四つのボタンがありますよね」運転手がそう言うので、ハンドルを見やる。
「ボタンの数だけ凄いサプライズがあるんですよ」
お前が運転手なのがすでにサプライズだよ。てか、頭はファンタジーか?「じゃあ、そのボタンを使って早く目的地に行ってくださいよ」
「分かりました。一つ目のボタンは、心地よい音楽を流して時間を忘れさせるSOUNDSTYLE」
死ね、ふざけるな。
「お気に召さなかったようですね。では、二つ目のボタン。フロントガラスで映画が観れるMOVIESTYLE」
お前が運転できないだろ。でか、さっきと同じレベルじゃないか。
「残念ですね。三つ目のボタンは、バネの力でひとっ飛びSPRINGSTYLE」
マッハG◯G◯G◯だってそんなに飛ばないよ。
「仕方ない…最後はパトカーに早変わり。サイレンを鳴らして地上を征すPOLISTYLE!」
もう、ダメだ…。