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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
9/59

合同授業 3





「んで、どーだ六花の様子は」


理事長室――古いアンティークの家具で揃えられた部屋に、不釣り合いな男が一人


派手な柄の着物を着崩して、それでもだらしない雰囲気にならないのは育ちの良さゆえか

それとも軟弱さを感じさせない、鍛えられた体躯故か


ともあれそんな和風な男、名前はその髪色と同じ藍

学園創設者の一族にして、第二世界の王、ついでに第一世界では公爵位にあるとってもえらーい人物


フルネームを久我らんという

見た目どう上に見たって三十代前半だが、二十歳の一人娘がいる


その一人娘こと紫は、またもや不釣り合いな湯呑を持ち、口を開く



「問題ないわ。疲れただけみたい、少し寝たらぴんぴんしてる。隠してるつもりだろうけど、こっそり勉強できてるくらいよ」

「なーるほどな。つってもまぁ表向き病気と爆発に巻き込まれた、てことになってっから

そうだなぁ・・・ま、念のためあと一日は閉じ込めとけ」

「恨まれるでしょうけど?」

「うちの蔵書5冊くらい届けりゃ平気だろ?どうせ俺もお前も全部覚えてんだ、うちにあっても無駄だしな」


流石は抜け目ない、と紫は心の中で呟いた

まぎれもなく彼は自分の父親である、と


思えば母親に似ていると言われたことは、あまりなかった




「んで、だ・・・またローシェンナがうるせぇ」


その言葉に、紫がピクリと反応した


「無理を通して理事になったと思えば、今度はお前を寄こせだとよ」

「あら、やっと堂々と言ってくるようになったの?」

「まさか、それならこっちだって苦労はしねぇよ

遠まわしにくれないはふさわしくないだぁ、魔女騎士契約を破棄しろだぁ言ってるだけだ


奴はよっぽど、【騎士王】の座がお望みみたいだな」


実力もねぇくせに、阿呆が

言って口角を上げる―――凶悪な、笑みだ



「紫、今年は『アレ』をやる」

「・・・・・・めんどくさがりの父が、よく決めたわね」

「俺ぁ面倒なことは嫌いだが、お祭り騒ぎは好きなんだよ。お前と一緒でな

開催日は、まぁ気分で決める。とりあえず色々目ぇつけとけ」


コトリと、空になった湯呑を置いて紫は席を立った


「それじゃぁ、せいぜい父を楽しませるパーティでも揃えるとしましょうか」

「期待してるぜ、じゃぁまた夕飯でな。今日は和食だ」


ひらりと軽く手を振って、娘を見送ると入れ替わりに違う扉から一人の女性が入ってきた


髪は薄茶のショート、端正な顔は苦々しく歪んでいる

――いや、もとより彼女 あかつき は不機嫌そうな顔ではあるが



「情報漏洩です」

「父親が可愛い愛娘にちょっとアドバイスしただけだ、問題あるか?」


つーか仮にも夫婦で敬語はないんじゃねぇの


「癖です」


スッパリと彼女は――久我暁はいってのけ、上司であり夫である藍に、さらに厳しい視線を向けた


「大ありだと思いますが?」

「権力使って貶めるのはありなのに、か」


沈黙

それを破ったのは、低い――藍の声



「まぁ、それも終りだけどな」

「・・・・・・学校行事を利用するのは、あまり気が進みませんけど」

「使えるもんは使え、それが俺が母親から学んだことだよ」

「教えられた、ではなく?」

「ガキにモノ教えるような親じゃねぇだろ。放任主義上等、知りたきゃ自分で知れ、ってのがうちの方針だ」


それで俺も真朱(まそほ)も紫も、立派に育ってんだから間違ってはねぇだろ



「立派、を曲者で勝手で人智を超える人間、に代えた方が適切かと」

「同じことだろ、うちではそれが立派な奴だ

テメェの大事なモンを、テメェで守るためには人の予想くらい軽く超えることやんなきゃいけねぇんだよ」


ふっと、凶悪な顔を崩し口角を上げる

ひょいっと伸ばした手が、立ちあがっていた暁の顔を捉える


ぐいっと寄せられた頬に、軽く唇を寄せる・・・と




ドゴンッ




「・・・・・・・・・職場です!」

「~っ職場で魔術は使っていいのかよ!?」

「必要悪を否定するほど、堅いわけではありません」


お、堅いっつー自覚はあんだな


もう一発、衝撃音










「・・・・・・・どうした、楽しそうだな」

「あら、わかる?」


部屋で――しかも自分の褥の上でくつろぐ男に、妖艶な笑みを浮かべる

寝転がる彼の横に座ると、すすっと膝の上に頭がのってきた

彼曰く、自分の膝は『俺専用枕』らしい


「父が害虫退治にのりだしたのよ」

「あぁ・・・・・・・面倒だな、回りくどい」

「邪魔だからって、まさか家を全壊させるわけにもいかないでしょう?仕方ないわよ。貴方も手伝ってね?」

「・・・・・・」


彼にとって、沈黙は否定


どうせめんどくさいとか、勝手にしてくれとか思っているのだろう

一番の当事者といっても過言ではないのに、他人事この上ない



「・・・そういえば」


――この間ローシェンナのところの長男にあったんだけど


まどろみ始めていた紅色の目が、一瞬揺らいだ


「本当に、馴れ馴れしくて嫌になるわ

手を取って挨拶したかと思えば、たかだか話すのに腰を抱きよせるんだから」


※手を取って挨拶→手の甲にキス


ゆらりと、真紅の髪から怒気が立ち上る



「・・・・・・・・何故その場で殺さない」


「物騒ね」

「奴らにはこのくらいで丁度いい」


次にやられたらすぐに言え、俺がその場で殺してやる


「あら、私にも残しておいてよ。八分殺しでいいから」

「二分では俺の気が収まらない。俺は俺の『領域』に入ってこられるのが大嫌いなんだ」

「・・・・・・冗談よ、殺すのはマズイわ。ヤるなら完璧に証拠を消してしまわないと」



とてもじゃないが冗談に聞こえない物騒な笑みを浮かべながら、すっと指を伸ばして髪を梳く

柔らかな髪は紫の指をするりと抜けていった


ふっと笑うその顔は、最上の喜びで

不貞腐れたように黙り込む彼の頭をそっと撫でた


―――わざと言ったんだけど、ここまで怒ってくれるとは思わなかった



「大丈夫、次はそんな隙見せないわ」

「隙など見せさせるか。何ならずっと俺が抱いていればいいだろ」


・・・本当に、時々大胆なこというわよね

普段は呆れるほどのんびりしているくせに



でも


「それもいいかもしれないわね」

「だろう・・・」


語尾が掻き消えた。睡眠に入ったのだ。



「・・・・・・普通このタイミングで寝るかしら」


呆れた、というかありえない

ため息をついて、それでも気持ちよさそうに寝る彼が微笑ましくて


仕方がないので、そのままゆっくり寝かせてあげることにした

・・・・・・・そのせいで彼が夕飯を食いっぱぐれたのは、故意からか好意からか














「・・・・・・・は?」


今なんて

灰は信じられないものを見る目つきでシェイドを見る


シチューを食む彼は、だから、と繰り返す



「女を泣かせたら、どうすればいいんだ?」

「とりあえず何で僕に聞くわけ?」

「お前、そういう経験多いだろ」


シェイドの右耳をナイフが掠めた

灰が肉を切っていたそれだ


「僕が泣かせたんじゃないよ、あいつらが勝手に泣いただけ」


僕は断っただけなのに


どうせ辛辣な言葉でも吐いたんだろ、と言いたかったがやめた

それを云ったが最後、今度はフォークが飛んでくるに違いない



「で、誰泣かせたの?」

「ん?」

「そんなこと聞くくらいだから、そうなんでしょ」


まさかシェイドがそんなことする日が来るなんてね

信じられない、というよりありえない


この朴念仁が



「あぁ、言っただろ。この間魔女とやりあったって」

「その子?また会ったの?」

「あぁ、それで口喧嘩になって気がついたら泣いてた」

「・・・何言ったの、シェイド」


眉を寄せて沈黙・・・おそらく思いだそうとしているのだろう

そしてその言葉をそのまま灰に告げると



「土下座でもすれば?」

「何で」


何でだとこのボケ野郎が

・・・とは言わなかったが、確かに灰の目はそう言っていた


「あのさぁシェイド、草抜きっていうのはね、一般的な罰則の一つなんだよ

特に授業中に、なんていうのはね」


で、君と彼女の会話から推察すると


「彼女は剣士科とのごたごたのせいで、罰を受けて授業に出られなかったってこと

それも自分が出たかった授業に、お貴族様達に圧力掛けられて

そんな彼女に真面目にやれ、なんて言ったら怒るに決まってるでしょ」

「・・・・・・」

「はい、そんな顔しない。とにかく泣かせたんなら謝ればいいんだよ

悪いことしたなら謝る、これ常識」

「・・・・・・お前に常識を説かれる日が来るなんてな」


やっぱりフォークが飛んできた



「とにかく謝ればいいんだよ。その子名前は」

「知らん」


・・・・・・・



「シェイド、三本目もナイフでいいかな?」


ぶんぶん首を振ると、笑顔で構えていたナイフが下げられる


「・・・まぁ、そんな問題起こしたんなら剣士科で噂でも流れてるだろうし。調べようと思えばすぐ調べられるよ」

「・・・・・・」

「変な顔しない、夕飯がまずくなる

シェイドの取り柄なんて顔と剣の腕くらいなんだからちゃんとしてくれる?」

「・・・お前、俺の味方じゃなかったか?」

「だから何でも言ってるんだよ、遠慮する必要ある?」

「ないな、俺もお前には遠慮してない」

「でしょ」


とりあえずは、この話は終わり


言い置いて、その後は雑談やらなんやらに費やす

といってもお互いあまりしゃべる方ではないので、食卓は静かなものだったが


耳をつく食堂の喧噪


その中で灰は、何となくシェイドとその子がまた会うような気がしてならなかった

――いや、もちろん探すのだろうが、そうではなく


もっと、人為的なものではなくて



嫌いな言葉を借りるなら『運命的』に




何故?と言われても返答できないが

強いて言うなら、『野生の勘』で





そしてそれが当たっていることを知るのは、わずか二日後である







色々舞台が整ってまいりました。サードコンタクトまであと3話

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