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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
8/59

合同授業 2



ザック ザック


ジー・・・


ザック ザック


ジー・・・


ザック ザック


ジー・・・



ブチッ




「あんたねぇ・・・っ」


刈ったばかりの草を力いっぱい握りしめたせいで、手の上を緑色の汁が滴り落ちる

が、六花は全く意に介さず


「いい加減、物言いたげな目で見てくるのやめてくれない!?言いたいことあるならさっさといえば!?

この間の続きなら受けて立つわよ!?」


って、意気込んで叫んだはいいけど、相手の男・・・誰だっけ?

まぁいいや、とりあえず剣士科Aは面食らったような顔をして


それから少し言いよどみ、けれどはっきりした声で




「何やってるのかと思っただけだ」






・・・ってあんたちょっと

この状況みたら普通、わかるでしょ?


「いや、草むしりに決まってるでしょ?というかさっきまでの行動で草むしり以外に何か思いつく?」


至極、当たり前のことをいったんだと思ってたのよ

なのに、目の前の奴と来たら




「草むしりってなんだ?」




うん、ベタだけど本気で滑った

だってさ、草むしりって何?・・・なんて聞かれるとか思わないじゃない、普通


「何って・・・あんたやったことない?家に庭とかなかった?手入れとかするでしょ?」


庭・・・と呟いて、ちょっとだけ眉が寄せられた

もしかして庭ないのかな?いやでも一般常識で草むしりくらいは・・・



「庭はあるが、手入れは庭師がする」




ブルジョアかこいつ


あれか、お坊ちゃんとか言う奴か!庭師がいる、なんて科白初めて聞いたわ!

あぁなるほど、これがいわゆるカルチャーショック


「あー・・・つかぬこと聞くけど、お宅にメイドさんは何人ほど?」

「正確な数は知らない。俺の棟だけなら18、7人くらいいるな」


ちょっとちょっとちょっと

俺の棟ってなに、棟って。部屋じゃないの?普通部屋でしょ、いや部屋でもメイドさんはおかしいけども

つーか一人に付きメイドさん二桁!?


なんて贅沢な・・・



「・・・・・・あんた、マジお坊ちゃんなのね」


言うと眉をこれでもかというほど顰められた

あんたまさか、お坊ちゃんって何?なんて聞かないわよね?


「それが何だよ」


ひっくぅい声

・・・私、何か人様の癪に障ることいったっけ?


「別に、なんだってほどのことじゃないけど・・・」

「じゃぁ言うなよ。お前って思ったこと何でも口に出してるのか?バカ」


キレた


今確実に私の中で何かがキレた



ただでさえこいつには―ついうっかり忘れてたけど―図書館での恨みがあるんだ

それに加えて、立て続けのバカ発言


許し難し




「会って二回目のくせに決め付けないでくれる!?

そこまで考えなしでも、馬鹿正直でもないわよ!ただちょっと感嘆こめていっただけじゃない!」

「じゃぁおおげさだ。別に一々驚くことでもないだろ」


え、何この世間知らず

どこも似たようなもんだとか思ってるわけ?それともこれが普通で当たり前とか思ってるの?


だろうね、このいかにもこっちがおかしいと言わんばかりの顔

あーそうですか、当たり前ですか


ありえない!



「驚くことよ!あんたの方がよっぽど馬鹿じゃない!常識なさすぎ!」

「はぁっ!?誰が常識ないんだよ!」

「この場にあんた以外の誰がいるっていうのよ!」

「そういうこといってるんじゃないだろ!」


だいたいなぁ!



「常識ないのはお前だろ!?授業サボって、こんなとこで草むしりなんかやって!

落ちこぼれっていわれたくないんだったら真面目にやれよ!それともやる気ないのか!?


だったらやめろよ!やる気がない奴がいると邪魔なんだよ!」



「っ!?」




何こいつ


何なのこいつ



さぼり?するわけないじゃない

私授業は無遅刻無欠席よ。熱でたって体ひきずって出てるんだから


真面目にやれ?

やってるわよ、一日のほとんど練習と勉強に費やしてるんだから


そうじゃなきゃ、皆と同じ所になんか立てないってわかってるから

だから毎日いろんな本読んで、実践やって



それでも立てない


それでも全然、同じ所に立てない



何か足りないの?


まだまだ私は努力出来てないの?



そんなことばっかり考えて、動けなくなる時だってある


全部放り出して、忘れて、楽になりたいときだってある




それでも絶対、諦めないでやってきた


夢があるから。絶対に、諦めきれない夢があるから

だから何を言われたって、平気な顔してやってきた



でもホントに平気なわけないじゃない

落ちこぼれっていわれるたびに、どんな思いしてるのか



何にも、知らないくせに






「ふざけんじゃないわよ!!!」




腹が立った


ものっすごく腹が立った




「好きでこんなことやってると思ってるの!?そんなわけないじゃない!

私だって、授業でたいわよ!契約のこと、ちゃんと勉強できるのこの授業だけなんだから!でもしょうがないじゃない!わ、私が実技、下手くそだからっ」



あーっもう震えるな!声!

でも思うだけじゃ止まらなくて


腹が立ってるはずなのに、なんでか零れるものに、相手はぎょっと目を見開いた



「剣士科に、知られたらっ、恥ずかしいって!バカにされるからって、出させ、てもらえないし!


だいたい昨日っ!あんた達が酷いこと言ったくせに、お、お咎めなしでっ!

そりゃぁ私も本棚倒したのは、悪かったと思うけど!でも、あんな、魔女科を馬鹿にして!

それなのに、ローシェンナ侯爵だかなんだか知らないけど、親の権力かさに着て、仕返しの仕方が卑怯なのよ!

武士なら、紳士淑女だっていうんだったら、正面から挑んできなさいよ!

そうしたらこっちだって容赦なくやれるんだから!」

「は、ちょっとまて、ローシェンナって」


焦ったようなシェイドの声も、六花の耳には届いていなかった。




「剣士だかお貴族様だかなんだか知らないけどねぇっ!」


赤紫の目が眇められる

柳眉は跳ね上がり、涙声は完全に怒声へ変わった






「調子のってんじゃないわよこんの馬鹿野郎――――――っ!!!」




大地を揺るがす声、とはまさにこのこと


そして同時に






冗談抜きで大地が揺れた




怒りにまかせた魔力の暴走

それがもはや六花には慣れ親しんだ、しかし常人にはなれているはずもない



大爆発を引き起こした















はっと目覚めて見たのは私室の天井

それから・・・


「あら、やっと起きた?」


妖艶に笑う、美女



「・・・紫ちゃん」


だるい

こんなにだるいの、風邪ひいたいらいだなぁ


・・・って最後に風邪ひいたの、もう五年も前だけど



「無理しなくていいわよ、もう丸一日は寝たままだったんだから」

「・・・いちにち」


一日、一日か。あーじゃぁ今日お休みの日?

よかったー私の無遅刻無欠席記録はついえてな・・・


がばり


「って一日!?」

「そう一日」


紅茶を嗜む紫ちゃん、さらりといってくれたけど私にとっては大問題だ


「一日って・・・何で!?」

「熱中症、炎天下に何時間も草むしりしてたからね。最近勉強ばっかりで外にでてないでしょ?だから倒れたんじゃない」


疑うわけじゃないけど、かぎりなく違和感

と思ってたら



「ていうのが表向きの理由」


そこではぁ、と息の塊を吐き出し、眉尻をよせて向き直った。

真剣なその眼差しは、小さいころから何も変わらず――― 『あの時』と同じように


そこで己が倒れた原因を、六花は悟った



「六花ちゃん、気をつけなさいっていったでしょう?」


真剣なそれが、弧を描く

背筋が寒くなったのはきっと気のせいじゃない


「・・・・・・わかってるよ」

「わかっててもできなきゃ意味ないの」


口をとがらせる六花に帰ってくるのは、満面の笑み

華やかなはずのそれが、今は恐ろしくて仕方がない


「そりゃぁね、理性を押さえるなんてなかなか出来ないのはわかってるけど

いつも上手く誤魔化せるわけじゃないから」

「・・・うん」


ぽつりと呟かれた謝罪の言葉に、紫は――今度は間違いなく『笑み』を浮かべて頷いた




「でもごまかしたって、どうやって?」


確か・・・あーそうそう、誰かしらないけどムカつく剣士科の奴がいたのに


それに対しては、紫はさらに笑みを深めた


「一緒にいた子は簡単、何が起こったかわからなくて混乱してる所にそれらしい話を植え付けただけ

爆発は、ちょーどアイツが通りかかったから被ってもらったの」


自宅謹慎だけど、外に出たがらないアイツには渡りに船でしょう?



いや、たしかにそうだけど


「・・・明日くぅ兄に謝ってくるわ」

「そうしなさいな、あっちも貴方に会いたがってるし」


ただ、久々に会ってみたら爆発起こしてぶっ倒れてたっていうんだからお小言はもらうでしょうけど

至極愉快そうに笑う紫、対して六花はうっと息を詰まらせた


紫ちゃんとは違う意味でくぅ兄も怖いんだよね・・・



「でもくぅ兄がどうやって爆発なんてごまかしたの?」

「喧嘩売られて暴れたら相手が危険物持ち出して来てドカン

相手はさっさと逃げちゃって顔は全然覚えてない。あ、ついでに六花ちゃんも巻き込まれたことになってるからヨロシク」

「・・・やってもらってこんなのいうのあれだけど、すっごい無理矢理だね」


というか信じたのか、教師たちは



「アイツが自分でそう言えば違うんじゃないのか?とはいえないでしょ

それに剣士科の理事は、ローシェンナの息がかかってる連中だから・・・


アイツに泥を塗りたくてしょうがないから、わざわざ蒸し返しやしないわ」


それもそれでどうかとは思うけど

・・・というかそれって、私もしかしてくぅ兄をヤバイ立場に追い込んじゃったってこと?


「心配しなくても、たかだか爆発程度でどうこうならないわよ」


察して紫がつけ足す


「それをいうなら、私だって校舎半壊させたこともあるし・・・それに父がアイツを気に入ってる限り、誰も手だし出来ないわ」

「あー藍さん最高権力者だもんね」


思い浮かべるのは―どう見ても二十歳の子持ちには見えない、紫の父

この学園の理事長にして、騎士王たる青年―いや年齢的には中年なのだが


見た目、どう見たってそこらの兄ちゃん


下手したら学生でも通ってしまうのではないかという男。かなりの愛妻家で、それを上回るほどの子煩悩だというのは有名な話


ついでに紫の父親だけあって、見目はたいそう麗しく、その癖性格はかなり曲がある


そこらへんも、かなり色濃い血筋を感じさせる久我親子

揃って自分を、その力をいかに有効に使うかをわきまえている



「そういうこと、だからもう寝なさい。明日はお小言ちょうだいするんだから」

「忘れてたこといわないでよ」

「忘れて行かなくて、お小言増えるよりいいでしょう?」


まぁ、いやでもそれも・・・

うんうん唸り始めた六花を、文字通り無理やり寝かしつけて紫はその場を後にした


六花は気付いていなかったが、実はもう深夜を回っている頃合いだったのだ














「あら」


自室に戻り、そこにいた先役に思わず目を丸くする

妙齢の女の部屋に勝手に、やら人のベッドを占領するな、やら


そんな当たり前の苦情など、彼らの間には存在しない


端正な貌を綻ばせ、彼の傍に腰を落ち着ける。古めかしい――かつては祖母が使っていたベッドがわずかに軋んだ


「六花ちゃんの爆発といい、今日は厄介事が多いわね」

「・・・・・・厄介で悪かったな」


不機嫌そうな声に、再び目を見開く

まさか起きているとは思わなかった


「なに?ショックだったの?」


冗談交じりの発言

だが相手は至極真面目な声で


「何かおかしいか?」


眇められた紅い相貌に息をのんだ

その隙に手をひかれ、抱き枕よろしく抱き込まれる


柔らかい布団と堅い腕の感触に深々とため息をついて


「あなたね・・・」


まだ着替えてもないのに

抱き込まれたまま睨みつけるが相手は全く意に介さず、どころか満足そうに笑って



次の瞬間、寝息を立てていた



紫はにっこり笑って相手の鳩尾に拳を叩きこんだ





後半唐突にアレですが(笑)

とりあえずファーストコンタクト・口げんか セカンド・爆発 と段々被害度レベルアップしております

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