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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
6/59

落ちこぼれと天才 3




「白峰六花さん。本日の合同授業、貴方の参加は認められません」


「なんでですか!?」


ドン


と、叩いたテーブルの脚は、鈍い音を立ててへし折れた


「・・・・・・直します」

「はい、お願いします」


折れた足に、手をかざす。数秒も立たないうちに、テーブルは元の高さに戻った

・・・そう、こーいうのだけは上手くいくのよ。こーいうの だ け は!


「・・・直りました」

「流石に、修復魔法は上手くいくのよねぇ

まぁもちろん、壊したものを直すために出来なきゃいけなかったっていうのもあるんでしょうけれど


そうなのよ、貴方全然出来ないワケじゃないのよねぇ。こう修復魔法みたいな日常的な奴は出来るのよねぇ」

「・・・それ以上は言わないでくださいカナリア先生」


しかし初老にさしかかった、おしゃべりで有名なカナリア・ログフォード先生(趣味:家庭菜園)は止まらない


「でも応用になると爆発しちゃうのよねぇ

攻撃魔法に至っては基礎・基本でも駄目なのよねぇ。知識がないわけじゃないのにねぇ

あ、そうそう。この間提出して貰った歴史のレポート良くかけてたわぁ

文句なしで、今回も貴方が一番ねぇ」

「・・・ありがとうございます

ってそれより何で参加しちゃいけないんですか!?」



駄目だ駄目だ、もう少しで流されるところだった!

カナリア先生、悪い人じゃない、むしろ良い先生なんだけどなぁ・・・


「あぁ、そうそう。

教官のトープ先生がね、六花さんは学力では首席だし、総合でも40番以内には入ってるんだけど、あんなに爆発ばかりおこされたんじゃぁ剣士科に何を言われるか分かったもんじゃないから、参加しちゃ駄目っていってきたの」

「うっ・・・」

「それからね、昨日図書館で剣士科と、普通科のこともめたでしょ?それでまた面倒なことになると嫌だから来ちゃ駄目って」

「でもっあれはあっちも悪いんです!」


昨日だって怒られたの私ばっかり、私ばっかり、私ばっかり(以下略)

だけど元々喧嘩売ってきたのだって、魔女科を馬鹿にしたのだってあっちじゃない!




・・・以下回想・・・



ゆずりが帰った後、必要な本捜すのに奥まったところに入った



「あ、落ちこぼれ」


・・・いきなり喧嘩うってきたのよ!あっちが!


あのグループは普通科の中でも、特にいやーな連中で・・・リーダー格が伯爵家の令嬢だから余計に厄介



「・・・落ちこぼれじゃなくて、ちゃんと白峰六花っていう名前があるんですけど」

「落ちこぼれを落ちこぼれっていって何が悪いのよ」

「だいたい、魔女科が何でこの図書館にいるのよ?あんた達には別に図書館あるでしょ?陰気くさーいやつが」


うん、もうこの時点で結構キタ


自分で言うのはアレだけど、短気だから私

ルー○ックキューブとか最後までやれた試しがないから



「いいじゃない、歴史関係だったらこっちの方が揃ってるんだから!」

「当然ですわよ、私の家が出資したんですから」


オホホホホと文字通りの高笑い付けて言ったのが、例の伯爵令嬢


「ローズマダー家ともなると、貴重な書籍なんて有り余ってますの

ですから久我(くが)家の方がどうしてもというので寄付させていただいたんですわ


おかげで縁もできましたし」



あー駄目だ駄目だ


私こういう話し方の人間の、半径3メートル以内によると頭痛がするんだよね

大体久我家がそんなこというわけないのに・・・あそこの書斎一度見てみろってーの


秘蔵中の秘蔵のブツばっかりなのに!



※ワンポイント解説・・・久我家

マルーン学園創設者の一族 5大公爵家の一つで現『騎士王』の生家でもある



「貴方のような貧乏人の魔女が、喉から手が出るほど欲しがるのも当然ですわね」



失礼な!


確かにうちは金持ちじゃないけど、貧乏ってほどでもありません!

・・・いや、家のローンとかまだ残ってるけど


ってそうじゃなくてっ!



あーもうほんとにっなんなのコイツラ!

それから図書館の本棚にもたれるなってーの!その棚には貴重な本いっぱい入ってるんだから!


服ですれるじゃない!背表紙が!



「まぁ・・・その安っぽい頭の一つでも下げたら心よーく貸して差し上げますけど?」



この瞬間、色々ぶち切れました








「ふざけんじゃないわよ!!!」




あーあの後は大変だった


気がついたら本棚倒しちゃってて(古本は無事だったからよかったけど)

そのあと剣士科の連中にも絡まれちゃって・・・またぶち切れて本棚もちあげちゃったんだよね


んーあれちょっと重かったな(※本棚は100キロ以上あります)


だって剣士科の連中、よってたかって魔女科を馬鹿にして!

半月クラス以上の人がいる前じゃぁ絶対言わないのに(やりかえされるからね)



それで気づいたら持ち上げちゃったんだよね

で、言うこと言っちゃって、どうしよっかなぁーって思ってたら


・・・そうよアイツ!


上手くバランスとってたのにいきなり肩なんか掴むから、落としちゃったじゃない!


それに近くで見てたくせに、何も言わないで!

武士(違)なら多勢に無勢で女の子が絡まれてたら助けるくらいしなさいってーの!


あーっもう腹立つ!




・・・回想終了・・・




「そうねぇ・・・先生も六花さんは悪くないと思うわよ?ちょっと短慮だったけどね?でもローズマダー家の方から苦情が来ちゃったらしくてねぇ

ほら、あそこは伯爵家でしょ?」


「その上バックにローシェンナ侯爵がついてるから。権力に弱いトープ先生はあっという間に陥落してしまったわけ」


「そうなのよぉ・・・ってあらら紫さんいつの間に」

「紫ちゃん!?」


いつのまにやら私と先生の他にもう一人

名前は久我紫(くがむらさき)(私は紫ちゃんって呼んでる)


名字で分かるように、公爵家の一つ、久我家のお嬢さん・・・しかも久我本家 現騎士王で学園理事長のたった一人の愛娘


私とは・・・うーんちょっとした繋がりがあって、小さいときからかまって貰っている


しかも紫ちゃんは魔女科では最高の紅月レベルの魔女!

魔女レベルは新月・三日月・半月・満月・紅月とあるんだけど、普通の魔女は最高でも満月レベルまで


紅月レベルっていうのは、魔女のまとめ役『魔女長』の候補者レベルで、いるのはほんの数人だけ

もちろん紫ちゃんは最年少の紅月レベル!・・・確かなったのは2年前だから18歳の時かな?


1年の時からずーっと学年トップ10人しか入れないSクラスで、しかも首席!

しかも今はマルーン学園生徒会の生徒会長もやっていて、知識も魔法の腕も最高で、小さいときからの私の憧れ・・・で目標かな


頭脳明晰で魔術の腕は最高・・・なのにおまけにものっすごい美人さん

天から二物も三物も貰ってるような人だけど・・・まぁ天才となんたらは紙一重と言うか


―――――『破壊神』ていう別の顔も持ってるわけですが




「カナリア先生、このお茶新しいハーブいれました?」

「あらわかる?昨日仕入れたばっかりなのよぉ、美味しいでしょ?」

「へー流石先生、植物のことなら学園一早いですね・・・じゃなくてっ!紫ちゃんナゼここに!?」

「あぁ、今回の件でね

カナリア先生、確かに問題を起こしたのはまずかったですけど、学年首席に不参加っていうのはちょっと酷すぎると思いません?」

「まぁ・・・確かにねぇ。六花さんは勉強面では優秀だものねぇ」

「そうでしょう?魔法に問題があるのは確かだけど、せめて見学くらいは許されるべきですよね?」

「そうよねぇ・・・見学なら魔法はいらないし

・・・って私が許可しなくても、紫さんのことだからトープ先生は先におとしてきてるんじゃない?」

「流石先生、ご明察

・・・というわけで六花ちゃん、合同授業は一緒に活動できないけど、見学だけは許可されました」

「ほんと!?ありがとう紫ちゃん!!!」


紫ちゃんの笑みがふかーくなる・・・あーこれは相当怒ってたな


「気にしないで六花ちゃん・・・勘違い馬鹿は早めにたたき落とさないといけないし」





・・・ちなみに数十分前・・・



「トープ先生?」


「誰だねこの忙しいときにっ・・・っ!久我会長、何か?」

「2年の合同授業の件で

 今回代理で監督を任されたんですが、白峰さんは不参加で?」

「えぇ・・・よりにもよってローズマダー家のお嬢さんと問題を起こしたので」

「けれど私が聞いたところ、相手は我が魔女科を大変馬鹿にしてらしたとか?」

「い、いえそれは」


途端にトープ教頭の光る額に汗が滲んできた。

この教頭、緊張が高まるとデコが光るのだ


「なんなら証拠もお見せ・・・いえお聞かせしましょうか?偶然に(・・・)我が魔女科の魔科学部が通信実験中に音を拾いまして

こちらに録音した記録石もあるんです」

「え、はぁ・・・それは存じ「優秀な教官なら、こんなこと知ってらしたでしょうね?

あぁでもそれなら何で白峰さんだけ罰せられたのかしら?それに私も魔女科の一員として、このように侮辱されるのは大変不愉快です」


ここで更に紫は笑みを深めた


ただでさえ美人なのに、それに地位という付加価値がついて、見えない圧力はさらに増していく


ただの生徒会長というなかれ。なにせこの学園では、生徒会長と教員頭は同地位


しかも教師陣さえ気圧される実力派ぞろいの学園を束ねる生徒会長のほうが実質権力が強い



・・・しかも相手は理事長の愛娘!

理事長がこの一人娘をたいそう可愛がっているのは周知の事実



「特に母に・・・総監にお聞かせしたら大変ご立腹で」←わざと

「あ、暁様もこのことはご存じで!?」

「えぇもちろん・・・このままでは遅かれ早かれ父の、理事長のお耳にも入るでしょうね

魔女科と普通科のいざこざならともかく、ローズマダーのお嬢さんは勝手に我が家のことを笠に着て、たいそうなおおボラを広げてらしたようだから」


教頭の精神は最早限界に近かった


伯爵家にいわれるがまま白峰六花に罰を与えたら、今度は反対から更に大物が-よりにもよって公爵家、それも理事長の家がでてくるなんて!


あの我が儘お嬢様も大変なことをいってくれたもんだ!



「これからも今回のように、無関係なお宅にうちの家名を使われては困りますもの

喧嘩両成敗ということで、くれぐれもよろしくお願いしますね?」



・・・この間、わずか5分・・・





「ふふ・・・ヤッパリ権力よね」

「紫ちゃん、発言が黒いよ」


まぁ私も権力大好きだけどね!学頭以上になったら特別図書の貸し出し許可もらえるし!

↑今は紫に頼んで借りてもらっている人



「六花ちゃん、顔がにやけてる」

「えっ!?

だって学園で権力あったら、貴重な本も読み放題かと思うと・・・」


これには紫もカナリアも、好意的な苦笑を返した


「本当に白峰さんは本が好きねぇ

先生、この仕事初めてもう50年くらいになるけど、本に埋もれて死にかけた子なんて貴方が初めてだったわ」

「確かに、アレは流石の私でも驚いたわ

地響きがしたから、何かと思えば山積みにされた本が崩れたって?あれはある意味、我が寮の伝説ね」

「一夜にして寮を全壊させた紫ちゃんもね」

「あら、切り返しが上手くなったじゃない

ただ私の場合は故意にやったことだから・・・六花ちゃんのは偶然だから面白いのよ」


紫がククッと笑みを漏らす

口の端を上げたそれは、見る者によれば挑戦的にも見えるだろう


しかし彼女を知るもの達に言わせれば、それは『お気に入り』の合図


そもそも嫌いな人物に、紫は関わらない

ただし相手が関わってくることがあれば、権力と魔法と口をもって、そのことを後悔させるが



「でもほんとに、白峰さんの知識はすごいもの

本の伝説を作ってるだけのことはあるわ、この間の魔薬のレポートだって、赤里先生絶賛してたわよぉ」

「だって、知らないこと知るのって面白いじゃないですか

なんかこう、見えなかったモノが見えるようになって・・・」

「世界が広がるかんじ?」

「そう!だから本を読んだり、いろいろ教えて貰ったりするのは好き

それにわたしどーしてもやりたいことあるし」



小さい頃からの憧れ


ずっと側で見てきた故に、強烈に惹かれた



同じ場所にいってみたい


そこから何が見えるのか知りたい




だから―――
















―――あの子もいい加減、学科変えればいいのに




―――なまじ頭が良いから、大丈夫だと思ってるんじゃない?




―――いくら筆記は首席でも、実技があんな・・・無様じゃぁねぇ?




―――よく入れたわよね・・・あぁ久我家と仲が良いから




―――でもよく耐えられるわよね?私だったら恥ずかしくって








                      落  ち  こ  ぼ  れ













その夢を叶えるために、絶対に今日の授業は参加したかった

本当は実技もしたかったけど、今のままじゃぁ駄目だって


自分が一番良くわかってる



こんな自分じゃ、『パートナー』だって見つからない


だからせめて











「・・・みつかるといいわね。運命のお相手が」

「運命・・・はちょっとくさいけど、いつか絶対見つけるよ

今回は見学だけだけど、次はぜーったい参加してみせる!」

「ふふふ~六花さんのそう言うところ先生好きよ~」

「甘いですよ先生、私は大好きですから・・・いじくりやすくて」

「紫ちゃーん、いまちょっと聞き逃せない単語を発しなかった?」

「ふふふ、気のせいじゃないかしら六花ちゃん?

・・・ま、私も奴が見つかれば見本でやるから、しっかり見学しなさい」

「・・・・・・すっごくみたいけど無理でしょ。今絶対お昼寝タイムだし、それに目立つの嫌いだし」

「というより奴はただ単にものぐさなのよ」


カチャリとカップを置いた


それが終わりの合図だった




午後の授業まで、もうあと少し












「あれ、ご機嫌斜めだねぇシェイド(笑)」

「ほっとけ」


おもしろそうに、顔をのぞき込んできたのは(かい)

物心つく前からずっと一緒で、まぁ俗に言う幼なじみという奴だ


名前の通り、髪も目も灰色で本人はあまり気に入っていないらしいが俺はあっていると思う

性格的に


何せこいつと来たら、そこらの女子がみたら腰砕けそうな笑みで、豪胆な精神の持ち主でも苦悶するほどの毒舌家なのだから



「あんまり僕の悪いとこばかり言わないでくれる?

それよりさ、聞いたよ。魔女科の子と喧嘩したんだって?剣士科の男ならいざしらず、女の子なんて珍しいね」


女の子苦手でしょ?うるさいって言って


「女嫌いに言われたくない」

「僕は相手を選んでるだけで、女嫌いじゃないよ」

「お前が女といるところなんて見たことないぞ?」

「それは邪魔じゃない女の子がいないだけ。邪魔な奴と一緒にいたって僕になんの得もないし」


笑顔で言う科白じゃないだろ


それに、別に俺は苦手なわけじゃない

奴らは面倒なんだ、一人が嫌というと全員が嫌というし


没個性の塊だろ?特に普通科は




「貴族科って言ったほうが正確」

「たまには嫌味と皮肉なしで喋れないのかお前は」

「僕は正直なだけ、建前がない人・・・いや人でもない半端ものだからね」


灰色の髪に、手刀がうずまる



「自虐発言、ペナルティ1」

「・・・まいったなぁ、治ったと思ったのに」



自嘲


誰よりも冷笑主義な親友は、自分すらも




「治ったと思えただけましだ・・・俺はまだまだ」


茶髪に手刀がうずもれた



柔和な笑みが戻る


「シェイドもペナルティ1、急ぎすぎ

まだ僕ら15歳なんだからゆっくり行こう・・・っていったよね?」

「・・・・・・」



不服そうな顔

その理由を灰は知っている、理解している、しょうがないと思っている


けれど急いで欲しくないのもまた本音



彼は我慢しすぎている。そしてそれを我慢とすら気づいていない。

今しかない大事なもの、そこら中に転がっている・・・はずなのに


彼は一つも持っていない。それをつらいとも思っていない。


それが灰には一番悲しい




気づかせてあげられない自分は、嫌い






「いい天気だね」

「ん」



空を見上げる


並んで歩く



その退屈が、幸福と思えるまでに







彼はあと何年かかるのだろうか?









ちょっとシリアス。次からセカンドコンタクトです(笑)

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