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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
47/59

迷い子達 1

夏休み、はじまります



家の外に出ようとすると、なぜだかいつも誰かが迎えにやって来た

そうして皆が同じことを言う


――――1人で外に出てはいけないよ


――――夜に外に出てはいけないよ


――――門から外に出てはいけないよ



『どうして?』


頬を膨らませ問うと、自分よりも大きな手がそっと頭を撫でて


『外は危ないんだ』


だから帰ろう。そう言っては大きな手で自分の手をとり、また中へと戻っていく


『どうして帰る時は手を繋ぐの?』

『だって迷子になったら困るだろう?』


笑う人の先、扉の向こうには明るい光の灯る家


暖かい場所 帰る場所


迷うはずがない。ずっと、永遠にそこに在り続けるのだからと



―――――――信じていた












肩にかかっていた重みが消えた

視線をやると先ほどまで寄りかかっていた六花の頭が、腕のあたりまでずり落ちている


起こさないようにそっと頭を膝にのせる。熟睡しているのだろうか、起きる気配は無い

それに安堵し、紫は再び手元の本に視線を落とした


道が悪いのか、不規則なリズムで揺れる車内は読書には不適な環境だが、紫は気にせず本を読み続ける



――――最近、悪い夢ばかり見て


そう六花に相談を受けたのは、数日前の事だった

夢は何かの予兆とも言われる。特に魔女など特別な力のある者の夢は、意味を持つことが多い


紫はその手の方面は不得手・・・といってもあくまで紫基準の“不得手”であって、一般的な不得手とは次元が違うが


ともかく、夢占いをしてほしいとかそういう類の頼みかと思っていた


けれど


――――違うの。覚えてないの


朝起きる度にとめどなく涙が零れ落ち、泣き叫んだように喉に痛みを覚える

けれど夢の内容は覚えていないというのだ。それでも、ただ“悪い夢”だということはわかると



・・・・・・悪い夢、ね


私は読んでいた夢占いの参考書を放り投げる

念のためにと持ってきたけれど、きっと役に立たない。これが“役に立たない”夢というその事実に、腹が立つ


放り投げた本は短い軌跡を描いて向かいの―――二人掛けの席を占領して呑気に寝ていた紅の腹に当たった

紅は眼だけを開けて腹にのった本を掴み、眉尻を上げた


「1000頁越えの書物を投げるな」

「丁度八つ当たりできるモノが貴方しかいなかったのよ」


言い捨てると、紅は愉快気に口角を上げて


「帰郷で気が緩んだか?化けの皮が剥がれているぞ」


苛立たしげに顔を顰める様は、いかなる状況でも常に余裕の笑みを絶やさぬ何様久我様女王様の生徒会長とは程遠い


「――――だから、どうしたっていうのよ」


この馬車には紅と六花ちゃんしかいない。瑣末なことだ

いや誰かがいたとしても、どうでもいい。他人の目など、今ある問題に比べれば塵芥より価値が無い


きっぱりと言い切ると、紅は愉快気に笑い声を立てる

貴重だわ。でも今は六花ちゃんが寝ているんだから、よろしくない


出来るだけ太股を揺らさないように、片足を上げて紅の脇腹をつつく

それで私の言いたいことに気付いたのか、彼は片手で口を塞いで・・・肩を震わせた。一体何がツボに入ったのかしら?


笑うのは構わないが、己が笑われるのは腹が立つ

先ほどよりも乱暴に腹をつつくと、紅は僅かに視線を下げて


「見えてるぞ」


何が。とは言わない

あぁそういえば今日のスカートは少し短かったわね


だからと言って、気にする相手ではない


「それ以上まで見ておいて、何を今さら」


鼻で笑うと、紅はかるく肩をすくめて


「一応忠告しただけだ。俺以外の男の前でやられたら腹が立つからな」


さらりと言ってのけ、紅は半身を起こして私の膝を枕に眠る六花ちゃんの頭をそっと撫でた


「よく眠っているな。夢見が悪くて眠れないと言っていたが・・・」

「聞いてたの?」


学園から出た直後から、婚約者と可愛い従妹を放ってデカイ図体縮こめて呑気に寝てるものだと思ってたけど


「随分な物言いだな」

「文句があるならやめるけれど?」

「必要ない。そういうところも含めて愛してる」


真顔で言い切ったわねコイツ


私はわりと意図してそういうことをいうけれど、コイツの場合天然だからタチが悪い

計算ならタイミングが測れるのに。いやそれよりも、こんなところで愛って大盤振る舞いすぎでしょう


なんとなく口を開くタイミングを失う

静寂を破ったのは紅の方だった


「・・・・・・同じか?」


無意識に、拳に力が入る



夢と現実の狭間


目を覚ます度、目の前の現実に絶望し、涙する

幸せな夢は今無きそれへの悲しみを募らせ、繰り返す悪夢は変えられぬ過去への後悔を増す


泣き叫び、声が枯れるまで叫んでも何も変わらない。変えられない




―――――ねぇさん


過ぎった舌足らずな声を、頭を振って打ち消す

違う。これは私じゃないわ


何度も繰り返した言葉を言い聞かせ、立て直す


“久我紫”を




「・・・・・・わからないわ。10年前のことかもしれない」


あれも悪夢だけれど、私と“同じ”になるよりはマシだわ


でも


はっと乾いた笑みが零れる


「過去の悪夢か未来の悪夢か。どちらを選んでも結局は悪夢

――――ふざけてるわね」


吐き捨てた言葉は、車輪の止まる音に紛れて消えた










一段と大きな揺れで目を覚ますと、始めに目に入ったのは淡い紫色の髪

ぼんやりとした視界の中、その人の名前を呼ぶ


「―――――?」

「・・・・・・六花ちゃん?」


問われ、次の瞬間にはぼやけていた世界が正常に戻る

自然と口をついた名前は、次の瞬間にはもう頭から消えていた


「・・・・・・・・・・紫ちゃん?」


確かめるまでもない

私の方を覗き込んでる美人さんは、間違いなく紫ちゃんだ


ただいつもと違って、すごく驚いたような顔をしているけれど


「えっと・・・おはよう」


え、あれ、もしかして私変なこといった・・・?

恐る恐る声をかけると、紫ちゃんはすぐにいつもの底が知れない笑顔を浮かべて


「おはよう。起きられる?」


言われて、やっと今の状態に気がついた

手早く詫びて車から下りると、既に他の皆は馬車から荷物を降ろしているところだった


「あー肩こった。ほんとなんで第二の“門”てこんなに遠いわけ?」


大きなトランクに腰かけ、ゆずりが肩を回しながら愚痴る

それには同感だけど、その足元にはそれ以上に疲れた顔をしたシェイドと灰くんが座り込んでいる


「・・・・・・・え、何事。灰くんまで」


シェイドだけならゆずりに遊び倒されたとかそういうのだろうけど、灰くんまでへたれてるなんて珍しい


「このドヘタレと一緒にされるなんて心外だな、白峰さん」

「誰がドヘタレ「君だよ」・・・・・・あのメンバーで5時間も車に乗って、疲れないわけないだろ!」


びしりと指差す先には、相変わらず黒一色の黒駒さんと、彼にべったりのゆずり、そして本当に合宿行く気あるんだろうかと疑いたくなるほど軽装な篁さ・・・あぁ


納得したわ


ド天然黒駒さんとマシンガントーカーしかも恋愛脳のゆずり、自称お茶目な篁さんと狭い車で5時間もいればそれは疲れるわ


よかった、私違う車で!


「・・・・・・今、無性にお前を殴りたいんだが」

「10倍返しであばら折られたいならやれば?」


にこやかに笑うと、シェイドは無言で首を垂れた。勝利



「皆、疲れているところ悪いけれど、先に門の手続きをしてしまいましょう」


紫ちゃんの声に元気よく・・・一部は力の無い声を返して、“門”を目指した











第一世界と各世界を繋ぐ“門”は“境界”と呼ばれる建物の中にある

駄洒落のつもりか、それとも神聖なイメージをつけたかったのか、大抵境界は教会の聖堂に似た建物になっている


“門”のシステムは詳しくわかっていないけど、何度も開けるものじゃないらしく、大抵開くのは月に数える程度だ

その日は1日開くけど、人数に制限があるから、下手をすれば朝門に着いても夜まで門を使えないってこともざらにある


そのせいか、境界の周りはちょっとした繁華街みたいになっていて、門目当ての人や純粋な買い物目的の人なんかで結構賑わっていて――――特に女の子にとっては、最高の暇つぶしだ



「ね、六花、荷物預けたら買い物行かない?

第二の“境界”なんてこんなことでもなきゃ、来る機会ないし」


とりあえず手続きを終わらせて、承認待ちの間の暇を持て余していた私達に提案したのは、もちろんゆずりだ


「あ、行きたい!今日混んでるから、通れるとしても夜になるだろうしね」

「じゃけってーい!さっき見てたら、結構好みな感じの店あったのよ!」

「あ、そういえば雑誌で『ciel』の新作ジェラートが出たって載ってたっけ」

「なにそれ、食べたい!じゃー食後のデザートはcielで~」

「・・・・・・お前ら、元気だな」


はしゃぐ私達と対照的に、シェイドは未だへたっていた

ちなみに灰くんはいつの間にか露天で食料を買い込んでたらしく、明らかに容量オーバーな量を次々と胃袋に納めている


・・・・・・そのわりに、細い。あぁなんて羨ましい体質


私は思わず自分の脇腹を掴んで・・・むなしくなった

最近、紫ちゃんお手製スイーツばっかり食べてたから・・・・・・っでも、わかってても、目の前に出されると食べちゃうのよねぇぇぇ・・・・・・


ちなみにゆずりも同じことを考えていたらしく、私達は2人でがっくりとうなだれた

そんな私達に、追い打ちをかけるような一言



「残念だけど六花ちゃん、ゆずりちゃん。買い物している時間はないわよ」

「「え!?」」


そんな!夏休みの楽しみの一つなのに!


さらに肩を落とす私達に、紫ちゃんは笑って


「買い物なら第二に着いてからすればいいわ」


差しだされたのは、通行許可証×人数分


「皆急ぎなさい、門が開くのは10分後よ」











「・・・・・・いったいどんな裏技を」

「ふふ、父に事前に頼んでおいて・・・ちょっと」


要するに持てる権力をフル活用したわけね。流石


感心しつつ、私達は―――周りから妙に距離をとられながら、“そこ”に入った

もちろん距離を取られる原因は、公衆の面前で相変わらずまんま死神の恰好をしている篁さんと、やたらと不機嫌そうな黒ずくめ黒駒さんだ


「・・・・・・・・・ゆずり、黒駒さんの機嫌なんとかならないの?」


さっきまで普通だったはずなのに、境界の奥―――“門の間”に入った途端、急に不機嫌オーラをまき散らせ始めた


「むーり、さっきからどうしたのか聞いてるんだけど、嫌な臭いがするとしか言わないのよ」


ゆずりは肩をすくめ、反対隣にいる灰くんに声をかける


「あたしにはなーんにも臭わないんだけど、灰くんも・・・なんかありそうね」


言葉の通り、灰くんもさっきの食べっぷりが嘘みたいに、青白い顔をしている


「こいつは門を通る時は、いつもこうだ」

「・・・・・・むしろ僕達からすれば、なんで君達にはわからないのかが不思議だよ」


手で鼻と口を押さえたまま、灰くんは不機嫌そうに眉を寄せて


「“魔力”の匂いは色々嗅ぎ慣れてるけど、ここが一番酷いね」


そういえば、獣人は魔力を匂いで感知するんだっけ

魔力は人によって花の匂いだったり、果物の匂いだったり・・・変わったのだと溝の臭いなんかもあるらしい


「そんなに変なの」


他愛無いゆずりの問いに、灰くんは真剣な声音で


「変どころか最悪だよ。だってこれは―――――」





しゃらりと、鈴の音が聖堂に響く

途端にざわめきは収まり、空気が堅くなる気配がした


静寂の中、唯一響くのは鈴の音と静かな足音


動きの止まった中で、唯一動くその人物は第一でも、第二のものでもない衣装を身にまとっていた

色鮮やかな布と糸を使った装束はどこかの民族衣装のようだ


頭から飾り玉のついた紗を何枚も重ねて被り、顔を面で覆っているせいか顔どころか髪の色、性別すらわからない


名前すら明らかにされない彼らを、いつからか人はこう呼んだ




“門番”と




「―――――静粛に」


厳かに言い放ったのは、壁の端に立っている男の人で、彼は面も、鮮やかな衣装も身につけていない


「これより門を開きます。私語は慎み、物音も立てないように


――――守っていただけない場合、命の保証はありません」



低い声が聖堂に響き渡り、言葉が行きとどいたのを確認して、男の人は門番に向けて深々と礼をする

それに頷き、“門番”はまた鈴の音と共に、“門”の前に移動する


門はその名の通り、門の形をしている

ただ首が痛くなるまで見上げなければ全体が見えないほど、大きい


遠目にはよく見えないけど、細々と文字や図形が彫りこまれていて、中央には大きな赤い石がはめ込まれている



鈴の音が、ひと際高らかに鳴り響く



それを合図に、六花達は一斉に目を閉じた

“門”を開く魔術は強力で、その光は目を焼くほどだからと“門”を開く時は目を閉じる決まりなのだ


鈴の音が鳴る


同時に目をつぶってもわかるほどの光が溢れ、体がどこかに引かれるような感覚

それに濃厚な魔力の気配


たしかに、これが臭いなら強烈だろうなぁ・・・     あぁ、そういえば



さっき灰くんはなんていってたっけ?







“最悪だよ”



そう、確か





“だってこれは――――――――血の臭いだ”








一部の折り返しに来ました。

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