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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
45/59

追加要員募集もとい拉致 5



ずっと探していた


あの日、“名前”をもらったあの日からずっと  ――――“あいつ”をさがしていたんだ





居たたまれない、とはこういう状況の事なんだろうか

六花は戦利品たるアリネ栗のタルトを咀嚼しつつ、さりげなく食堂を見回す


「・・・・・・・予想通り、というかまぁね」


わかってたけどね、うん   目立つ


いやまぁ目立つだろうとは思ってたけどね

なにせただでさえ目立つ男・シェイドに、明らかに学生食堂にそぐわない上につい先ほど食堂を破壊したゴシック系美形・黒駒さん


それに本当についさっき、剣士科4人を完膚なきまでにうちのめしたゆずり


現在進行形で学園中の話題をさらっている面子がこれだけそろっていれば、目立つなって方が無理か

思わず遠い目をする六花に、間髪いれずゆずりがつっこむ


「また自分のことを棚に上げてアンタは」

「なにが?派手ーなアンタ達と違って私は地味カラーで地味に生きてるの。目立つわけないじゃない」

「とのことだけど、相方として一言どうぞシェイドくん」

「こっちに振るな・・・・・・あと六花、図書館やらなんやらであれだけ破壊工作しておいて何言ってるんだお前」


失礼な。全部正当防衛よ。存在自体が目立つアンタ達と一緒にしないでちょうだい

まだギャーギャー言ってくる連中を無視して、頼んだ紅茶に手を伸ばす



・・・


・・・・・・・ん?


「えっと、あの・・・黒駒さん?飲まないんですか?」


オレンジジュースを前に、黒駒さんが固まっている

もしかして嫌いだったのかな?メニュー見てわからん、とかいってたからゆずりが適当に頼んだんだけど・・・しかし黒駒さん+ジュースってこれまたシュールな


「あ、ジュースダメならあたしのと交換します?一応オーソドックスな炭酸水だし」


ゆずりがかいがいしく申し出る。まさかこれ狙ってオレンジジュース頼んだんじゃぁ・・・・・・うん、コイツならありうる

でも黒駒さんはゆるく頭を振って


「いや・・・」


また沈黙。なんだなんだ?

ゆずりと顔を見合わせ、どうしたもんかと首をかしげる。と、


初めて、黒駒さんがまともに表情を動かした。眉尻を上げ、疑問の表情を浮かべて




「・・・・・・なんだ、この橙色に着色された、糖分臭のする液体は」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


ゆずりと、それからまたも珍しいことにシェイドとぴったり5秒顔を見合わせ・・・椅子ごと体を寄せ合う



「いやー・・・ゆずりさんわりと人生経験豊富な方だけどこれは初めてだわ!」

「なんていうか浮世離れした雰囲気の人だったけど、これで一気に常識突き破ったね

まさかシェイドを上回る世間知らず発言が来るとは・・・!」

「おい、いちいち俺を比較に出すのはやめろ。それに俺はジュースくらい知ってる」

「そんな当たり前のことで胸張ってる時点で、世間知らずだって言ってんの。この非常識人」

「非常識極まりない腕力のお前に言われたくない」

「一応これにはちゃんとした理由があるんですー。無意味に箱入りなあんたと一緒にしないでくれる!?」

「無意味とはなんだ無意味とは!それに箱入りって言うな!」

「箱入りがダメなら重箱入りとでもいえばいいわけ?それとももっと鉄壁な鋼の箱か!超合金製か!?」

「そんなものに入れたら息が出来ないだろうが!」

「え、そういう問題?ってちょーっとお2人さん!痴話喧嘩はそこまで!「「痴話げんかじゃない」」


あぁはいはいわかったわかった・・・あ、ごっめんなさい黒駒さんvえっとそれはですねぇ、オレンジって果実の汁に砂糖とかまぁ色々ぶっこんで甘味を足した飲み物です。別に危なくないですよぉ」


さりげなく側により、ちゃっかり手を握ってグラスを持たせるゆずり

・・・あんた、なんかそれちょっと、どうなの。っていうかそうやって無駄にアクティブだからいつも逃げられるんじゃないの?



私の呆れた視線を気にも留めず、ゆずりは黒駒さん相手にささぐいっとなんてやってる―――おじさんの飲み会じゃあるまいに


ともあれ戸惑っていた(表情変わってないけど多分)黒駒さんは意を決したようにジュースを一口含み、止まった


・・・・・・さてどうなる?


ごくりと喉がなる。こんなに他人の反応が気になるのは初めてかもしれない


って、たかだかジュース飲むだけでこんな緊張する必要あるわけ?―――――頭の中の冷静な部分のまともな忠告は今回だけ無視することにした。この状況でマトモでいるのは私の精神衛生上大変よろしくないからだ


あぁ、なんかここ数カ月、現実逃避スキルだけガンガンレベルアップしてる気が・・・・・・



緊張の一瞬、そして――――



「・・・・・・うまいな」


たった一言。でも今までで一番“気持ち”の入った言葉だったと思う

嬉しそうに声を上げるゆずりに同調して思わず笑って―――それからほっと、ため息


なんだろう。なんだかやっと、生きた“黒駒さん”を見た気がするからだろうか

今まで不自然なくらい表情が変わらない、篁さん以上に感情表現に乏しかったからなぁ。なんていうか


人形っぽい人、だったから


完璧に美しい、でも何があっても顔を変えない、心もない、空っぽな―――







――――――  もったいないよ  ――――――



うん、そうもったいない

そう結論付けて、“私”は笑った


だってそんなに綺麗なのに、人形みたいに無表情なんて



――――――  笑顔の方が、絶対素敵だよ  ――――――





そう、だから・・・・・・だから?


だからなんだって言うの?いやそれよりも、今のって








だれだった?








「・・・六花!」


はっと顔を上げると、ゆずりが眉を寄せて顔を覗き込んでいた

反対隣のシェイドまでも訝しげな顔でこちらを見ている―――思っていたより、ぼーっとしてしまっていたらしい


「あ、ごめん。なんでもない、ちょっとぼーっとしちゃっただけだから・・・」


軽く笑って、2人の視線を避けるようにタルトをついばんだ


―――――私じゃない“私”の白昼夢(・・・)


一瞬浮かんだ考えを、頭を振って否定する



ありえない、ううん、そんなことあってはならない(・・・・・・・・)


だってそれは、最悪の







悪 夢 だ







だから知らないふりをした


ゆずりが黒駒さんにベタベタしてるのに呆れて、シェイドがボケたらつっこんで、いつものように笑って

――――いつものように、いつもの私のまま


気付かなければ、無かった事にすれば、このままでいられると思ったから










とても“しあわせなゆめ”をみました


夢の中の私は幸せそうでした

隣に大好きな人がいて、大切な家族が、仲間がいて、皆が一緒に居て、笑って


とてもしあわせなしあわせな・・・“わるいゆめ”でした



だってその幸せはここにはないもので


どんなに欲しくても手に入らないもので


ほんとうは“わたし”はそこにはいないのに



ずっとずっとつづくんです


しあわせそうな“こえ”が “かお”が  “きおく”が    つづくんです



私がどんなに望んでも届かないのに、涙が枯れるほど泣き続けて喉が裂け血が流れるまで叫ぶほど恋しいのに


もう二度とそこには戻れないのに



ずっとずっとずっとずっと・・・  気が狂うほど  かなしくなるほど    “永遠”に




幸せで かなしくて 愛しくて おそろしい  ゆめが







ひと月ぶりの更新・・・!

どちらかというと本編と言うよりおまけ的な話です。


シェイドが霞むほどのド天然黒駒。これからどうメンバーと関わっていくのかお楽しみに(笑)

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