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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
43/59

追加要員募集もとい拉致 3




緑玉(りょくぎょく)のおかげでいい感じに見晴らしの良くなった森にゆっくり降下し、安定した地面の感触にふっと息をつく


「―――で、ヤった?」

「・・・・・・・言い方がえらく物騒に聞こえるが気のせいか?」

「幻聴じゃない?桜さんに薬調合してもらえば?」

「遠慮する。余計に悪化しそうだ。それよりもお前・・・」


溜めの瞬間、私は咄嗟に両手で耳をふさいだ

シェイドが眉を吊り上げて叫んだのは、ほとんど同時だった


「いくら作戦だからってあの高さから落とすか普通!?死ぬかと思ったぞ!」

「死んでないからいいじゃない。それにちゃんと防御結界張ったし!」

「お前の結界が信じられるか!」

「実戦で何度も使ってるでしょ!?いい加減信用しなさいよ!

それに結果的に、黒駒さん捕まえたし、アンタも生きてるし、いいじゃない」

「そういう問題じゃなくてだな・・・」


倫理観とか道徳観とかぶつぶついってるシェイドをスルーし、私はゆずりの方へ足を向ける

こちらを振り向き、獲物(黒駒さん)の背中に乗ってとったどーと言わんばかりにいい笑顔・・・あんた獣士っていうか狩人とかの方が向いてるんじゃない?


ともあれ、いきあたりばったりだったけど、上手くいって良かった



「・・・そういえば、攻撃系の魔術なんかいつ練習してたんだ

お前、訓練の時もまだ使ってなかっただろう」


文句を言うのは諦めたのか、それともとりあえず置いておくことにしたのか、気を取り直したシェイドがいかにも驚いた風な目でこちらを見て来た


いやーまぁそういう意味で驚いてくれるのは嬉しいけど


「あれ、攻撃魔術じゃないわよ」

「なに?」

「というか魔術じゃない。失敗作。適当に苦手な術に目茶苦茶魔力叩きこんで爆発させただけ」

「あぁ、要するにいつもの失敗「わ・ざ・と・だけどね!」


そうわざと。大事なことだから二回言うわよ。なんなら3回だっていうけど

とにかく、あれは失敗だ。威嚇になりそうな攻撃魔術は知らないから、代わりにわざと爆発を起こして攻撃に変えた


・・・・・・まぁ、今までの教室爆破記録も無駄じゃなかったってことね


一応私なりに、魔術を失敗する理由は自覚している。だからやろうと思えばわざと失敗することも出来るし、経験から爆発を調整することも出来る

――――失敗するのは簡単なのになあ・・・



ともあれ、黒駒さんが直線距離しか進まないって言うのがわかってたから、罠にかけるのは簡単だった


進行方向と左右に攻撃を仕掛ければ、当然後ろにしか行きようがない

しかも私の場合、必要以上に高濃度の魔力を叩きこんだから、魔術が発動した後も魔力残滓のおかげでいかにも“まだ魔術残ってます”って風に思わせることが出来る。魔女と違って、五感だけで魔力を感知する獣人ならなおさら


そこにさらに背後をゆずりの魔獣・大蜘蛛の緑玉で潰して続いてシェイドを投下

連続攻撃で焦ってる所に、逃げ道を作ってやれば“理性”より“本能”優先の獣人なら、飛びこむ可能性は高い


・・・一か所だけ魔力残滓が早めに無くなるように、魔力量調整するのはちょっと大変だったけどね

魔力コントロールは一番苦手だから、けっこう大雑把になっちゃったけどまぁ終わりよければすべてよし。うん



「はいはーい、いちゃつくのはそこまでよお2人さん

じゃーさっそくこの根暗(推定)くんを紫さんのとこ連行しましょー


ってわけでまずはお顔拝見・・・」


つっこむ間もなく、ゆずりは黒駒さんの上に跨ったまま無理矢理彼の身体を反転させて







「貴女の顔、配色、パーツ、どれをとっても好みドストライクなんです!付き合ってくれません!?」


告った。いや叫んだ


というところで回想は終わり。いや長かった、うん

じゃなくて



「ゆずり、あんたのスピード告白は慣れてるけどせめて馬乗りはやめなさい。馬乗りは」


至極まっとうなことを言ったつもりだけど、あの恋愛脳女聞いちゃいねぇ

相変わらず腹部に跨ったまま目をキラッキラさせている


と、今にも押し倒さんばかりに身を近づけているゆずりの身体を無理矢理起こし、黒駒さんが半身を上げる




「・・・・・・・・・篁さん2号か?」

「いや、むしろくぅ兄黒Ver?」


上がシェイド、下が私の初見


そんな黒駒さんを一言で言い表すなら・・・黒。とにかく黒、黒以外思いつかない、全身黒ずくめの人だった

ボサボサなのか、そういうヘアスタイルなのかよくわからない襟足の長い髪はひと房だけ銀色が混じっているけど、それ以外は交じりっ気のない完全な黒


それは服装も同じで、魔術の紋様が織り込まれた半袖の上着も、その下の七分袖のシャツ、ズボンも全部黒一色だけど耳やら首やらにジャラジャラついてるアクセサリーは例外なく全部銀色で統一されている


にしてもなんというか、こう、全体的にゴシック系というかワルっぽい雰囲気?

5年生ってことは18か19だろうけど、それより年上に見える



そして見た目は、もちろんゆずりが告白するだけあってまごうことなき美形だった

中性的とまではいかないけど、どっちかっていうとかっこいいというより綺麗な感じの人


そんな黒い人、もとい黒駒さんの第一声は



「・・・誰だ?」


ですよねーっ!そりゃそうだ。当たり前すぎるけど、なんだろうこの当たり前じゃない状況においてのこの違和感!


でもその当たり前じゃない状況を作った張本人は、あらイイ感じのハスキーヴォイスv、なんてほざいた上



「あ、アタシは獣士科2年の桃山ゆずり16歳、第四世界出身で家族構成はおじいちゃんに両親兄姉弟の7人+魔獣達多数の大家族、趣味はイケメンウォッチングと情報収集と色ボケした親友をいじり倒すことで目下の悩みは師匠がめんどうくさい人なのと食堂の限定スペシャルプリンサンデーが手に入りにくいってことです!さ、とりあえずこれだけ知ればもう他人じゃないですよね?で、どうします?付き合います?一緒に青春しちゃいます?付き合いましょう!」


意味がわからない

いやゆずり恋愛Verに意味なんか求めても無駄か


なんせ前に、『なぜにそんなにイケメンが好きなのか』と聞いたら


『そこにイケメンがいるからよ!』


と胸張って答えた女だ。あの瞬間、この幼馴染の恋愛脳だけは死ぬまで理解できないと思った



「ああにしてもあなたが黒駒さんなんて!なんてナイスなタイミング!いえこれはもう運命ね運命!運命の出会いなんてベタくさいけど乙女の夢だからセーフよねセーフ!!!

あ、実はアタシ達あなたを学ゲーの勧誘に来たんです!だから恋愛的口説きついでに仕事的な意味であたしに口説かれちゃってください!!!」


勧誘が二の次になってるのはどうしたものか。紫ちゃんの恐怖すら上回るとは恐るべしゆずりの恋愛熱

ああでももう口を挟むのも面倒くさい。というかマシンガントークのゆずりに割って入るのは、かなり勇気があるか鈍い奴じゃないと・・・


「お前の私用は後回しにしろ、会長の要件の方が先だろう」


ああはいはい、いましたねー

そういう奴いましたねまさに私の隣に!・・・まぁ今回はいい方向で働いたから何も言うまい、うん



「・・・・・・お前達は?」


銀色の目がこっちに向けられる

同じ獣でも門番の熊や赤夜達とは違う、いやに静かに凪いで―――――そう、まるで






―――――――― お前の目は “  ” のようね






「・・・・・・あの」


目が、あう

考えるより前に、口を開いた


「前に、どこかで会ったことありませんか・・・?」


いつか  しずかな



「・・・・・・・・・いや、覚えはな「ちょっと六花!なにその使い古された口説き文句!恋愛に目覚めたのは大歓迎だけどもうちょっと言葉な選びなさいよ!いーい?まずは「ああすみません私のただの勘違いだったみたいです、はい終わり、ここまで。で、そうそう学ゲーのことだったよね、シェイド!」


面倒な話しはさっさと切る!これがゆずりと付き合うための鉄則だ

・・・話し振った相手はちょっとミスった気はするけど他にいないからしょうがない


「あ、ああ。えぇと、俺は剣士科のシェイド・ラ・ティエンラン、彼女は魔女科の白峰六花です

学ゲーでは久我会長のチームに所属していて」

「知っている」


静かな声、なぜかそれ以上口を挟めない響きがある


紫ちゃんや篁さんみたいに有無を言わさない感じじゃなくてもっと・・・自ら音を立ててはいけないと思わせる、壊しちゃいけない、神聖な静寂


思わず口をつぐんだ私とシェイドから目をそらし、黒駒さんはゆずりに向き直って


「どいてくれ」

「あら失礼、アタシったら」


きゃって頬染めて飛び退くゆずり・・・・・・・・え、誰アンタ?


キモッと思わず後ずさり、シェイドが頬をひきつらせた


だがそんな外野との温度差もなんのその

ゆずりは相変わらず目をキラキラさせたまま黒駒さんを見上げ、黒駒さんの方は立ちあがって衣服を払うとゆずりに向き直り



「順序は大切だ。先にお前の話を聞こう


それで――――――疑問がある。なぜ俺の容姿とお前に付き合うことに関係があるんだ?」


至極真面目に、言った




はい?


今度は別の意味で私達は固まった。思わずゆずりと目を見合わせる


・・・・まさか?  いやまだ、まだわかんないわよ!?


目と手振りで話し合って、とりあえず黒駒さんの次の発言を待つ


「そもそもなぜ初対面のお前に付き合って、どこかに行かなくてはいけないんだ」


きっかり3秒  制止


した後に私はゆずりと素早く身を寄せ合い


「私、こんなベタな発言する人がシェイド以外にいるなんて思わなかったわ」

「・・・いやーゆずりさんとしても、このケースは初めてよ

マジ予想外、いやクールな見た目とのギャップって意味では美味しいんだけどねー、うん」

「いやアンタの好みはどうでもいいから、私情いらない。というかどうすんのよこれ。アンタの話済まないと用事終わらないじゃない!今日講義が終わったら町にいって予約してた本取りに行かなきゃいけないのに!」

「あんただってじゅーぶん私情入ってんじゃないのよ

・・・まぁともかく、ちょっと予想外だったけどいいわ。このゆずりさんの恋への情熱をなめんじゃないわよ」

「恋へじゃなくてイケメンへ、の間違いでしょ」


無言できっかり3秒睨みあい・・・もうゆずりに丸投げすることにした


「さっさと振られて話終わらせて」

「口先だけでもいいから友人の恋路を応援できないのかなー」


軽口を叩き、私は一歩下がって1人取り残されたシェイドに並び、ゆずりは代わりに3歩前に出て


「言い換えまーす、貴方の顔、配色、パーツどれをってもアタシの好みにぴったりというかモロタイプで、ストレートにいえば配偶者になるかどうかの品定め的な意味でお付き合いして下さい!あ、ついでにペア組んで学ゲーで生意気な連中の鼻っ柱折っちゃいません?アタシ今フリーですし!獣士としても女としても!」


うん・・・・・・・・・・・・・・・・ドストレートすぎるわ、ゆずり



「・・・・・・他世界の女子はみんなあんななのか?」

「いや、ちょっと待ってシェイド!アレは特例!特例だから!」


他世界全ての女子を代表して意義を申し立てるわ

―――― アレが基準でたまるか!


しかしま、この告白で上手くいくわけが無い

ゆずりには悪いけどほんとさっさと振られて、黒駒さんを紫ちゃんのところへ・・・



「なるほど、理解した。そういう事情なら構わない」

「ですよねー・・・って」


え?


今度はシェイドと顔を見合わせた。流石の朴念仁も、これは異常とみなしたらしい

・・・つまり、かなり、相当に、おかしな事態というわけで


「「正気ですか!?」」


思わずユニゾンして黒駒さんに詰め寄る。その後ろではゆずりがこぶしを高々と掲げ、赤夜がシャレにならない狩りを始める3秒前な顔で唸っていた。怖!

対して黒駒さんは微塵も表情筋を動かさないまま


「伴侶選びは雌には大切なことだ。雄はそれに協力する義務がある」


淡々と、抑揚のない声が言う

でもいや、なんていうか・・・・・・まぁ種の保存優先な獣人的には正しいんだろうけど


なんか違う、なんか違う気が!ああでもなにからツッコミ入れればいいのやら


「だがもう一方の申し出は考えさせてもらう

その学ゲーとやらに協力して、俺になんの利益がある」


今度はシェイドも入れて3人で目を見合わせて


「・・・・・・なんというか、変わった人だな」

「あんたがいうのもなんだけど、その通りよね」

「あんたら2人にいわれるなんて、そーとーよね」


今さら学ゲーの利益なんて聞かれるとは思わなかった

学ゲー参加者は良くも悪くも注目されるし、結果を残せば学生の内だけじゃなく後々就職の面でも有利になるっていうのは1年生でも知ってる


目に見える実益で言うなら、優勝チームメンバーや特に優秀だと認められた人は特別奨学金が認められたり褒章もらえたりするし・・・・・・


と思いつく限り並べてみたけど、黒駒さんの反応は薄い

いやこの人出会ってからこっち眉ひとつ動かさないから元々そんななのかもしれないけど


「えーっと・・・・・・あとはまぁ、とりあえず権力と良い後ろ盾、それから確かな情報網は手に入る、かな?」


というか紫ちゃんチーム最大の売りってそれだよね

権力と後ろ盾って意味じゃ学生で紫ちゃん以上の人はいない


「はいはーい、後はメンバーだったらアタシと一緒にいられるのも利点だと思いまーす

やっぱりお付き合いするならお互いのこと知らなきゃだし・・・それに」


ふっと、ゆずりの声が低くなる

いつものつくった声じゃない、赤夜とかといる時の



「あなた、けっこー強いですよね」


獣士としての、桃山ゆずりの声だ


「まぁアタシも獣士なんでぇ、見ればわかるんですよ


んで、アタシ魔獣とはまあまあ契約交わしてるんですけど、獣人とはまだなんです

まぁ魔獣と違って1対1でしか契約できないから慎重ってのもあるんですけど~・・・・・・ま、ぶっちゃけいうと契約したいってやつと巡り合えなくて」


でも


「ドストライク☆イケメンってのとは別に、アタシの獣士としての勘が“イイ”っていってるんですよーあなた


だ  か  ら」


わざとらしくリズムをつけ、人差指を頬に当てて小首を傾げて



デートし・ま・しょv





うん、よし、もうどうにでもしてちょうだい


そうして私はもう考えることを放棄した



・・・・・・そうできたら良かったんだけどね!








そうは問屋が卸さない

・・・まま続きます!

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