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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
30/59

最悪の邂逅、その名も友の紹介 3




「・・・・・随分と、ご機嫌斜めね」


笑みを浮かべて言う女に、紅は珍しくきつい視線を送った

笑っていなされただけだったが


「当たり前だ・・・・何故六花に男と組手などやらせた」

「何か問題が?」

「密着するだろ」

「相変わらず、心が狭いわね。相手がいなかったからよ」


返答は単純かつ、明快だった


「篁はあの通りで、桜は体術に不向き。めぼしい友人は敵にとられているし、私が教え「それも駄目だ」・・・・貴方、怒るでしょう?」


で、肝心の貴方は一度もまともに練習に参加しないし

こう言われてしまえば、言い返すことはできない。紅は鋭い双眸をさらに細めて、口をへの字に曲げた


他人から見れば凶悪極まりない顔だが・・・付き合いの長い紫に言わせれば、拗ねているその顔が可愛らしくて

今度は心の底からニコリと笑い


「でも次からは来てくれるのよね?六花ちゃんから聞いたわよ

篁は『仕事』が入ってるらしいから、絶対に来なさい。来ない場合は私か六花ちゃんがシェイドくんの相手をするから

よく覚えておいて?」


わずかばかりの威圧を加えた声で、言いきった


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった」


そして長い長い、長すぎる沈黙の末

苦虫を一万匹ほど噛み砕き、不愉快、不服を前面にあらわした上で、絞り出すような声を持って、紅は了解した


そうせざるを得なかった。たとえこれが、自分を参加させるために彼女が張った罠だと分かっていても



六花が再び苦難に見舞われた間接的な原因の裏側は、こんな感じ









で、直接的な原因、リーアン・フィン・アズーロはというと


「・・・同志?」


その言葉が、いまいちしっくりこない

なんというか・・・・・・昨日の彼とシェイドの態度は、同志っていう秘密めいたというか熱い関係とは程遠い


本当に普通の、いじりいじられてる友達って感じだったから


「そう、無償で助け合う『友人』なんて甘い関係じゃない

お互いに利用して利用される、同志」

「・・・・・・何でそんなこと、私に言うわけ?」

「なんで?」

「質問返しは好きじゃない」


って言ったって、答える気はないんだろーな

私が答えるまで



「どんな事情があるのかは知らないけど、人にむやみに話していい事情じゃないでしょ?

特にそっちが、下克上なんて狙ってるなら」

「でも事情を知っておかないと困るだろ?」

「何でよ。第二世界のお貴族様達の権力抗争に、第四世界の一般庶民の私がどう関わるっていうの?」


なんかさっきから・・・的を得ないっていうか、はぐらかされている気がする

全部を言わないで、出し惜しみしてる感じ?


「君は一般庶民のつもりかもしれないけど、俺たちにとってはおーいに意味がある存在なんだよ?」

「遠回しな言い方は嫌いなの。はっきりして」


睨みつけると、わざとらしーく怖い怖いと肩をすくめる


・・・・・・・・・・・・・・・・・はい、アレです。私ってあんまり気は長くないのね?

というより短気なの。超がつく



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・さっさと吐かないと、最終兵器呼ぶわよ」

「君も持ってまわった言い方してるけど」

「じゃあ直接的にいってあげる

ドス持った兄さんに八分殺しにされたくなかったら、とっとと吐け」


沈黙


苦笑を交えて口を開いたのは、リーアンが先だった


「斬殺も嫌だけど、それより前に君にボコボコにされるのも嫌だなぁ

二目とみられぬ顔になりそうだし」

「心配しなくても綺麗に治してくれる人紹介してあげる

相場の100倍払えば、ちゃんとしてくれるわよ」

「・・・・・・・・・・・予想以上に人脈は広い。嬉しい誤算だな」


からりと笑って


「まぁもう手遅れだしな。お望みどおり、全部吐くさ」


脅されているとは思えない、非常に好意的な笑みで彼は答えた


あぁ聞かなきゃよかった!と六花が絶叫のち後悔するのは、ほんの数分後である











「これを燃やしていただけませんか」


最近後輩というか教え子のようなものになったシェイドに紫が会ったのは、紅をはめて少し後のこと


「未開封の手紙のようにみえるけど」

「一通見れば後は十分なので。無駄なものを置いておく広さはないし、邪魔なのでお願いします」


後輩――しかも最近少しばかり好意的な――の珍しいお願いに、応える気はある

が、紫は自分の好奇心を優先した


「別にわざわざ私に頼まなくても、ゴミ箱に捨てればいいんじゃない?」


言うと口をへの字に曲げて


「・・・・・・近場に見つかると厄介な連中がいるので」


それだけで、差出人には見当がついた

束になった手紙は封筒からして三種類に大別される


おそらく分類は彼の婚約者であるリアナ・ディ・ローズマダー、その実家であるローズマダー家

そして現在シェイドの後見人である叔父のローシェンナ侯爵


私なら読まずに即この世から抹消するわね

そう判断付けて、紫は手紙の束から一通とりあげ


「見ても?」

「・・・・・・かまいません。どうせ予想はついているでしょうが」

「どうして?」

「・・・・・・・・・・六花や周りの連中から噂は聞いています

それに俺より貴方の方が連中と手紙のやりとりは多いでしょう」

「顔を見たくないなら、手紙しか通信手段がないもの

にしても貴方ってこういうときは鋭いのね。どうして普段そんなに朴念仁なのかしら」


シェイドが噛み付くより先に、紫は妖艶に微笑んでそれを黙らせ、薔薇模様の便箋を

――驚くべき速さで一読した後、一瞬にして灰も残さず燃やした


「・・・・・・・・・シェイド君」

「な、なんですか!?」


裏返りそうな声を必死に抑え返すと、背後に黒いもやと地獄にいるだろう化け物背負って表面上優雅に微笑む学園最強の力と権力をもつ上級生は


「その不愉快な物体、今すぐこの世から塵も残さず抹消するから全て出しなさい」


有無を言わせぬ声で、繊細な指先を優雅な所作で、そして電光石火の速さでシェイドの眼前に突き出した


最近ヘタレだ何だといわれ続けている彼は、常人なら漏らしたであろう悲鳴を気合で飲み込み

最近磨かれつつある素早さで、軍隊顔負けのきびきびした動作を持って、差し出した



ちなみにその後彼は


「私の六花ちゃんに対してどういう言い草してやがるのかしらね、このボケ共は

全員一度地獄見させたほうがいいかしら?それとも社会的に抹殺してやるべき?真綿でじわじわ絞め殺すほうが楽しいかしらねぇ」


以下延々と、全く笑っていない眼差しで小さい子には聞かせられないおっそろしい内容を聞かされ続け



灰が思わず、素直に心配してしまったほどに神経すり減らしたとか


・・・・・・・・・・・・合掌










「シェイドが貴族の出身だっていうのは知ってる?」

「本人に聞いたことはないけど、名前でね。ミドルネームがつくのは貴族だけだもの」


・・・そんなところから始まるわけ、この噂流した理由


「まぁそう嫌な顔しないで。で、まぁ君も体験してると思うけど、貴族の間じゃ権力抗争なんて日常茶飯事

今の騎士王は若いし強い、その上後ろ盾も凄いから表面だってはないけどね

でも敵勢力はいる。その親玉がローシェンナ侯爵で、あのお嬢様はその侯爵家の取り巻きの一人、ローズマダー伯爵家の娘

爵位は伯爵だけど、血筋は古いし人脈もあって・・・権力はまあ強い方かな


で、まぁそういう繋がりでお約束なのが」

「ちょっと待て」

「なにーまだ本題入ってないのに」

「入ってないも何も、その説明はさっき私がたてた予想そのままじゃない

んなもん飛ばしていいからさっさと言え」


言葉が荒れてる?そんなもんもうどうでもいいわ


「君の予想をさらに詳しく説明してるだけだよ

いいじゃない、ちゃんと頭入れておかないと将来困るしさ」


・・・・・・・・・・・・・それだけで理解してしまった、自分の脳みそが忌まわしい


全部聞いても知らない知らない、何言ってんの?って言いたい。もの凄く言いたい

けど言えるならこんな面倒事に巻き込まれてないよねそもそも!くっそ!


「私理事長家と親戚っていったって、何の権限もない一般庶民よ!?

平和的な日常を望んでいるんだから厄介なことには巻き込むな!!!」


冗談じゃない冗談じゃない!私は陰謀渦巻く腹黒狸の巣窟、権力社会と関わるなんてごめんよ!

私が関わりたいのは本とか歴史とか遺跡とかそういう静かでかつ無害な世界だけ!


「まだ本題言ってないのに」

「言わなくても前振りと状況だけで十分わかるわ!

どーせその侯爵が伯爵と手ぇ組む証に甥っ子のシェイドとわがままお嬢くっつけようとしてるけど、アンタにはそれが邪魔でぶっ潰したいから私とアイツくっつけようって腹でしょ!?」

「だーいせーかーい。惜しかったよねぇ予想、あて馬じゃないんだ」

「あて馬のがいくらかマシだ!」

「俺にはあの伯爵令嬢より君のが数万倍マシなの」


思いがけず冷ややかな声に、文句を押さえて口を閉じた


「・・・・でもくっついたからって、アイツがあのお嬢のいいなりになるとは思えないけど」


勢いを殺して冷静に返すと、わかっていると頷いて


「別にいいなりになるなんて思ってない。でも困るんだよ

俺は家を乗っ取ったらローシェンナ家の下でいる気はないのに、あんまり権力持たれちゃ抜けにくいだろ?」

「ローズマダー家はローシェンナ家の腹心、今さらでしょ」


・・・・・・・・しまった


にんまりと、こんな時でも嫌な笑い方になっていないのが逆に憎らしい


「一般庶民はそんな事情、普通知らないと思うけどなあ。特に魔女だって言うならなおさら

第二の内情なんて、関わりないだろう?


―――今さらあがいても無駄だよ、白峰六花さん

俺はもう知ってるから」


一歩退く



・・・・・・・・・・・なんで


背を冷たいものが流れる


かまをかけてるだけかもしれない

しかしどこか冷静な自分は、彼が嘘を付いていないと言っている


だからって、簡単に話していいことじゃない


これだけは絶対に






『 絶対に、誰にも、言っては駄目よ 』







絶対に ダメだ


「でも別に言わなくていいよ」


へ?


呆気にとられていると、リィくんは笑って


「女の子いじめるような真似したくないし、それに君が久我会長やその従兄殿に、ただの親類以上に可愛がられてる、ってのは知られてるところではもう知られてるしね」


本当にそれだけなのか、退いたのか

判断は出来なかったが、この話題から抜け出せるなら、どちらでもよかった


「・・・・・だからって、別に私に力があるわけじゃないわよ」

「そこはあんまり期待してないよ。そこまで甘い人達じゃないだろうしね

それにまあ、俺もそういう理由だけで君とアイツの噂を流したわけじゃないから」


なに?


訝しげに見つめた先に浮かぶのは、意外にも純粋な笑み


「質問に答えよう。それから訂正。君の仮定はあと一つだけ間違ってる

俺が潰したいのはローシェンナとローズマダーが組むことじゃなくて、ティエンランがローシェンナに取り込まれることだ」

「シェイドが?」

「そう、まぁ・・・・今はそんなに有名じゃないけどね、アイツの家は貴族の中でも古い方で、それなりに力があるんだよ

まぁローシェンナから抜けたい俺の協力者が、ローシェンナ側につくと困るっていうのもあるけど」


肩をすくめて


今度は意味ありげに笑い


「でも別にそれなら、君じゃなくてもいい」

「・・・・・・や、いいもなにも私別に望んでないし


ってちょっと待って!?なら何で私!他の子とでっちあげちゃえばいでしょ!?

わざわざ、自分で言うのもあれだけど、魔女なんて鬼門持ってこなくたって!」


「まぁ確かに、君巻き込むと面倒なことになりそうだけどさぁ

―――――シェイドには君がいいから」


は?


「どういう、意味?」

「んーなんというか、アイツ色々複雑だろ?聞いてる?」

「詳しくは何も。でもまぁ・・・複雑そうなのはわかるわ」


頷いて、少しだけ真面目な顔をする

真剣そうに見える。演技ならたいしたものだけど・・・


「前はなー何て言うか、自分の道以外どうでもいい。面倒な他人と関わらない

一匹狼っていうと、アイツには格好良すぎるけど。まぁ灰や俺以外にはだいたいそんな感じ

別に組むだけなら、それでいいけど。俺一応アイツのことは、友達としても気に入ってるんだ」

「・・・・・・さっきは同志っていってなかったっけ?」


六花が返すと、リーアンはくすりと笑って


「同志兼友達、ただし比率は7:3くらいのね

まぁそれはともかく。そんなアイツが、なんでか君にはつっかかっていくんだよなぁ

巻き込まれやすくて面倒事も多いのに」


ちょっとその発言は失礼極まりないわよ・・・

私が巻き込まれるんじゃなくて、他人が勝手に巻き込んでいくのよ!


「・・・・別にそれは、紫ちゃん命令で組まされたからで」

「いいや」


きっぱりと、今まで柔らかく話し続けてきたリーアンくんは、そこだけ力強く否定した


「それならアイツは、一定の距離とりつつそれなりにやるさ

対人スキルは欠如してる空気読めない奴だけど、外交が下手なわけじゃない。スイッチ切り替わるからね

命令ならなおさら割り切る


なのに、アイツは君を、よりにもよって『ローシェンナ』から庇った。これは、前のアイツを知ってる俺たちにとっては大事件だ」


何か・・・おかしい

リーアンくんというシェイドと、私が知ってるシェイドが噛み合わない


まぁ確かに、初対面じゃぁ絡まれてる人放っておくような奴だし、空気読めないし

でもリーアンくんの話みたいな『冷たい』奴ではなかった・・・・と、思うたぶん



「・・・・別に、納得する必要はないよ。ただ俺はそう思ってるだけの話だし

でもその俺の話の中では、君と関わることでアイツが確かに何か変わったってこと


好みの方向にな。だからアイツの友人としては、どうせ無理矢理くっつけてやるなら君がいい」


だ か ら


「とりあえず外堀埋めてー、意識させてー、あとどっかに閉じ込めでもしたら間違いで出来上がっちゃわないかなーなんて「ちょっと待て―――!!!!」


途中まで一方的でも割といい話だったのに、最後で台無し

色々台無し!っていうか出来上がるってなに!?私らは料理かなんかか!!!



「えー簡単に言えば男と女の営み?今はちょっと早くても2、3年すればさぁ、ね?」

「ね?じゃない!」

「手ぇ出しただけでも十分だろうけど、ついでに出来るもん出来たらもっといいな

責任とって結婚させられるし?」


恐ろしい・・・・!


爽やかに、無駄にキラキラオーラ出しながら何言ってんのこの人!


「・・・・アイツの周りって、あんたみたいなのばっかりなわけ?」

「シェイドは普段ツンツンしてるくせに、いったん遊ばれモードになるといい弄られキャラになるから

先天的にドS引き寄せる体質なんだよ。きっと」


迷惑すぎる!というか嫌だ、そんな体質


「とまぁ、そういう目論見があって噂流したわけ

んでついでに、お相手としての最終選考も兼ねて。アイツちょっと真っ直ぐすぎるところもあるから、頭切れる人が傍にいた方が俺にとっては都合いいんだよねー

良かったぁ、印象通り悪知恵も頭も切れる子で」

「勝手に選考するな!応募した覚えなんてない!」

「他薦」

「誰だよ!」

「俺v」

「ふざけんな!」


思わず振りかぶった拳は、紙一重で避けられた

ちょっと無駄に優雅に避けられたのは余計にムカツク!


「危なっ・・・ふざけてないよー俺、真面目

だからアイツ好きになったらすぐ報告してね。最短ルートでくっつけられるよう力いっぱい応援するから」

「そんな未来はない!」

「そんな未来に向けて舵とりするのが俺の仕事なの

自分のためなら俺なんでもやるからねー、覚悟しておいて?」



あはははははは


爽やかに、高笑いしつつ立ち去る彼の背中に向けて








「出来るかああああああ!!!!!!」



叩きつけるように、六花は絶叫した




――――あぁ遠く離れたお父さんお母さん、ついでにおじいちゃん


      初恋もまだなのに、勝手に結婚作戦が進行しています

      っていうか何この状況。アイツと会ってからほんっとうにろくなこと無いわ!



      いやでも諦めてたまるか!何としてもあがいてやる

      何でも思い通りに進行すると思うなよチクショウ!!!!!





ちなみに将来、この決意が実ったかどうかは・・・


今はまだいえません












日が暮れる。ほの暗く、ただ黄昏の色だけが差し込む部屋で

灯りをつけることもなく、紫は佇んでいた


一人掛けの椅子に腰掛ける様は、どこかの豪邸の女主人だと言っても納得できる


不意にすっと、右手を差し出して


「・・・・・・連中が、六花に目をつけた」


呟くと同時に、右手が淡い光を放った

途端に先ほどシェイドの前で燃やしつくした封筒の束が、そのままの姿でそこに在る


背後に放り投げると、薄闇に溶け込むように在った紅が掴み取り、不愉快気に舌打ちした


「・・・・・リーアン・フィン・アズーロ、なんでこんな奴がここにいる」

「落ち着きなさい、紅

たかが学生に知られるようなら、とっくにローシェンナにも知られていたでしょう」


だったらあの男は、とっくに六花に手を出していたはずだ

今までのところその様子もなく、いたって平穏


「せっかく今まで隠し通してきたのに・・・・・・・余計なことを」


今までにない、苛立ちを露わにした声

気の弱い人間なら震え上がっただろうが、その場にいたのは紅だけだった


彼は調子を崩すことなく


「アイツは巻き込むつもりのようだ・・・・・・いっそ消すか?」


手っ取り早く安全を確保するなら、確かにそれが確実だ。だが


「却下。過剰に反応すれば、余計に連中は六花ちゃんに興味を持つわ

それに彼自身はともかく、後ろは手を出すと面倒な相手よ。まあ、とりあえず保護者経由で警告するくらいしか出来ないわね」


最も、これ以上手を出すようなら、それだけで済ませるつもりはないけれど


「今はまだ学生の噂話に出ただけだから、軽く調べはしても、シェイドくんに釘刺す程度でしょう

このまま普通にチームメイトとして在るだけなら、知られることはないわ


―――――これまで私たちは、100年以上も隠し通してきたんだから」


肘掛についた手で、軽く髪をいじる

落ち着かない時の紫の癖だ



「なら」


するりとたくましい腕が背後からのびて、紫の首を絡め取った

ゆっくりと、自分の髪を梳く指の心地よさに目を細める


「もし万が一、六花とティエンランと恋人にでもなればどうする気だ

確実に調べ上げられるぞ」


お前はあの二人を、関わらせたいようだが


ひそりと耳元でささやく声に、初めて笑みを浮かべて返す


「睦言を囁くのと文句を言うの、両方とも同じ方法なんて無粋ね」

「俺は紳士になどなる気はない」

「期待もしていないし望んでもいないわ

・・・・・・そうね、確かに仲良くなれば面白いとは思ってる。実際に関わらせてもいるし」


でもそれは


「彼といるようになってから、少し変わったもの。六花ちゃん」


別にどうこうなって欲しいとは思わない。でも変化をもたらす人間が、近くにいるのは彼女にとっていいことだ


・・・・・・・悔しいことに、私達では出来なかったことを三日でやってのけちゃったしね




「でもまぁ、そうね。もし恋人にでもなれば、その時は二人揃ってなんとかするわよ

六花ちゃんのこととは別に、彼のことは結構気に入ってるの」

「お前は好きだからな、原石が」


ややため息交じりの声に、思わず笑い声が零れる


「だって磨けば磨くほど楽しいことになるのよ?

――そんな面白いもの、私が放っておくと思う?」


帰ってきたのは、柔らかな声と否定の言葉



それに満足してまわされた腕に頭を預ける。そっと目を閉じて


柔らかに、笑んだ












―――― 嗚呼 願わくは


             未だ己の光を知らぬ彼らに   幸多からんことを





いつか誰かが放った祈りの言葉に、我知らず想いを重ねた








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