プロローグ
虚空に鳥が舞っていた
彼はただぼんやりとそれを見つめる
――――――あれはまるで己のようだ
たった一羽の渡り鳥
その姿は彼自身とよく似ていた
過去人が聞けば笑うだろう
『英雄』たる自分が『迷い鳥』とは、馬鹿げたことだと
――――――ならば己は馬鹿なのだろうか
自嘲する
しかしそれは真実だ
己が『迷い鳥』たることも、『孤独』たることも、『馬鹿』であることも
しかしそれを指摘する者は誰もいなかった
否
――――――いなくなった
彼を諌める者は消え、彼を笑う者は消え、彼を正す者は消え
残ったのは賞賛、恐怖、名声、畏怖、殺意
『孤独』のみ
彼は1人だった
かつては友と並び立ったこの地で、彼は1人だった
虚空を迷い鳥が飛んでいる
誰を捜しているのだろうか
何を求めているのだろうか
――――――赤紫の瞳を巡らし 何を欲しているのだろうか
地に、黒い染みが1つ
彼は、 鳥は、
ただ声を上げて啼く
とめどなく流れ落ちる雫を忘れようと
虚ろな心を埋めようと
――――――美しく忌まわしい瞳を、ただ、ただ濡らした
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