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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
29/59

最悪の邂逅、その名も友の紹介 2



―――私がその噂を知ったのは、意外なことに引きこもり従兄からだった


数日前の食堂騒ぎの余韻も消えかけ、午後の授業を終えて寮に戻ろうとしていた時

いきなり口を押さえられて物陰に引きずり込まれた


・・・・・・・・って言うと犯罪っぽいけど、これ以上言いようがないから仕方ない


「・・・・・・・・・くぅ兄?」


肘を叩き込む直前、覚えのある森の匂いに振りかえると

・・・・・・・予想通り、眠そうな眼をしたくぅ兄が


「そうだ。人目に付きたくないから静にしてろ」


他の人が聞けば腹が立つんだろうけど、私を見るくぅ兄の目は優しいから気にならない

というか昔からこんな調子だ。気にしても仕方ない


そのまま手を取られて付いていくと、人気のない庭みたいなところに出た



中途半端に整えられた木々は、上手に周囲からこの場所を隠している

くぅ兄のお昼寝スポットの一つだってことは、すぐにわかった


紫ちゃんや私以外と接触したがらないくぅ兄は、学園内にいくつも秘密の隠れ家を持っている



「珍しいね。まだ日が昇ってるのに、外に出てくるなんて」

「聞くに堪えない噂を耳にしてな――真偽を確かめに来た」


そう言って、いつになく真剣な紅の目がとらえるのは―――私


って


「・・・・・・・・・・・もしかしてもしかしなくても私関連?」

「俺はお前と紫のこと以外で動く気はない」


そうだった。そうだったよね、うん

でもちょっと待って。前の私がシェイドをどうこうしてるっていう不愉快極まりない噂は、もうほとんど立ち消えだ


何より古すぎるからありえない



・・・・ってことは


「またなんか妙な噂立ってるの!?」

「聞くに堪えないといっただろう。その場で話していた奴を締め上げたが、噂の源はわからなかった・・・」

「だから直接聞きにきた、と」

「ありえないがな。万が一ということもある。お前も年頃だし」


お父さんじゃないんだから、とは言わない

実際にこういう時、父親が何を言うか、六花にはわからないからだ


まぁ過保護子煩悩代表・藍を間近で見ているので、予想はつくが


「で、実際のところどうなんだ」


至極真面目―――かつ返答次第ではシェイドの命が危うくなりそうな、凶悪な顔で紅が問う


「ないない。くぅ兄はいつも練習のときいないから知らないだろうけど、良くて友達レベルだって」


それ以前に、今はまだ恋愛なんて興味ないし


言うとくぅ兄は安心したように笑った。おぉ貴重

ニヤリ以外の笑い方あんまりしないからね。眼福眼福



と、内心で拝んでいたところへ



「そうか。人目を忍んで研究棟で会ってるだの、二人きりで護身術を教え合っているだのえらく現実味のある噂だったからもしやと思っ「なんでそれをっ!」


口を押さえたけどもう遅かった

希少価値スマイルは鳴りをひそめ、普段より6割増し凶悪顔になってるよくぅ兄

・・・・・・・・・・ぶっちゃけちょっと怖いです


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・六花」

「う、嘘じゃないよ!ホントに良くて友達レベル!」

「それは分かっている。お前は俺に嘘をつかない

だが、噂自体は真実なんだな?恋人であるという一点を除いて」


あまりの気迫に何も言えなかった。でもくぅ兄にはそれで十分だった


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・上等だ」

「ぎゃー!ちょ、くぅ兄待って!」


もうこれから人殺します的なそんな目でどこ行くんですかお兄さん!


「待てない」


「で、出来るだけ一緒に行動するようにっていう紫ちゃん命令なの!

ほら、コンビ組まなきゃいけないし?紫ちゃん負けるの嫌いだし?それ以上の理由は微塵もないからお願いだからちょっと待って!」


嘘じゃない。だから出来るだけ宿題とか勉強は一緒にするようにしてる。ちなみに研究棟に行ってるのは図書館じゃ、噂に火がつくだけだからだ

幸いというかなんというか・・・魔科学部の先輩方は剣士科嫌い少ないし―――むしろ生きのいい実験台手元に来る、ってこと学習室を貸してもらえた


魔科学部は魔女科でも滅多に寄り付かないし「人の噂なんて知りません」な引きこもり体質メンバーだから、噂にはならないと思ってた。それに今日、くぅ兄から聞くまではうまく行ってた・・・・はず



護身術は組み手の練習がしたいって言ってたから、コンビ組んでる義理で付き合ってただけ

・・・・・・・・・・・これももちろん、面倒な噂避けるために、隠れてやってた


紫ちゃん達も協力してくれてたし、問題はなかったはず


なのに



「どういうこと?」

「知るか」


その後、なんとか『組手の相手を変わる』ってことを条件にくぅ兄は抑え込めた

ちなみに変わる相手っていうのはくぅ兄か篁さん


・・・・・・・・・・・・・・どっちにしたって、ご愁傷様だわ。シェイド









なんて、アイツのこと憐れんでる場合じゃなくて


「どう思う?この状況」

「んー・・・・紫さんの情報統制は完璧でしょ?だったら十中八九情報ソースはアンタかシェイドくんの知り合いね

それも、口固いあんた達が二人でいることをばらすような」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「言っとくけどアタシじゃないからね」


おいしい情報は一人で抱えて楽しむに限るもん


「あー納得」


次の日、食堂で甘味つつきながら、ゆずりと顔を突き合わせていた

噂、つまり情報なら情報屋に聞くに限る。芸はないけど確実だしね


・・・・・・・まぁ代償に、食堂のスベシャル花苺サンデーデラックスを奢らされてるわけですが


「んでパティもありえないでしょ。アタシあの子がアンタ以外と話してるの見たことないし

紫さん桜さんは論外。魔科学部はそう言うコトいうタイプじゃないし

てかその前に、紫さんのお膝元じゃ不可能だしね」

「じゃぁ残るはシェイド関連?」

「もしくは、偶然見られてたか。この方が可能性は高いと思うけど?常識的に」

「私はともかく、シェイドは毎回召喚魔術で他所から来てたんだよ?

建物に入るところ見られるわけがない」


添えられていたサクランボに食らいつき、もごもご口を動かして。ゆずりは眉尻をよせた


「ナンデまたそこまで」


身内に約1名、ばれるとマズイのがいるんです

とは言えない


まぁ理由はそれだけじゃないけど



「学ゲーの修業兼ねてるから」


さり気なくいったつもりだけど、センサーにでもひっかかったのか、ゆずりの目の色が変わる


「・・・・・・なになに、秘密特訓とかやってるわけ?」

「まぁね」

「いったいどんな「ちなみに知った場合紫ちゃんにより直々に口止めが「やっぱいいわ」


好奇心の塊みたいなゆずりすら退かせるなんて・・・・流石というべき?


「何考えてるのか知らないけど、アタシは危ない橋は渡っても、地雷原には突入しないタイプなの」

「アンタは他人突入させてからその後付いていくタイプだもんね」

「力技で特攻するあんたにだけは言われたくないわ」


睨みあい、お互いにデザートにかぶりついて


「でもシェイドって・・・・・・・・・・・・アイツにばれる様な友達いるの?」

「あんたも人のこといえるホドいないじゃん」

「石投げれば顔見知りにぶつかるアンタと比べないでよ」

「にしたってさぁ・・・アンタの友達っつーか知り合いって、人の道外れた感じの多いし」


うぐっ!それを言われると


「つか濃い、変人」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・出来るだけ直視しないようにしていた事実を



「って、私の交友関係はいいの!今は!

そうじゃなくて、アイツの友達なんて片手で足りるくらいしかいないし、っていうか灰くんとリーアンくんしか知らないし」

「んー、ちょい待ち」


言って取り出したのはかなり分厚い手帳――自称ゆずりデータベース、他称イイ男図鑑


面食いゆずりが認めた学園中の――下は幼稚舎から上は教師まで――ありとあらゆる『イイ男』の基本情報、個人情報保護法にひっかかるだろうアレやらソレまで何でも入った・・・私から見れば暗黒ブックだ



「んんー、一応先輩には何人か知り合いいるみたいだけど、特別仲良いのは二人だけみたいね

ま、あの性格じゃぁ上級生は気に入らないでしょ」

「でもなーあの二人が情報流して、得することなんて・・・」


「ない」

「よねぇ・・・」


ぬるくなったコーヒーをかき混ぜる

考え事する時は苦いものの方がいい。冷静になれる


黒茶の水面を見つめて、昨日のことを思い出す



あの後は大変だった


伯爵令嬢にまた口にするもおぞましい妄想の産物で罵られ、またあの暗黒手錠週間の如く白い目に晒され、唯一の癒しタイム図書館ですらひそひそごちゃごちゃうだうだうだうだうだうだ(エンドレス)



・・・・・・・・・・・・・・



「・・・・六花さん、何か、目がヤバイんですけど」

「絞めオトス」

「うっわ!殴るでもシバクでもなく得意技持ってくるあたりに本気感じるわ」


当たり前。誰がどんなつもりか知らないけど、人の至福の時間邪魔しやがった代償はキッチリ

・・・・・・・ん?


暴走する感情とは別のところで、冷静に事態を考え直していた頭に何かがひっかかった



「・・・・・・・・・・・・ねぇ、ゆずり」

「ん?」

「ちょっと教えてもらいたいことがあるんだけど」


食堂オリジナルトロピカルアクアジュースで手を打たない?








ゆずりと別れて、そのまま足を中庭の池のところに向ける

ゆずり情報によれば、彼の出没率が一番高いのはココらしいから


案の定


「その物申したそうな顔、ひょっとしてばれてる?」


悪びれもなく、目にかかる青髪をかきあげて笑ったのは


「ひょっとしなくても、ばれたのよ。リーアンくん」

「だろうね」


悪びれない、軽い調子


「・・・・・・・初めからバレるのわかってたわけ?」

「んーちょっと違うなぁ」


口角を上げる様は、シェイドとも、灰くんとも違って嫌味や黒さは感じられない


ただ


「俺はね、嬉しいんだよ。バレて」


―――――――深い


「悟られないように掌の上で踊らせるのが、悪巧みってものじゃないの?」


皮肉は笑いで返された



「ははっ確かに!でも今回のは力試しのが目的だったからさ

まぁついでに画策も成功すれば一石二鳥、ってのもあったけど」

「試したのは・・・・私か」

「そのとーり、いやぁ予想以上に俺まで辿り着くの早かったよね

なんで?」


ここまで開き直られると、問い詰める気力もうせるわ。全く


「・・・・・・・リーアン・フィン・アズーロ

ローシェンナ侯爵派のアズーロ子爵の三男坊で妾腹」


「はっきり言うね」

「歯に衣着せた物言いは趣味じゃないの」

「そういう子の方が、俺は好きだよ」


・・・・まーこの人も自分のことよくわかってらっしゃる。必殺の微笑が出るタイミングの、巧みなこと

心の中で皮肉って、続けた


「私は平々凡々庶民育ちだけどね、親戚が特殊なもんで、上流階級様の名前くらいは自然と耳に入って来てたのよ」

「なるほど。でもそれだけじゃ答えになってない」

「妾腹出の息子が下克上してやろうと思って、とりあえず実行に邪魔な血統主義のローシェンナ侯爵がこれ以上力持たないようにローズマダー伯爵との橋渡しの要であるシェイドと我侭令嬢の仲ぶっ潰してやろうと思って当て馬に私選んで外堀固めて逃げ場なくそうとした」

「・・・・・・・妾腹でも優秀なら跡継げるかもよ?」

「魔女・獣人大嫌いって看板しょってるあのボケ息子持った父親が柔軟な頭持ってるとは思えないわ」

「ははっすっごい言いよう!」


どこがツボにはまったのかはわからないけど、とりあえずひとしきり馬鹿笑いして


「当たり当たり、大当たり。すっごいな、この短時間で俺の親までつきとめたの?」

「は?まさか。ゆずりと違って人のプライバシーにつっこむ趣味ないの

半分は想像・・・・ただし事実と現実味と照らし合わせた、ね」


あまりにもポカンとしてるもんだから、一応付け加えてみたけど

や、あんまり意味なかったねこりゃ


「想像?」

「うん。だって私とシェイド仲良くさせる利点なんて、シェイドとあの我侭お嬢の婚約潰すくらいしかないし

私たちの周りの人間で、そうやって得する人ってリーアンくんしかいないのよね

性格的にはありえないかなーとも思ったけど、会って数回程度で本性なんてわかるわけないし」


リィくんは金褐色の相貌を愉快気に細め、自分の青髪を引っ張った


「生まれは、この髪?」

「うん。純粋第二世界人にその色はあり得ないから

・・・・まぁお約束的昼ドラ展開すぎるとは思ったけど、一応確かめようと思って?


かまかけようとしたら、何でかそっちからベラベラ喋りだしたというわけ」


「・・・・・・・あれ?」


このとぼけた顔は素か演技か


演技なら大したもんよね。紫ちゃんレベル。でも素だとも思えない

一番面倒なタイプだわ・・・・・・・アイツの友達、こんなのばっかりなわけ?



「まーどのみちアタリだからいいか

うん、流石は魔女科筆記は二年連続ほぼ満点首席の白峰六花ちゃん」

「嫌味ったらしいところも移るのかしらね、友達って」


リーアンくんは何も返さず、ただ笑って


「友達じゃない



――――俺とシェイドは『同志』だよ」


答えた







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