師は弟子を千尋の谷に叩き落とす 2
食堂の一件から一時間もたたないうちに六花とシェイド、そしてローズマダー伯爵令嬢の三角関係は学園中の人間の知るところとなった
そしてそんな渦中の二人組は、現在真面目?に授業中・・・だが
「・・・・・・・・・・・うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい(以下エンドレス)」
「六花、うるさい」
「だってホントにうざいんだからしょうがないでしょ、パティ。さっきからそろいもそろってチラチラチラチラ盗み見してきて!云いたいことあるんだったらはっきり言えってのよ!」
「・・・・・・・・お前らうるさい、静かにしろ」
現在第一回魔女科剣士科合同講義中
三人掛けの長テーブルに陣取った六花、パティ、それにシェイドはさっきから似たような会話を繰り返していた
「あんたが悪いんでしょうがっ!あの状況で、何で、ああいう、誤解を招く発言するのよ!」
ほんっとに!コイツといると最悪!初対面の時は(まぁ私も少しは悪かったけど)合同授業に出られないし、次会った時は人の気も知らないで勝手なこと言って、おまけに魔力暴走しちゃうし
その次は対抗戦なんかに選ばれて・・・・おかげでいつもに周りの目が痛いんですけど
おまけに手錠で繋がれたかと思えば何?泥棒猫?だれがこんな不幸を呼ぶ空気の全く読めない性悪最悪男好きになるか!
私にだって選ぶ権利ぐらいあるわよ!
しかもなに?あんなところで馬鹿お嬢が騒いでくれたおかげで、さっきから
『将来諦めて玉の輿でも狙ったの?』とか
『何もティエンランもあんな女えらばなくてもなぁ?』とか
『前から図々しいとは思ってたけど、まさか人の男寝取るとわねぇ』とか
『一緒に対抗戦選ばれたからってさっそくかよ、頭軽い女』とか
『魔女科の恥が汚点に進化したわね』とか
その他色々色々色々・・・・・・・・しかも正面切ってじゃなくて、聞こえるように、でもこっそりと
あることないこと、どころかないことないこと好き勝手いって!しかも何で私が悪い、みたいな流れなの全部
私は全然全く無関係、むしろ被害者なのに!!
っていうかだーれが将来諦めて、よ!こんな奴選ぶ方がよっぽど将来捨ててるわ
あんな女で悪かったわね、どうせ見た目は良くないですよ。でもあんた達にそんなこと言われる筋合いない、むしろ鏡見ろ
図々しい?魔法駄目でも魔女科にいるのって図々しいの?駄目だから勉強してるんでしょうが、大丈夫だったらいる必要ないじゃん!
頭軽い?すぐにそういう発想に行きつくあんた達の頭の方がよっぽど軽くて下品よ!だいたいそういうセリフは一教科でも私に勝ってから言え!←ほぼ全教科満点
それから最後、なーにが汚点よ!無実の人間を貶す方がよっぽどタチわるいじゃない!
ほんとにっ・・・・・・全員無実証明した時覚えてなさいよ?
「・・・・・・・・目が据わってるわよ六花」
「・・・・・・・・おい」
珍しく話しかけて?きたシェイドに、何よと言い返そうと視線を向けた瞬間
おっほんとわざとらしい咳ばらい
音の方に視線を向けると、額に青筋を浮かべている教授が一名。詳しく言えば現在『歴史学』を講義していた剣士科の教授
初老のその教授は学園の古株で、反魔女科主義でも有名だ。現在総監が魔女にして理事長の愛妻である暁になってから、多少は大人しくしていたようだが・・・
これ幸いと言わんばかりに、厭味ったらしい口調で近づいてきた
六花は内心で舌打ちし、パティは興味なさげに視線を教科書・・・の上に置いている呪術書に落とした
「仲がいいのは結構だがねぇ白峰君、授業中までそういうことをするのは流石にいきすぎではないかね?
プライベートならある程度は構わないが授業中は関心しないな・・・まぁ君はプライベートもいささかいきすぎのようだがね」
他二人には目もくれず、まっすぐ六花を見ていった瞬間、六花は彼を『敵』だと認識した
シェイドは当然剣士科の優等生だから無罪、パティは魔女でも優秀で、しかも名門呪術者一族出身
一方六花は学問は優秀でも実技は駄目な落ちこぼれ、その上家柄も普通
・・・・・逆らわれても痛くない、って生徒だけいびるなんてタチ悪すぎ
しかもこの発言、どう考えたってあの噂真に受けてるよねぇ
ひっそりと苛々を募らせている六花に構わず、教授は続ける
「成績優秀な君は私の授業など聞くに及ばず、なのかもしれないが他の2人にはいい迷惑だと考えたことはあるのかね?
まぁその優秀な成績も、本当のところはどうなのかわかったものじゃないが」
揶揄するような言葉に、忍び笑いが上がる
意味を計りかねて隣でシェイドが眉をしかめたが、もはや言われ慣れてしまった六花は飄々としたものだ
反魔女派の教師には絶対に言われるし、魔女科内ででも誰が言い出したのか一時期『そういう噂』が広がった
初めこそ一々反発していたが、正しい対処法を覚えた今ではたいてい聞き流している
が
現在度重なるトラブルと、中傷とで六花はかなりイラついていた
それはもう爆発一歩手前というとろまで
そこでこの勘違い発言満載な嫌味だ
柔な堪忍袋はとっくのむかしにブチ切れている
ので
「それはともかく私語の罰だ、今さっき私が説明した『異種族間の抗争』に関する事件を知る限り説明してもらおうか
とはいえまぁ、最低ラインは出させてもらうが・・・・・・・そうだな、20ではどうだ?」
くっと口角が上がる
と同時に周りではざわめきが上がった
今までこの授業で出来た事件は10程度、つまり授業の知識だけではどうあがいても20には届かない
つまり、普通は絶対解けないのだ
が
「・・・・・・・・・・・上等」
堪忍袋の切れた六花は、いろんな意味で普通ではなかった
ガタリと立ち上がり、そりゃぁもう満面の笑みを浮かべ、混乱するシェイドを持ち前の馬鹿力で引きずりながら、教授から立派な表紙のノートを受け取った
このノートには魔術がかけられており、ノートに記入するのに連動して各机に設置されている映像投影板に書いたものが表示される仕組みになっている
これでどこに座っても板書が見えるというわけだ
「知る限り、でいいんですね」
「知る限りの20以上だ、他の諸君は事件をみてそれが正しいかどうか判断してくれ
間違えていたら容赦なく言ってくれて構わないぞ、間違いを発見した者には授業点をやろう」
やった、間違えろー、などの歓声とヤジが飛ぶ・・・・・・・ただし剣士科からのみ
魔女科がノーリアクションな理由は、このあとすぐに判明した
「・・・・・・・・・・・・・・・・・黙ってろ三下共が」
という発言は、手錠のため隣にいざるをえなかったシェイドにしか聞こえなかった
そして次の瞬間、六花のペンがものすごい速さで動き出した
どれくらいの早さかというと・・・・早すぎて手が分裂して見えたくらいに
『12年2月27日 第四世界東部サルザーンにおいて、魔獣研究を目的とした魔女組織≪グリーンテッド≫とケンタウルスの一族による紛争勃発 発端はケンタウルスの生態系を解明するためにグリーンテッドが無差別なケンタウロス捕獲、人体実験を行ったこと。また死骸を野にさらし、彼らに辱めを与えたこと。≪円卓の騎士団≫及び、魔女長の介入により勃発後3年にして終結。 グリーンテッドメンバーはケンタウロス一族による制裁の儀を受けた上で、常闇の独房での終身刑を言い渡された。 17年8月13日 第一世界南部都市セルヴィアにおいて、騎士・グラナディア子爵率いる剣士団と魔女達による大規模抗争勃発 抗争自体は10日のうちに終息したがセルヴィアは壊滅状態、一般人含め死傷者は173人 発端は騎士団による魔女への暴行 子爵は騎士団を永久追放し、グラナディア家はとり潰された。また暴行を加えた剣士は第四世界の監獄へ30年投獄、他抗争に参加した者達は20年。加えて第一世界永久追放とされた。 214年5月30日 第一世界首都軍基地において、魔獣・獣士一団によるクーデター勃発。各世界の王の介入にまで発展した。 原因は軍内部における天使・剣士との悪質な優遇差。これを基に【階級に基づいての処遇差】が確立。種族に関わらず階級によって、その処遇は平等とされた。 24年12月23日 同首都軍基地において、再びクーデター勃発。 原因は各種族に対する昇進制度の格差。昇進制度を明確に定義するとともに、審判会を設置。各種族代表が一名ずつ審判員の任につく 25年・・・・・・・・・
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・・・・・・46年1月3日 第三世界首都メスベルンにおいて、天使と剣士による抗争勃発。一日のうちに終息したため被害は少なかった。 抗争に参加したのは、世界会議のため各世界王と共に首都議事堂につのっていた護衛官達。些細な言い争いからの始まりだったが、一部の者達により武器が使用されたため剣士3名天使5名が死亡。他各世界の護衛官にも負傷者がでる事態となった。 これを重く見た政府は・・・・・・・』
「も、もう結構だ白峰君」
引き攣った声に、今度こそ本当の笑顔を浮かべてノートから顔をあげた
もう20などとっくに通り越し、教科書の範囲など超越してしまっている
おかげで何としても間違いを見つけてやると意気込んでいた者達は、次々と書き込まれる事例相手に事実確認だけでも四苦八苦。当然細かい点など知りようもなかった
しかしこの教授の反応を見る限り、間違いなく書き込まれた事例は真実で・・・・ちなみに教授ですら知らない事例があったのは、彼だけの秘密である
「え、もういいんですか?まだ46年の冬ですよ?まだ現在まで83件事例が残ってますし、これから≪怒涛の戦線期≫50年代に入るんですけど・・・」
わざと数を強調すると、うげぇと悲鳴が上がった
すでに6割が初めの13件で諦め、ちょっと根性のある3割が21件で確認作業を放棄し、負けず嫌いの1割が34件目で白旗を上げていた
「い、いやもう結構だ。ここまで調べているとは流石首席だけのことはあるな、うん」
冷汗をダラダラかいて、うって変った愛想笑い・・・・・引き攣ってはいるが
これが、魔女科がノーリアクションだった理由だ。六花はある噂により、似たような事態に何度も同遇したことがある
その度に相手が生徒だろうが教師だろうが容赦なく、このように完膚なきまでに打ち負かしているのだ
・・・・・・・まぁそのおかげでプライドをズタボロにされた者達が、ここぞとばかりに技能がないことを強調してくるので完全に打ち負かした、というわけにはいかなかったが
ともかく、教授がひとしきり褒め言葉のようなものを口にして、席に戻っていいといった時点で授業終了の鐘が鳴った
「授業中断ありがとう六花。おかげで無駄な時間を過ごさなくてすんだわ」
「いえいえどーいたしましてっ!・・・・あーすっきりした、これもあのタヌキ教授のおかげね」
清々しそうな笑顔と、刺々しい口調にシェイドの顔がひきつった
「お前ら・・・・・・・・・・・・・性悪だな」
二方向から鋭い視線が飛んできたのは言うまでもない
授業も終わって放課後
口論とじゃんけんの末に、図書館に行くことになって長い回廊を渡っていた・・・・・・んだけど
「やぁシェイド、中々面白いことになってるね」
無駄に爽やかな笑顔の人が目の前に立っている
・・・・・・ティエンランの知り合い?かな
「・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・会えば顔面蒼白で固まる知り合いっているのかは別として
っていうか私コイツがこんな顔してるの初めて見たわ。あのお嬢の時もかなり引き攣ってたけど、今回はその比じゃない
なんか、もう、よくある世界の終りとかいう表現じゃ生ぬるい
地獄で閻魔大王に死刑宣告されたみたいな・・・
「あ、初めまして白峰さん。僕は灰。獣人科の二年でシェイドの大親友だよ」
ニコリと笑って手を差し出す様は、キザったらしいけど全然そんな気がしない
むしろ上品・・・・いや、紳士?・・・・・・・・だとは思うんだけど、なーんか引っ掛かるって言うか
「・・・・・・・・・・・・・・・・・猫かぶり」
「何か言った?」
あ、了解 腹黒くんね
心の中でうんうん頷きつつ、とりあえず自己紹介するのが筋だよね
「初めまして、もう名前は知ってるみたいだけど、白峰六花
魔女科の2年でティエンランとは偶然同じチームになったというだけの赤の他人です」
「あはは、君なかなか面白いこというよね。赤の他人は手錠で繋がれたりしないと思うんだけど」
含みのある視線だったけど、青い眼には他の連中みたいな蔑みの色は映っていない
・・・・・・・たぶん、単純にからかいたいだけなんだろうな、うん
何でわかるかって?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・不本意ながら親友に1人いるからね!こういうのが!
「共通の知り合いの陰謀というか策略というか娯楽?で」
「へぇ、娯楽ねぇ・・・・・・なかなか愉快なことを考える人もいるんだね。今度ぜひ会ってみたいな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逃げようったってそうはいかないよシェイド」
視線の先には、さっきからそそくさとこの場を離れようとしていたティエンラン
・・・・・・・・いや、コイツ私と繋がってんの忘れたの?
指摘すると一瞬『あ』って顔になって、そのあとまたいつもの仏頂面に戻った
ただやっぱりバツが悪かったからか、そっぽを向いてるけど
・・・・・・・・あー、なんだろコイツって
「あんたって、天才とかいわれてるけどさぁ・・・・・・・・案外馬鹿よね」
「なっ!?誰が「そうなんだよ、バカもバカ、大バカ」
「っ灰!おま「往生際も悪すぎるし」
言葉に詰まるティエンランをみて、ちょっとすっきりした
・・・・・・そもそもコイツが紛らわしいこと言うから、あんなことになったんだし
そのくせんみんなコイツにはなーんにもいわないのよね
私にばっかりうだうだ言って!・・・・・所詮世の中身分ですか、そうですか
ふざけんな!
あー、思い出したらまた腹が立ってきた
「白峰さんも大変だね、こんな朴念仁と三日も一緒なんて。もしシェイドが何かやらかしたら遠慮しないでいつでも言ってね」
「あ、うん、その時はよろしく
まぁその前に多分私が拳出してるだろうけど」
「オイ」
「あ、大丈夫、大丈夫、コイツ体だけは頑丈だから。遠慮しないでヤっていいよ?」
「灰!!!!!」
「なに、別に変なことしなきゃいいんでしょ?それとも何かする予定なの?」
またもや言葉につまるティエンラン
なんか、こう、普段偉そうな奴が追い詰められてると気分いいな
うん、私ティエンランは嫌いだけど灰くんとはそれなりに上手くやれそうだよ
「なっ!?別に」
「ムッツリ」
「おい!!!」
「あ、それじゃぁ僕はこれで。またね白峰さん」
おー、怒った怒った
でも灰くんは気にした様子もなく、あくまでにこやかに手を振った
「うん、またね」
「お前ら人の話を聞け!」
「その言葉、そっくりそのまま昼のあんたに返すわ」
因果は巡るって本当だったんだ・・・・・あれ、ちょっと違う?
に、しても
思い出すのは、別れを告げて一瞬
すれ違う瞬間に囁かれた言葉
『剣士科には気を付けて』
・・・・・・・どういうことだろ
まぁ確かに、こうなってから剣士科にも絡まれるようになったけど
魔女科とかローズマダーほどじゃないし
「っおい!なにぼさっとしてるんだ!行くんだろ、図書館!」
「言われなくても行くわよっそんな風にいわなくったっていいでしょ!?
あ!ちょっとっ引っ張らないでよ!」
「お前がぼーっと突っ立ってるのが悪いんだろ!」
「あんたがせっかちすぎるのよ!このムッツリ!」
「なっ!?そ、それは全然関係ないだろ!」
「あ、ムッツリなのは認めるんだ」
「・・・っ!やっぱり性悪だなお前」
「なにをっ!?」
たちまちいつもの口論を再開しながら歩く二人
一見いつもの日常に戻ったようだが・・・・
・・・・・・・・・トラブルの神は、まだまだ2人を見はなさない