師は弟子を千尋の谷に叩き落とす 1
友人たちと談笑していた女生徒が振り返る
重い荷物を抱えた教師が、立ち止まって凝視する
未だ新鮮一年生が何事かと目を点にする
そんな彼らの視線の先は―――――
「・・・・・・・六花、それ何のプレイ?」
「誤解を招くような言い方はやめろ!」
「好きでこんなことやってるんじゃないわよっ!!!」
始まりは、さかのぼること一時間前
「おいっお前わざとやってるんじゃないだろうな!?」
「勝手ないいがかりつけないでくれる!?どこをどう見たらわざとに見えるのよ!」
・・・・・・・もういい加減説明するのも面倒だけど
ティエンランとはほんとーにウマが合わない、むしろ最悪。相嫌相悪、きっと私が右っていえばコイツは左を、コイツが上といえば私は下を選ぶだろう
きっと性格とか人間形成のなんだかんだとかの根本部分から合っていない
でもそんな私の言い分が通じるわけがなく
「はぁ、本当に貴方達の意固地さには脱帽するわ」
一応褒め言葉を織り交ぜてはいるが、褒められていないのは明らかだ
わざとらしーくため息と笑顔までつけて、紫ちゃんは呆れたと言わんばかりに頭をふる
「二人はほんっとうに仲がいいんですねぇ」
「・・・・・・は?」
いやいや桜さん、その発言流れ的にかなりおかしいから
というかどこをどう見れば私とティエンランが、仲が良いなどほざけ・・・言えるんだろう
「だって喧嘩する人は仲がいいんでしょう?ね~ミミちゃん」
「・・・・・・・喧嘩するほど仲がいい、っていいたいんですか?」
「そうですよ~シェイド君、それ以外に何かあります?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
いや、そりゃぁあるでしょう犬猿の仲とか
むしろこっちの方がピッタリ、というかこいつと仲が良いなんてとんでもない誤解
恐ろしいことに会ってまだ数日だけど、お互いにそれから周りにも私達の『仲の悪さ』は知れ渡っている
対抗試合は、本番開始前に何度か模擬試合・・・・・という名の腹の探り合いが出来る(イロイロ特典も絡んできてるけど)
それで二回ほど試合はしたんだけど――――当然、うまくいくはずがない
ただでさえ人数少ないのに、くぅ兄はサボりだし、紫ちゃんは四試合出場停止、実質四人で人数的にも不利
その上、他が5年生以上で固められてるのに、ウチは2年が2人
自分で言ってて悲しいけど・・・・いや事実は事実、それに半ば予想したことだ
はっきりいって足手まとい
技術とかうんぬんに限らず、経験値に絶対的な差がありすぎる
その上あれだ、こともあろうに私とティエンランは・・・・言うのもおぞましいっていうか言いたくもないけど『コンビ』という奴で
コンビというからには試合とかでは協力関係、というかサポートしたりされたり、お互い足りない部分を補い合ってがんばろー・・・・・・な関係になるはずなんだけど
私達は片方が右を向けば左を、上を向けば下を向くような間柄
協力はもちろん、連携プレーなんてできたはずがない
流石の紫ちゃんもあきれ返って・・・・・・さっきのセリフになるというわけです
「まぁ桜の見解はいいわ
しかしまぁ、ここまで二人が頑固だっていうのは予想外だったわね」
「・・・・・それはどうも」
「まったく、全然、褒めてないわよ六花ちゃん?」
そ、そんな怖―い笑顔でニッコリされるまでもなく、わかってますから!
気圧されて一歩後ろに引く2年生コンビ
――――が、すでにここから紫の『計画』は始まっていたのだ
「と、そういうわけで私大変切羽詰ってもうどうしようもないくらい焦っているの
そういう人間がどんな手段を使っても、仕方のないことだと思わない?」
「「は?」」
見事なハモリ――当人たちにとっては喜ばしくもない、むしろ嫌悪すべき事象と同時に
史上最悪の三日間。その開始を告げる錠が下ろされた
「ははぁ~、それでその様ってわけねぇ」
ゆずりの視線の先で、注目を集める問題のブツがチャリと音を立てた
六花の左手、シェイドの右手にはめられたのは鎖で繋がれた二対の輪―――いわゆる手錠だ
ちなみに仕掛け人である紫がいうことには
『桜と篁、紅と私と違って二人は会ってすぐだものね
お互いのことをよく知らないのに協力しろっていうのはちょっと無茶だったようだから』
『・・・・・・・・・この状態でずーっと一緒にいれば知れるだろうと?』
そう聞くと、それはもう艶やかな笑顔で頷いて下さいましたとも
『横暴!』
『あら、いわなかった?焦っている人間は手段を問わないって』
『全然そうはみえませんが、会長』
『切羽つまるわけないでしょ、紫ちゃんが!コレなんの冗談!?絶対遊ぶつもりでしょ!?』
『こんな面白い事態で、遊ばなくて何をしろっていうの?』
「に、しってもまぁ紫さんもやるわねぇ。いや、とんでもない大物だ、とは思ってたけどさぁ」
まっさか六花達の(紫ちゃんだけの!by六花)ために、授業まで変更させるとは思わなかった
そう、今日になって突然剣士科と魔女科は三日間合同授業
といってもまぁ、前のように契約の勉強ではなく、単に一般教養を合同でやるというだけなのだが・・・
十中八九・・・・どころか100%確実に、裏で何かやったよ紫ちゃん
『ここ最近剣士科との争いが絶えないから、相互理解を図るべく交流を増やすべき』
なんてもっともらしい理由が付いているとはいえ、昨日今日で急というのはおかしすぎる
だいたいそれなら情報通のゆずりが何事も察知しないはずがない
つまりここ数日で、突然に、緊急に、きまったということで・・・・
「はめられた、完全にやられたっ何が切羽詰って、よ完全な計画犯じゃないの!」
「いーじゃない、おかげでアンタじゃどうやったって無縁の男前v
しかも成績優秀将来有望株とこーやって繋がりができたんだからさぁ」
「それギャグなら寒いし、本気なら最悪!っていうかこんな性根の曲がった奴無縁で結構!
知り合いになんかレベル上げてもらったってなりたくないわよ!」
「えー、そりゃぁたしかにシェイド・ラ・ティエンランといえば身分と成績はいいけど
自信家で口の悪い、図太い神経の持ち主だって聞くけどさぁ、顔はAランクよ?
おまけにこれから成長するにつれてさらに磨きがかかること間違いなし
そんな男と三日間も四六時中食事勉強、果てはお風呂にベッドまで一緒だっていうんだから、この際そこには目をつぶってさぁ」
「本人を目の前にそういうお前らの方が、よっぽど図太いと思うぞ」
憎々しげにつぶやいたシェイドだが、そんなこと気にするようなら初めから言わない
六花とゆずりはそういう人間だ
案の定気にすることもなく
「事実でしょ!」
「あーらこっちは褒めてんじゃないの、顔はいいって」
と、片やパンに、片やパスタにがっつきながらのたまった
―――ちなみにこの三人組、さっきから食堂の注目を集めていることには気づいていない
次の授業は空いているため、人目を憚って少し遅めの昼食。とはいえそれでも食堂にはそれなりに人が集まる
そんな中で大声でののしり合う男女(しかも手錠付き)+1がいて目立たないわけがない
ただでさえそのうちの一人―――シェイドは顔が知れているのだ
そして人間、目立つときにはとことん目立つもので
「シェイド様ぁっ!?」
・・・・・・・・・あー、なんだろ
なんかこう、とてつもなーく嫌な、というか会いたくないというか
それでいてすっごく聞き慣れた感じの声がしたんですが
しかもあれだ、金切り声
おそるおそーる六花が振り返ると、そこにいたのは見覚えのある普通科数名
忘れるはずもない、合同授業に出られなくなった原因―――伯爵令嬢リアナ・ディ・ローズマダー
家名と同じく薔薇色の髪と目、白い肌とどことなーく金持ちそうな雰囲気・・・絵にかいたような我がまま金持ちお嬢様
が、悲鳴を上げて青ざめて、取り巻きに支えられている
あーホントついてないわ
ティエンランと組まされたときが最悪かと思ったけど、上には上・・・じゃない下には下があるんだね
――――ん?ていうかちょっと待って。今ものすごーーーーーく聞き逃せない単語が・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・シェイド、様?」
くるりと顔を左隣りに向けると、ゲッと形容するにふさわしい顔をしたティエンラン。そしてその視線の先には、当然伯爵令嬢
・・・・・・っていうかちょっと、中途半端なところで手ぇとめないでくれる?左手吊るされて痛いんだけど
「えーっと、あのさティエンラン。ホントはすっごく聞きたくないんだけど・・・・・お知り合い?」
聞くとうっと一瞬つまり、そのまま明後日の方向に視線が飛んで
あーだのうーだの呻いた後に、本当に、本当に嫌そうに奴が言ったことには
「・・・・・・・・・・・・・婚約者(仮)」
へー、あぁ婚約者
まぁ第二世界とかじゃぁよくある話らしいしね。そういえばコイツもいいとこの坊ちゃんらしいし、身近にそういう例もいるし
なるほどなるほど
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・じゃない
シェイド・ラ・ティエンランとリアナ・ディ・ローズマダーが婚約者?
私の天敵と仇敵が婚約者、つまり未来の夫婦、ツガイ、言い方は色々あるけど、まぁ言わせてもらえば
最悪の組み合わせじゃん、それ
別に私に関係ないなら、敵同士がくっつこーがなにしようが関係ない。むしろ問題同士固まってくれてありがとう、関わるなよで済むけど
この展開的に、私になんら被害が及ばないはずがない
どころかむしろ、私にだけ無駄に被害がかかりそうな気がする
・・・・・・・・・・・いや、かかる、間違いなく
となればさっさと逃走したいところなんだけど、手錠が邪魔で動けない
なんとかティエンランを動かそうとガシッと肩をつかんだ瞬間
ものすごく思い固まりに激突された
・・・・・・ちょっとコラ、お腹打ったんだけど
「あ、オイ魔「シェイド様に気安くさわるんじゃないわよこの泥棒猫!!!」
あーっと、なんだかお約束なセリフが聞こえましたよ?
しかもなに、泥棒猫?私がティエンランに手ぇ出すって?
笑わせんじゃないわよ、っていうか冗談じゃない!
んがしかし、思い切り打ちつけた腹部の痛みで、六花はまともに悪態もつけない
普段より口が悪いのはそのせいだ
「ごほっ・・・・っんのアマっ・・・・げほっ」
「ちょ、六花あんた大丈夫!?(・・・あーヤバイこれは相当きてるわ)」
がしかし、そんな勘違い満載な現状は、我がままお嬢の誤解だけで進行していく
「こんな小道具まで使って、私からシェイド様を奪おうというの!?なんて浅ましい女でしょう!これだから魔女は!」
そういうと手錠をはめていないシェイドの左腕にひしりとしがみつく
その時はもーなんともいえない感じでひきつってたわ(ゆずり後日談より)
「っいきなり人突き飛ばしておいて勝手なこといわないでくれる!?
だいたい浅ましいとは何よ!私はコイツなんか好きじゃな「しらばっくれる気!?それじゃぁなんで私のシェイド様が貴方なんかと手錠でっ・・・言うのもおぞましいけれど繋がれてるのよ!?」
「んなもんこっちが聞きたいわーっ!不可抗力よ不可抗力!
でなけりゃ誰がこんな奴と一分一秒でも多くいたいもんですか!!!」
「なっ!?それはこっちのセリフだ!!!」
この後シェイドは、この時つい頭に血が上ってしまったことを悔いていた
それはもう光すらささぬ深海の如く、深く
「不可抗力でなかったら、誰がお前なんかと三日も寝食共にするか!!!」
「ちょっ、何言ってんのよこの馬鹿!」
六花の叫びは、阿鼻叫喚の周囲の声にかき消されてしまった
「し、寝食って――――っ!最悪ですわねこの売女!!!既成事実を作ってしまおうだなんてっ不潔ですわよっ」
「え、実は会長命令っていいわけでそっちが本命!?やっだーシェイド君てば意外と手ぇ早い?」
「ふざけたこといわないでよゆずり!今のはこの馬鹿の言い間違いで」
「馬鹿とはなんだ馬鹿とは!本当のことだろうが!」
「ちょ、あんたもう頼むから黙って「許せませんわ白峰六花!どんな凶悪な呪いでシェイド様をかどわかしたんですの!?」
「かど!?違うわよ、単にこれは紫ちゃんが!」
「あーあ、まさか六花に先こされるなんてねぇ。にしたっていきなり一線越えようなんて、アンタ意外と大胆だったんだ」
「あんたらいい加減私の話聞きなさいよ!!!」
主人公受難の巻(笑) この世界、第一第二とかの世界によって色々時代雰囲気が違いますが、その辺はおいおい出せていけたらと