茶柱で開催宣言 2
同学年では『落ちこぼれ』とそしられ、はみだし者な六花だが・・・もちろん魔女科全員から冷たい視線を向けられているわけではない
なぜならどの学年にも最低一人は、はみ出し者がいるからだ
そして久我親子の悪だくみの結晶ともいえるそれが宣言された時、六花はそのはみ出し者先輩の所にいた
魔女科魔科学部研究室第13番
不吉すぎるその部屋からは、不釣り合いに明るい鼻歌が響いていた
「ふふふふーん、ふふふふーん、ふふふふーふふふふーふふふふーふふふふー」
何故に結婚式お決まりソング?
とは思っても口には出さなかった。この先輩は機嫌がいいに越したことがない
といっても、機嫌が悪くなったら紫よろしく周囲に毒光線を撒き散らすわけではない。むしろ真逆のベクトルを突き進んで・・・
まぁそのことは、今はいい
まだ学部専攻すらしていない六花が、何故こんなところにいるかというと・・・
例によって例のごとく罰則である
昨日またもや教室を爆破させた六花は、丁度いいとばかりに担任教諭によって彼女―――叶 桜 の一日助手をおうせつかったのだ
本来なら5年生は下に一人以上、下級生から助手がつく。しかし桜の下に助手は一人もいない
それは決して彼女に実績がないからでも、実験が簡単だからでもなく・・・
全員が半日と立たないうちに逃走してしまうからだ
そんな危険人物の一日助手、本来なら泣いてご免被りたいところだが・・・六花は久我家・・・のうち特にトップ父娘二人やらで変人、怪奇現象の類には耐性がついている
ので今だって、何だか足元に蛇っぽいけどスライムちっくな感触のする何か――変な生物が通ったって全く気にならない
いや、まったくってことはないけどさ。桜さん作・奇怪生物にももう慣れた、というか名前まで覚えた
何せ先生達と来たら、何かにつけて桜さんの手伝い押しつけてくるんだから
おかげでわたしを桜さんの助手にしようって動きまであるらしい
いや、桜さんは嫌いじゃない。むしろ好きだけどね?わたしあくまで魔術部希望ですから
たとえ進路指導で、確率1%っていわれてもね!・・・・あ、やば、ちょっと泣けてきた
「ヌ?」
「あー、ありがとミミちゃん・・・・というか君はどこからハンカチを出したのデスカ?」
紳士的に・・・あれ、でも名前的にメス?ま、いいや
紳士的にハンカチを差し出してくれたのはミミちゃん。桜さんが生みの親な魔法生物の一つ
見た目桜色で丸っこく、つぶらな瞳が可愛いらしい。それに触るとちょっと負に府にして気持ちがいい
ソフトボール大くらいしかなくて、たいてい桜さんの肩の上に乗ってる
桜さん曰く、チビちゃん達(桜さんは自作魔法生物たちのことをこう呼んでる)の中では一番頭がいいらしい
まだ見せてもらったことはないけど、色々能力があるらしい
「あらら~どうしたの六花ちゃん?ゴミ入っちゃいました?ごめんなさいねぇ、最近お掃除する暇なかったんですよ~」
「あぁ大丈夫ですよ、ちょっと思い出したくないことを思い出しただけで」
ので危険物入った試験管を振り回さないでください!って何か飛んだし!
「あ、大丈夫~だってこのコは・・・」
いう間に飛んだブツはプルプルと震え(ギャー!)
飛来し(ちょ、こっち来ないで!)
元の試験管の中におさまった(マジですか?)
「形状記憶できるもの~」
「確かに・・・ってホント桜さん何作ってるんですか?」
「んーそうねぇ・・・・リツちゃん!」
「いやお名前じゃなくて、ってまた可愛らしい名前ですね」
うふふ、と笑うさまはとても愛らしい
魔女科制服のマントと、その下の矢がすり袴が滅茶苦茶ミスマッチだけど
基本マントの下は結構自由だ。でも桜さんほど古風というか変わった、というか・・・な服装してる人はいない
たいてい皆、形は違えど黒ロングスカートに、シャツを変えるくらいだし
私は面倒だから、シャツとリボンしか変えてないけどね
「それで六花ちゃんを泣かせた嫌な話~っていうのは、剣士科のシェイド・ラ・ティエンラン君と喧嘩したことですか~?」
「・・・・・・・・誰ですかそれ?」
ん?でもティエンランってどっかで聞いたような・・・
「六花ちゃんが爆発起こした時に、巻き込まれちゃった運の悪い少年のお名前ですよ~」
「・・・・・何で桜さんがアイツの名前なんて」
「有名ですよ?剣士科期待の2年生、最年少で伯爵レベルに上がった天才
それに顔が格好いいらしいですからねー、ゆずりちゃんがチェックしてませんでした?」
ゆずりも先輩とは面識がある
っていうかわたしの・・・狭い交友関係の中でゆずりが知らないのはくぅ兄くらいだろう
「・・・・じゃなくて、何で相手がそのティエンラン?だなんてわかったんです?それに爆発のことだって」
「みてたんですよ、ミミちゃんがお散歩中に、ね~?それに爆発は紫さんからも聞いてますから」
「あ、桜さんも生徒会でしたね」
生徒会長というか紫ちゃんが派手だから、他の人は結構忘れられがちだ
それにうちの生徒会っていうのはそんなに活動ないからね・・・・イベント事は藍さん、理事長が率先してやるからなぁ
「事務仕事ばっかりですからぁ、みなさん忘れてるでしょうね~・・・・・あ、グラシュニウムの瓶取って下さい」
瓶をさっと手渡すと、ふっと桜さんは真面目な顔で
「六花ちゃん、本気でこっちに来る気はありません?私の助手とかじゃなくても、他の優秀な人達のところでも十分やっていけると思いますよ?」
半日もしないうちに、薬品や試料の名前全部覚えたの、六花ちゃんくらいだもの
さじで中身を取り出し、さっきのリツちゃんに加える
ブルブルとした動きが激しくなった
「それに先生方だって褒めてましたよ?白峰さんは魔科学全般優秀だから、ぜひ来てほしいって」
「・・・・・それは、進路相談の時にも言われました」
「でもその様子じゃぁ、来る気はなさそうですねぇ」
ふわりと微笑んで、桜さんは試験管の上に手をかざした
流れるように、歌うように言葉が紡がれる
桜さんの作っているのは、厳密には生物じゃない
ただ魔法で意志のようなものを移しているだけで――大昔に桜さんの一族が使っていた『式神』というものを応用したらしい
詠唱が終わると、試験管からそれが飛び出した
薄い緑色のそれは、始めはミミちゃんみたいに丸くて、だんだんと形を整えていく
やがて小さな、小鳥のような形で落ち着いた。桜さんがその子を掌にのせ、何事かを吹き込む
と
『大器晩成、成せば成る~ 趣味に走るも人生の一興なりですよ~』
その小さな口から、目の前の女性と全く同じ声で、同じ口調で声が生まれた
内容的に、背中を押してくれているんだろう。それは嬉しい、とても嬉しい・・・・・のだけれど
「成功です~伝書鳳凰のリツちゃん!」
「なんで鳳凰・・・・(どうみたって小学生の書いた小鳥なのに)」
「え、なんだかかっこよさそうじゃないですか~」
このセンスだけはいかがなものか
叶桜、魔科学部の中でも異端な彼女は、美術の才能もある意味異端だった
実験が終わってさて一息、とついたころ
用途不明なビーカー(微妙に何か付いてる)で沸かした紅茶に、実は意外と料理上手な紫ちゃん作のホットサンドで早めのお昼ご飯、にありついていた
その時
ブオォ――― ブオオォ――――
冗談抜きで滑った。紅茶は死守したけどね!
いやいやそれより、このホラ貝の合図は・・・・
『おー皆の衆!せこせこ勉強頑張ってるかー』
藍さん・・・仮にも理事長がせこせこって
ちなみにホラ貝合図も藍さんのチョイスらしい。和風好きもここまでくると・・・・いや、まだ学園を和風建築にしなかっただけまし?
実はそういう計画を立てたはいいものの、暁の反対によって没になったのだが・・・それは当人たち以外知らない
『そんな娯楽の少ないお前らにいいお知らせだ』
「あら~また何かお祭りでもあるのかしら」
理事長のいいこと=お祭り、というのが学園生徒たち共通の認識だ
この間は鬼ごっこ大会で、賞品の苦手科目単位免除につられて血で血を洗う騒ぎになったのは記憶に新しい
しかし、今回はいつもと少し勝手が違う
『学科混合リアルサバイバルゲーム、略して学ゲーを開催する!』
藍さん、その略し方微妙・・・はともかく、その発言に学園全体がざわめいた
地下でもそれがわかるくらいなのだから、地上の騒ぎはどれほどのものだろうか
『おーおー、騒ぎがこっちまで聞こえてくるぜ。ま、これに勝ち残ったチームなら最高の栄誉に賞金まで手にはいんだからなぁ
騒ぐのも無理ねぇか。だが詳細は今日の夕方、夕飯が終わってから選手の発表と同時に講堂でやる
遅れんじゃねぇぞー、遅れたバカは講堂いれねぇからな』
「じらしプレイですね~」
「桜さん、ヤマトナデシコな顔してそんなこと言わないでください」
ミミちゃんが顔を赤らめ(たような風で)て首、というより体全体を上下に振る
どうやら親より子の方が常識的らしい
「でも六花ちゃんはえらく他人事ねぇ。2年生もメンバーに選ばれることはあるのよ?」
「いや、ないですって。私くじ運わるいから、こういうので当たったことないし」
というより、この手のことに関わりたくないだけなんだけどね。見るのは好きだけどやるのは面倒だし
「ほら先輩、午後からも他の実験入ってるんですから。早くお昼ごはん食べちゃいましょうよ」
「そうねぇ、せっかくの紫さんの差し入れですしねー」
「冷めたら台無しですから・・・あ、紅茶入れ直して来ます」
そういってさっと立ちあがった六花を見送って・・・ミミに向けてぼそりと呟く
「私は運が悪いからこそあたるんだと思いますけどねー?」
はたして六花と桜、どちらが正しかったのか
それは夕方には判明した
お約束(笑)