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Musica Elaborate  作者: 柊
本編~学園編~
10/59

茶柱で開催宣言 1




突然の開催宣言

それに理事会はざわめいた


緊急招集された会議室、長たる理事長の座はまだ空いたままだ



「どういうつもりだ騎士王は」


誰かがにがにがしく呟くと、焦ったような声で誰かが言う


「ローシェンナ侯爵はなにか聞いていらっしゃいませんか?」


ローシェンナ侯爵の妻が、騎士王・久我藍の従姉だというのは皆が知る所だ


対してプラム・ロウ・ローシェンナは渋面を見せた

ただでさえ迫力のある四角い顔が、さらに険しくなって近くにいた若い理事が思わず身を引いた



「あの公爵、独断で開催を決めたようだ

誰にも相談せずにな。この私にさえ話は届いていない」


冷静にかえしつつ、内心は穏やかではなかった

その証拠に、今まで表面上はとりつくろっていた騎士王への敬意を忘れている


そのせいで騎士王に忠誠を誓っている者達が眉をひそめたが、己の思考に浸っていた侯爵は気付かない


侯爵はここ十数年で、急激に勢力を伸ばし始めている


久我家に繋がる女を妻にとり、『慈善的な』寄付により理事達を説き伏せて、理事の一人になった

理事長たる久我藍は気に入らなかったようだが、それでもあくまで『民主的な学校』のマルーン学園


否とは言えない


後は、久我の本家と繋がりさえ出来れば、第二世界で逆らう者はいないだろう

そして幸運なことに、公爵には娘が一人しかおらず、彼には息子が二人

――しかもうち一人は娘と同い年だ


上手くいくと思った


二人が結婚すれば、自分の孫が騎士王だ。その上、久我紫は魔女王を約束されている女

第二・四世界の覇権を一気にローシェンナ家が握るチャンスだと思っていた、が



先手を打たれた

まだ久我紫が齢8だったころ、従兄の――久我藍の弟の息子だ――久我紅と婚約したのだ


取り計らったのが騎士王たる久我藍と、その母であり魔女王である久我瑪瑙

さらに各世界の王達が口添えしたともなれば、自分が口を出せるはずもなかった


それを見越して、久我藍が手をまわしたのだ



だが――――ツメが甘い


侯爵は心の中でほくそ笑んだ


よりにもよってあんな―――落ちこぼれを婚約者にするとは

自分の息子に対抗できる人材がいなかったのだろうが、愚かとしか言いようがない


自ら付け入る隙を残したのだから



――――久我(くが) (くれない)


剣士科の七年だが、クラスは最下層のD

レベルは機密事項なので判明していないが、Dなので大したことはないだろう


おまけに剣士科きっての問題児で、授業にはろくに出ていない。が、なぜか進級は出来ている

侯爵は資産家である彼の父が手でも回したのではないかと思っているが、証拠はない


証拠でもあれば、すぐに追い出してやるものを

そう歯噛みしたこともあったが、そうでなくともこれほど問題があれば


ただでさえ、久我藍の弟は『あの事』で風当たりが強いのだ

その息子というならば、これだけでも落とすには事欠かない



後は周囲を味方につけて、第二世界の当主には不適格だと示せばいい

そして自分の息子――ウォルナット・ロウ・ローシェンナが騎士王には相応しいと


それを大々的に知らしめるにも、この『開催』のチャンスを逃すわけにはいかない



学科混合対抗試合――1チーム8人、6人の代表以外は全て『運』で決められる

全校生徒――ただし一年生は除くが――の名前を記憶させた鳥が、ランダムに名前を読み上げるのだ


そして6チームによる総当たり戦で、勝ち数、点差などにより一位を決める


当然、その一位チームの代表ともなれば、それなりの栄誉が与えられることは明白

そうなれば婚約者に推す時に箔ができるというもの


だから侯爵は、この試合にかけている。絶対にここで負けるわけにはいかない

――息子を代表にするのはそう難しくはない

 いつもどおり仕組めばいいのだ


そう考えていた時、部屋の主の来訪を告げる声がした








久我藍は相変わらず、いつもどおりの着流しだった

おまけに呑みかけの湯呑をもってのご登場


その後ろに控えていた妻であり、総監督も務める久我暁はきっちりと正装していたが


「突然招集してすまなかったな」


まずは型通りの謝罪。しかしそれもそこそこに、久我藍は理事達に告げた


「聞きたいことをじらす趣味はねぇからな。さっさと言っちまうぜ?

学科混合対抗試合、チームの発表は――」



静寂の中、一瞬視線を落とす


そして




「――――今日だ」




幾人もが息をのんだ

ローシェンナ侯爵は意見しようと口を開いたが、言葉が出る前に久我藍が続ける


「各チーム代表には既に連絡済み。代表は各学科の首席だから文句はねぇだろ?

全校生徒にももう通達した。今日の夕方、夕食が終わったら講堂に全員集合


何か質問は?」


一気に言ってのけ、片ひじをつき、掌を頬にあてて、見まわす


無礼な、と思いながらも侯爵は口をつぐんだ

学年首席、ということは息子は入っている。ならそれ以上の文句はない



「文句ねぇなら俺からの通達は終わりだ。他に誰か、ついでに議題のある奴はいるか?」

「・・・・・・議題ではありませんが、甥御さんは大丈夫ですか?何やらトラブルに巻き込まれたと聞いているのですが」


今はまだ、婚約のことはいうべきではない

が、匂わせておく必要はある


言うと久我藍は視線を向け、口角をあげた



侯爵はこの笑みが苦手だった


まるで全てを見透かしているような

それでいて―――愚かな、と嗤われているような


そんな気がするから



「御心配ありがとう侯爵。しかし腐っても俺の甥、弟の息子だ

些細なトラブルくらいでどうにもならない」


それ以上何も出なかったので、会議はそこでお開きとなった

侯爵が取り巻きとともに出て行くと、忠義のある者達と一言二言言葉を交わし、全員が会議室を出た


瞬間、藍は余裕の笑みを崩して眉を寄せた



「つまらん。早速喧嘩売る場を整えてやったってのに」


慎重な奴だ


悪態をつくと、今度は暁が渋面を示す



「・・・厄介な人間に逆らって欲しいと望むのは、あなたくらいですよ」

「逆らってさえくれりゃぁさっさとケリがつくんだ。俺だってせっかくの生徒の祭事を使われたくねぇからな

つけられるならさっさとつけてぇ」


ただでさえローシェンナんとこのガキ、俺の可愛い娘に手ぇ出してんだ


「紅は学校に行く気がねぇからなぁ

吹っ飛ばしてやれ、とでもいいてぇがそれをすると『息子に傷をつけた責任』を盾に、婿にとれといいかねねぇ」


でなけりゃぁ俺直々に手を下してやるものを



「・・・・・・まさかそんな愚かな真似までは」


というか本来それは女性に適応される脅し文句では?


いたって冷静なツッコミだったが、藍は甘い、と言い張る



「あのローシェンナはなぁ、昔っからそういう奴なんだよ。どんな無理だろうが、金と権力にもの言わせて押し通す

ったく、誰だよあの馬鹿に侯爵位なんてやりやがったのは」

「貴方から見て先々代の騎士王です」

「真面目に返さねぇでいいんだぞ暁

・・・・でもまぁプラム侯爵の前の奴はまともだったってことだからな

しょうがねぇんだろうけど」


いっそ世襲制やめてやるか?

いやそれはそれで面倒だしなぁ・・・


「そんなくだらないことはどうでもいいので、さっさと開催の準備を整えてください」


これ以上は長くなると踏んで、話を切る

と、下からは不思議そうな視線が


「あ?通達も何も全部終わってるだろうが」

「えぇもちろん、生徒への連絡、代表への通達、準備は完璧です」

「他になんかあったか?」


ジトリと、鋭い視線が下りる

全く意に介さない、と顔に書いている藍に対して、暁の眉間のしわが、これでもかというほどよった


「そのだらしがない上に、騎士王、ひいては理事長にふさわしくない服装を変えることです」

「俺は見かけで判断するような生徒はいらねぇ」

「ふざけた冗談ぬかしてる暇があったら脱いでください。礼服は用意してますから」

「朝っぱらから脱げとはだいたんだなぁ暁

でもそういうことは出来れば夜に、寝室で言ってもらいた「殴られたいんですか?」

「俺はマゾじゃねぇが・・・マゾの奴に言うならこの場合蹴る方が効果て「訂正です、八分殺しにされたいのですか?」


降参、とばかりに両手を上げて、やっと藍は重い腰を上げた



長い長い廊下を歩きながら、ふと尋ねる



「にしても何で八分殺しなんだ?」

「殺してしまってはまずいでしょう?

どんなにだらしがなくて面倒くさがりでも貴方は紫の父親なんですから」


母親が父親を殺して、娘を悲しませるのは忍びないでしょう


淡々としているようだが、もちろん暁だって一人娘は可愛い

ただほんの少しだけ、もうちょっと自分に似てくれてもよかったのではないか?


と思っているだけだ



あの絶対的に遺伝したとしか思えない、久我家の性格はいかんともしがたい



「・・・・・・・・」

「何ですか、その物言いたげな目は」

「いや(父親っちゃー父親だけど、その前に一応俺達夫婦だよな?)」


最後のセリフは呑み込んだ

もとよりベタベタの夫婦ではないのだ。今さらだろう


と、今度は暁が口を開く



「そういえば開催日はどうして今日に?起きた時はまだ決まってないと言っていたでしょう?」

「ん、これ」


すっと差し出されたものを覗き込んで


「・・・・・・貴方が突拍子もないのはいつものことですが」


これはどうだろう、と暗に目が告げていた

それをキス一つで封じて――ただし一発張り手ももらったが



「いいじゃねぇか、縁起がいいだろ?」

「・・・・・・そうですね」


もはや投げやり気味に、着替えに行く夫から暁は湯呑を受け取った

僅かに残るお茶に浮かぶのは―――茶柱




『思い立ったら吉日』


とはよく言うけれど





いくらなんでもこれはないだろう


再度溜息が零れた







おっさんばっかで絵的に麗しくない舞台裏(笑)次は学生組の話です

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