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思考実験レポート  作者: 二束亭三文


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001. 暗闇に対する恐怖心について -不確実性回避というストレス低減システムが生み出すストレス-

 魚類・両生類・爬虫類・鳥類のほとんどは四色型色覚を保有する(深海や洞窟内などの環境に適応したものを除く)。一方で哺乳類のほとんどは二色型色覚である。初期哺乳類が爬虫類から分岐した当時その体は小さく、既存の比較的大型な爬虫類などの被食者であった。そのため比較的危険が少ない夜間行動となった。夜行性となったことで視覚は明暗が重要であり、色彩の重要性は低かった。このため2タイプの錐体細胞を喪失した。その後、樹上生活に適応した霊長類の中で遺伝子変異による三色型色覚を再獲得した血統が生存に優位であった。樹上という捕食者が少ない環境で日中の行動が可能になったこと、樹上における主要な餌としての木の実や果実が熟れているかの判別が必要であったことなどで、三色型色覚の遺伝子は優位に存続・拡大した。果実などからビタミンCが容易に摂取できるため体内でのビタミンC生成の機能が失われたことも、三色型色覚が優位になったことを補強した。生物としては四色型色覚→二色型色覚(哺乳類)→三色型色覚(一部の霊長類)と変遷していった。三色型色覚の再獲得は明暗グレースケールの世界から色彩(RGBスケール)の世界への回帰だった。三色型色覚の再獲得と昼行性への適応は、日中の視覚情報利用能力を向上させた一方で、夜行性哺乳類に見られるような暗所視への適応の重要性を低下させた可能性がある。。暗闇は捕食者(危険)を察知しにくい(二色型色覚に比べて色彩による日中の捕食者の察知がしやすい)状況である。不明瞭な危険(見えない捕食者)に対する警戒心は当然ながら二色型色覚の哺乳類も、哺乳類以外の生物も持っている。人間が暗闇に対して恐怖を抱くことについては、その知能の発達と行動における進化が要因となっている。

 人類は十万年以上前から日常的に火を使用してきた。火の使用は暖を取る、虫や獣除けなどの他に、加熱調理によるエネルギー効率(咀嚼や消化のエネルギー減少、食用可能な食料の増加によるエネルギー増加)からの脳の肥大に繋がり、より知能を高めることに繋がった。昼行性-三色型色覚の特性を持ちながら火の使用によって夜間の行動もできるようになった人間にとって、火の無い状態は外敵への危険が高い状態であり、また暗いことによる危険の察知が困難な状況でもあった。また道具の作成は、初期の頃は打ちつけた石の中で偶然できた使えるものの使用だったが、知能の発達に伴い完成像を予想するという抽象概念を発達させた。これらの獲得によって不明瞭な危険(見えない捕食者)に対する警戒心は脳の予測の中で「暗闇には目に見えない危険が潜んでいる」という認識を生み出した。実際に暗闇(夜間)は夜行性捕食者の活動という現実的な危険が存在する。

 また火を起こすことは困難と労力を伴うため、集団で利用されてきた。これがコミュニティの結束を強め、さらに過去の経験(暗闇の中に出ていった者が生還しなかったなど)の共有などが暗闇を禁忌として扱う認識の共有にも繋がった。心霊現象や悪魔的なものとの遭遇がおおむね夜間などの暗い状況で報告されるのは、この目に見えない危険に対する予測システムの過剰作動(神秘主義的解釈)であることが一因として考えられる。人間の思考において禁忌(暗闇)は神秘性(霊的・悪魔的存在)と繋がりやすい。日本における逢魔が時が明から暗に転じる時間帯(たそがれ時)であること、暗から明に転じる時間帯(かはたれ時)には恐怖心を感じにくいこととも整合するだろう。

 既存の二色型色覚の哺乳類も暗闇であったり雨や霧などの視界不良に警戒を行う。人間は三色型色覚の再獲得と昼行性への適応という相互依存関係によって視覚情報への依存度を高めた可能性があり、夜間の情報獲得能力の低下による情報欠損環境に対する脆弱性が増した可能性がある。高度な抽象認知機能と予測システムの発達が危険特定情報の不足という不確実性に対して強い恐怖として現れている。人間の暗闇に対する恐怖は、動物一般の危険回避行動を基盤とする。哺乳類が喪失した色覚の再獲得と昼行性による高い視覚依存、火(照明)の利用による夜間活動の拡大、抽象認知能力と予測システムの発達という人間の特性。これらは危険特定情報の不足を未来の危険に対する強い警戒として結び付けた。暗闇は単純な視界不良というだけでなく、不確実性と潜在的危険の最大化という予測を呼び起こし、社会的・文化的な神秘性や超自然的存在との親和性によって、より象徴的なものとして増幅された可能性がある。

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