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ブラックギルドから独立した底辺付与術師、定時上がりで世界を救う。

作者: キュラス
掲載日:2026/03/24

王都の裏路地に位置する武装ギルド『赤き鉄』。

 その地下にある、カビと鉄錆の臭いが充満する薄暗い工房で、付与術師エンチャンターのアレルは今日も限界まで魔力を振り絞っていた。


「手が止まっているぞ、無能! 日が昇るまでに、この粗悪な剣三百本すべてに『耐久力微増』の付与を終わらせろと言ったはずだ!」


丸々と太ったギルドマスターの罵声(ばせい)が、冷たい石壁に反響する。

 アレルの持つスキルは【条件付与】。術者が特定の条件を満たした時にしか効果を発揮しない、極めて扱いづらいハズレスキルだと嘲笑(ちょうしょう)されていた。

 そのため、ギルドマスターはアレルを最低の報酬で雇い、彼自身の素の魔力だけを頼りに、ひたすら下級の付与作業を強要していたのである。


食事もろくに取れず、睡眠時間は毎日たったの二時間。魔力枯渇による激しい頭痛と吐き気(はきけ)に耐えながら、アレルはただ機械のように魔力を注ぎ続ける日々を送っていた。


「……マスター、もう限界です。せめて魔力回復薬マナポーションの支給を……」

「甘ったれるな! 気合で捻り出せ! お前のような攻撃魔法一つ使えない底辺を雇ってやっているんだ、命を削ってギルドに貢献しろ!」


傲慢(ごうまん)に言い放つギルドマスターの顔を見た瞬間。

 アレルの頭の中で、何かがプツンと、明確な音を立てて切れた。


(……なんで俺は、こんなところで死に急いでいるんだ?)


これ以上、魔力と命を搾取(さくしゅ)され続ける理由など、どこにもない。

 アレルは作業台に置いていた剣を静かに置いた。


「……辞めます」

「あぁ? 今なんと……」

「こんな魔力と命を削るだけのギルド、今日限りで辞めさせていただきます。今までお世話になりました」


静かだが、はっきりとした声だった。

 ギルドマスターが顔を真っ赤にして激昂(げきこう)し、咆哮(ほうこう)する。


「ふざけるな! 俺のギルドを抜けたら、お前のようなハズレ術師など、この王都で生きていけなくなるぞ! 冒険者ギルドにも手を回して、二度と仕事を受けられないようにしてやる!」

「ええ、結構です。こんな環境で働き続けるくらいなら、野垂れ死んだ方がマシですから」


アレルは振り返ることなく、工房の重い扉を開け放ち、外へと飛び出した。


◆ ◆ ◆


夜明け前の冷たい風を、胸いっぱいに吸い込む。

 その瞬間——アレルの身体に、劇的な変化が訪れた。


長年、彼を縛り付けていた激しい疲労感と、魔力枯渇による呪縛が、まるで嘘のように吹き飛んでいく感覚。全身の細胞が歓喜の声を上げているようだった。

 突如、アレルの目の前に半透明のステータスプレートが出現し、激しく明滅を始めた。


『【条件付与】の隠し条件が満たされました』

『術者の【魔力・肉体ストレス値:ゼロ】を検知』

『スキルのランクが【規格外(神話級)】へと昇華(しょうか)されます』


「……は?」


アレルは思わず呆然と声を漏らした。

 【心身ストレス値:ゼロ】。それが、この付与スキルの真の発動条件だったのだ。

 過酷なブラックギルドで、常に魔力を絞り取られ、限界まで働かされていたアレルが、今までその条件を満たせるはずもなかったのである。

 ギルドを辞め、明日からの重圧から完全に解放された今、彼のストレスは完全に消失していた。


試しに、アレルは路地裏のゴミ捨て場に落ちていた、刃こぼれだらけの「ただの鉄のナイフ」を拾い上げ、魔力を込めてみた。


――【神話級付与:絶対切断】【神話級付与:自己修復】。


カッ! と眩い光が弾け、サビだらけだったナイフが、神々しい白銀のオーラを纏った極上の宝具へと変貌した。

 アレルが軽く空に向かって振るうと、遥か上空を漂っていた分厚い雨雲が、音もなく真っ二つに両断され、美しい星空が顔を出した。


「……嘘だろ」


天災クラスの圧倒的な威力。そして何より、これほどの魔法を行使しても、魔力が減るどころか一切の疲労感がない。

 アレルは確信した。


「定時で上がって、自分のペースでストレスフリーな生活を送れば……俺、世界最強の付与術師として生きていけるのでは?」


こうしてアレルは決意する。

 過酷な労働も、無理なノルマも一切なし。完全定時退社をモットーにした、自分だけのホワイトな個人工房を立ち上げることを。


◆ ◆ ◆


一方その頃。

 アレルの底なしの魔力労働に依存しきっていた武装ギルド『赤き鉄』は、早くも崩壊(ほうかい)の危機に直面していた。


「どういうことだ! 納品予定だった防具百個の付与が、一つも終わっていないだと!?」

「も、申し訳ありませんマスター! 他の付与術師たち総出で作業にあたらせたのですが、途中で全員が魔力枯渇で倒れてしまい……!」


ギルドマスターは冷や汗を流した。

 アレルに押し付けていたノルマは、本来であれば熟練の術師十人がかりで三日はかかる異常な量だったのだ。彼がいかに規格外の魔力効率でギルドを支えていたか、失って初めて気づいたのである。


「……おい、待て。あの大量の依頼品は、王都でもトップクラスのAランクパーティ『蒼の剣閃』からの急ぎの注文だぞ! 今日の昼までに納品できなければ、莫大な違約金が……っ!」


ギルドマスターの狼狽(ろうばい)をよそに、時間は無情にも過ぎていく。

 やがて激怒した上位パーティから多額の違約金を請求され、ギルドが借金まみれで瓦解(がかい)していく未来まで、あと数時間へと迫っていた――。


◆ ◆ ◆


ブラックギルド『赤き鉄』を辞めてから数週間。

 アレルは王都の静かな裏通りに、小さな店舗兼工房『ホワイト・エンチャント』を開き、悠々自適(ゆうゆうじてき)な生活を送っていた。


営業時間は昼の十二時から、夕方の十六時までのたった四時間。

 朝は日の光で自然に目覚め、淹れたてのハーブティーをゆっくりと味わう。誰に急かされることもなく、理不尽な怒鳴り声に(おび)えることもない。

 心身の疲労から完全に解放されたアレルの【魔力・肉体ストレス値】は、常に『ゼロ』を維持していた。つまり、彼が施すすべての付与魔法は、無条件で【神話級(神の領域)】へと昇華(しょうか)され続けている。


「よし、今日の作業はこんなもんか」


アレルは近所の鍛冶屋から二束三文で買い取った「刃こぼれした鉄の剣」や「ただの革鎧」に、鼻歌交じりで魔力を流し込んでいく。

 見た目はただの安物だが、彼が「ちょっと頑丈になれ」「少し軽くするか」と念じただけで、その武具には【神話級:絶対破壊不可】【神話級:全属性無効】【神話級:重量無視】という、国宝すら凌駕(りょうが)するデタラメな効果が定着していた。


時計の針が、十五時五十五分を指す。

 アレルは迷うことなく作業の手を止め、店の外にある看板を『準備中』に裏返そうと立ち上がった。


「さて、今日の夕飯は何を――」


ガァン!! と、店の扉が乱暴に開かれたのはその時だった。


「頼む……! どんなに高くても構わない、今すぐ戦える武器と防具を見繕ってくれないか!!」


店に転がり込んできたのは、全身を泥と血で汚した銀髪の女騎士だった。

 彼女の名はリーゼ。王都の防衛を担う最強のAランクパーティ『蒼の剣閃』のリーダーである。しかし、常に冷静沈着なはずの彼女の顔には、かつてない深い疲弊(ひへい)焦燥(しょうそう)の色が浮かんでいた。


「いらっしゃいませ。……ええと、武器ならそこの棚にある鉄の剣くらいしか残っていませんが」


アレルが適当に指差した商品棚を見て、リーゼは絶望に顔を歪めた。


「ただの鉄の剣……? ふざけないでくれ! 我々がこれから相対するのは、数万規模の魔物の大群スタンピードなんだぞ! そんななまくらで傷がつく相手ではない!」


彼女たちは絶望的な状況に追い込まれていた。

 本来であれば、大手ギルド『赤き鉄』から最新の魔力付与武具を受け取り、王都に迫る凶悪な魔物群の討伐(とうばつ)へ向かうはずだった。しかし、『赤き鉄』は突如として機能不全に陥り、納期を完全に破ったのだ。

 最前線で武器を砕かれ、丸腰同然となった彼女は、藁にもすがる思いで開いていたこの小さな店に飛び込んできたのである。


「悪いがよそを当たる……っ!?」


踵を返そうとしたリーゼの足が、ピタリと止まった。

 彼女の鋭い剣士としての直感が、棚に無造作に置かれた『鉄の剣』から放たれる、異常な気配を察知したのだ。

 恐る恐るその柄に触れた瞬間、リーゼは全身に雷が落ちたかのように硬直した。


(な、なんだこの剣は……!? 極限まで圧縮された、星の海のような膨大な魔力。それが、この安っぽい鉄の剣の中に完全に制御された状態で封じ込められている……!?)


「こ、これは……あなたが打ったのか!?」

「ええ、まあ。少し使い勝手が良くなるように付与エンチャントをかけましたけど。……すいません、定時なんで、あと一分で店閉めますよ?」

「買う!! 言い値で買う! 金貨百枚、いや、三百枚出してもいい!」

「えっ? あ、いや、銀貨三枚ですけど……」


銀貨三枚。子供のお小遣い程度の金額である。

 驚愕(きょうがく)で目を丸くする最強の女騎士に、アレルは半ば強引に剣を渡し、銀貨を受け取った。


「それじゃ、気をつけて。十六時なんで閉めますね」


ガラガラと無情に下ろされるシャッター。

 神話級の武具を抱えたリーゼは、嵐のように戦場へと取って返していった。


◆ ◆ ◆


王都の東門。空は魔物が発する瘴気で赤黒く染まり、大地は数万の魔物の足音で地鳴りを起こしていた。

 防衛戦は大崩壊の危機に瀕していた。結界は破られ、兵士たちの武器は次々と砕け散っていく。


「もはやこれまでか……!」


指揮官が絶望の声を漏らしたその時、最前線にリーゼが駆けつけた。

 彼女の手には、先ほど裏路地の店で買ったばかりの、どう見ても安っぽい鉄の剣が握られている。


「リーゼ殿! 『赤き鉄』からの支給武器はどうした!? そんななまくらで、あのSランク魔物『災厄の暴食竜ディザスター・ドラゴン』に挑むつもりか!」

「……私にも、これがどういう代物なのかは分からない。だが、賭けるしかない!」


リーゼは迫り来る巨大な竜に向かって、銀貨三枚の鉄の剣を上段に構え、渾身の魔力を込めて振り下ろした。

 ――その瞬間、世界から音が消えた。


アレルの【神話級付与:魔力万倍増幅】と【神話級付与:絶対切断】が、リーゼの剣撃に呼応して完全に解放されたのだ。


「――――ッ!?」


鉄の剣から放たれたのは、天をも焦がすような極太の光の斬撃だった。

 斬撃は暴食竜の強靭な鱗を紙切れのように切り裂き、そのまま背後に広がる数万の魔物の群れを一瞬にして蒸発させた。さらに光の刃は止まらず、遥か彼方にある山脈の山頂を斜めに両断し、ようやく天の彼方へと消えていった。


大地に深く刻まれた、底が見えないほどの巨大なクレバス。

 後に残されたのは、一瞬で灰燼(かいじん)に帰した魔物の群れの残骸と、静寂だけ。


「……あ、あぁ……」


奇跡を目の当たりにした数千の兵士たちが、次々と膝から崩れ落ちる。

 リーゼ自身も、自分が放った一撃のあまりの威力に呆然と立ち尽くしていた。しかも、これほどの魔法剣を行使したにも関わらず、剣の刃には一切の傷がなく、彼女自身の魔力も【自動回復】の付与によって完全に満ち溢れている。


「……信じられない。あの裏路地の店の主は、一体何者なんだ……?」


震える手で安物の鉄剣を見つめながら、リーゼは確信した。

 王都の片隅に、神の如き腕を持つ、正体不明の天才付与術師が潜んでいるということを。


◆ ◆ ◆


一方その頃。王都の歓喜とは裏腹に、ブラックギルド『赤き鉄』の工房は、まさに地獄絵図と化していた。


「ひぃぃっ! どういうことだ! なぜ他の術師たちは武器一つまともに強化できんのだ!」


丸々と太ったギルドマスターは、床を転げ回りながら悲鳴を上げていた。

 アレルという無限の魔力タンクを失ったことで、ギルドの生産ラインは完全にストップ。残された職人たちを徹夜で働かせたものの、彼らは次々と魔力枯渇で倒れ、使い物にならなくなっていた。


「ま、マスター! 王国の監査官と、怒り狂った上位クランの冒険者たちが、店の前に大挙して押し寄せています! 『支給の遅れで死にかけた、違約金と損害賠償を払え』と……っ!」


「お、終わりだ……っ! 俺の栄光が、俺のギルドがああああぁぁぁっ!!」


アレルのたった一人の退職が、巨悪なブラックギルドの息の根を、確実に止めようとしていた――。


◆ ◆ ◆


翌日の昼。

 王都の裏路地は、かつてない異常な喧騒(けんそう)に包まれていた。

 普段は人一人通らないような寂れた通りに、王家お抱えの近衛騎士団、Sランクのトップ冒険者たち、果ては大国の大貴族の馬車までもが、長蛇の列を作っていたのである。


彼らの視線の先にあるのは、ただの古びた木造の店舗。

 看板には『ホワイト・エンチャント。営業時間12時〜16時』とだけ書かれている。


「おい、本当にこんなボロ店にあのアダマンタイト級の魔物を斬り裂いた剣を作った付与術師がいるのか?」

「間違いない。昨日、リーゼ殿が振るった神の一撃……あの異常な魔力残滓を辿れば、ここに行き着く」


正午。時計の鐘が鳴ると同時に、店の扉が呑気に開いた。


「いらっしゃいませー。……えっ、何この人だかり」


エプロン姿のアレルは、目を丸くした。

 王都の重鎮たちが一斉に色めき立ち、彼に向かって殺到(さっとう)する。


「天才術師殿! 我が騎士団に防具を百セットお願いしたい! 金貨一万枚出そう!」

「いや、私に先にお譲りいただきたい! どんなガラクタでも構わん、貴方の魔力が籠もった武器を!」


怒涛の勢いで懇願(こんがん)してくる大物たちを前に、アレルは少しだけ顔を引きつらせた。


「ええと、うちの商品、一日三個までしか作れないんで……。それに、残業は絶対しない主義なので、大きな依頼はお断りしてます。とりあえず、そこにある木の盾と鉄の槍なら売れますけど」


アレルが適当に指差した商品には、【神話級:絶対防壁】や【神話級:必中貫通】といった、世界を蹂躙(じゅうりん)できるレベルの異常な付与が施されている。

 その神々しい魔力の奔流を前に、並み居る英雄たちは息を呑み、畏怖(いふ)の念とともに次々と大金を積み上げていった。


しかし、どれほど大金を手に入れても、王族から専属術師へのスカウトを受けても、アレルの態度は変わらなかった。


「あ、十六時になったんで閉めますね。明日また来てください」

「ま、待ってくれ! あと銀貨十万枚出すから、その『ただの布の服』だけでも――」

「定時なんで。お疲れ様でしたー」


ガラガラピシャァッ!!

 容赦なく下ろされるシャッター。どれほどの権力者であろうと、彼の『完全定時退社』のルールを曲げることはできなかった。

 夜は最高級の霜降り肉を買い込み、誰にも邪魔されないキッチンでじっくりと調理を楽しむ。アレルは、かつてないほどの充実(じゅうじつ)したスローライフを謳歌(おうか)していた。


◆ ◆ ◆


一方、王都の地下牢獄。

 かつて栄華を極めたブラックギルド『赤き鉄』のギルドマスターは、汚物にまみれた冷たい石の床に這いつくばっていた。


「頼む……! 許してくれ! 違約金なら必ず払う! だから魔石鉱山送りだけは……っ!」


顔面を蒼白(そうはく)に染め、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔で命乞いをする。

 しかし、鉄格子の外に立つ王国の監査官と、Aランク冒険者たちの眼差しは、絶対零度よりも冷たかった。


「許すはずがないだろう。貴様ら『赤き鉄』の納品遅れのせいで、王都はあわや魔物の大群に飲み込まれるところだったのだ」

「それに、過去の帳簿もすべて調べさせてもらった。粗悪品への偽装、他クランからの手柄の横取り、そして……所属術師に対する、非人道的な魔力の搾取(さくしゅ)


監査官の言葉に、ギルドマスターはビクリと肩を跳ねさせた。


「お、俺は悪くない! あのアレルという無能が、勝手にギルドを抜け出したから……っ!」

「無能だと? 貴様がゴミのように扱っていたあの青年こそが、昨日、たった一振りの鉄剣で王都を救った『神の腕を持つ付与術師』だぞ」

「…………は?」


ギルドマスターの思考が完全に停止した。

 自分が最低賃金でこき使い、罵倒し、いつでも捨てられると思っていた底辺の歯車。それが、実は王都の全戦力を上回るほどの規格外の天才だったというのか。

 自らの手で、最大の宝を泥水の中に蹴り捨てていたという現実に、ギルドマスターは絶望の底へと叩き落とされた。


「全財産は没収、ギルドは解体。貴様は国家反逆罪に等しい罪で、一生太陽を拝めない最下層の魔石鉱山で強制労働だ。……一日二十時間、死ぬまで魔力を絞り出してもらう」

「あ、あああ……っ! いやだ、いやだぁぁぁっ! アレルッ! 戻ってきてくれアレルゥゥゥッ!!」


後悔に塗れた凄惨(せいさん)絶叫(ぜっきょう)が、暗い地下牢獄に響き渡る。

 しかし、どれだけ叫ぼうとも、かつて彼がアレルに強いていた生き地獄が、そっくりそのまま自分に返ってきただけである。同情する者は誰一人としていなかった。


◆ ◆ ◆


――同じ頃。


「うん、今日のステーキは最高の焼き加減だ」


アレルは自身の工房の二階で、赤ワインが入ったグラスを傾けていた。

 窓の外には、美しい王都の夜景が広がっている。

 かつてのブラックギルドが完全に破綻(はたん)し、地獄の底で元上司が泣き叫んでいることなど、彼は知る由もない。


「明日も昼から適当に付与して、夕方には上がろう。……やっぱり、ストレスゼロの生活が一番だな」


誰にも縛られず、誰からも魔力を搾取されない。

 規格外の神話級スキルと、莫大な資産を手に入れた底辺付与術師は、今日もきっちり定時で仕事を終え、自由で幸せな夜の眠りにつくのだった。

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