第七章 朝霧の中、そびえるは…
ーーまもなく、終点、ユタカノミヤコです。日枝野村行き、普通はお乗り換えです。ーー
あー、眠い。オレは無理やり体を起こした。どうやら目的地に着いたらしい。窓の外を見ると、朝日もだいぶ昇ってきて、遠くに見える山々は光り輝いている。
「うわあああああ!!まぶしいいいい!」
まだ到着自体はしていないので、列車が動くと角度が変わり、山から急に太陽が現れた。目が潰れそうである。
「うおおおおああああああ!!!目があああああ!のああああああん!!!!」
余りにも目が痛かったので、その場でのたうち回ってしまった。
「おい…、うるさいぞ…。」
「あ、恋麗。目がやられたんだよ…。」
「サングラスかけてんのに何で目が潰れんだよ。」
「いやこれサングラスじゃなくてメガネなんだが。」
「なんでもいい。早く降りる準備しとけよ。」
そう言って恋麗はオレの部屋から出ていった。
…そういえば、何で当たり前のようにアイツがいたんだ…?ここ、オレの部屋だったよな…。
プライバシーの侵害じゃないか。
あれから数分経ち、列車は駅に停まった。既に日は昇り、駅の周りもしっかり見えるようになった。
「さーて、到着…って、なんじゃこりゃあ!!」
本日三回目の叫び。そろそろ怒られそうだが、そんなことは置いておいて、駅に降り立つと、周りは霧がかっていて、前が見えない。あまりにも濃すぎる霧だ。
まさに、五里霧中の上位互換。しっかり周りを見ないとホームから足を滑らしそうで、少し怖い。
「うわ、なんだこの霧。列車の中ではこんなのかかってなかったよな…。」
やっと降りてきた恋麗も驚きで目を丸くしていた。
「ああ。というか、見ろ。列車の向こう側、霧がないぞ?」
開いているドアの向かい側のドアの窓には、霧のない晴れた景色が見える。となると、この列車を境に霧が出ているわけか…。うん、どういうこと…?
今まで散々摩訶不思議な現象を見てきたが、これはあまりにも不思議すぎるだろ。
「これ、どうするよ。下手に動いたらお互い迷いそうだよな。」
「うーん、少し待ってみるか…。そうすれば霧も晴れるだろ。」
本当に迷惑だ、気象現象よ…。
いつの間にかオレたちをここまで運んだ走る宿は、ドアを閉めて発車してしまった。
列車が発車した後、ホームの端が少しだけ見えた。でも、駅の構造を知らないからここから出るのは無理そうだ。
「うう、クソ!こんなことになるならトイレ行っとけばよかった!」
「行かないのはアホすぎるだろ。」
恋麗にバカにされたことも知らず、オレはその場で足踏みし始めた。そろそろやばいぜ…。
っと、そんなやりとりを少しの間続けたおかげで霧が少しだけ晴れ、周りが見えるようになった。
「うわッもうヤバい!すまん恋麗トイレ行ってくる!」
「はいはい。早く済ませろよ。」
ふう、危なし危なし。なんとか間に合った。
さて、恋麗がいたところに戻ろう。
いつの間にか霧もだいぶ晴れ、けっこう周りを見渡せる。まあ、まだ多少は霧っぽいけど。
「恋麗ー。戻ったぜ…。」
その場には恋麗がいない。…デジャブ…。日本語で既視感。今まで記憶を取り戻すときに散々感じたものだが、今回は違う。
「またかよ!何回はぐれれば気が済むんだよ…。」
さすがに呆れてきたので、気にせず記憶探しの旅を再開しようと思う。あいつなら置いていっても死にはしないだろ。…あ、もう死んでたんだ、アイツ。
このユタカノミヤコ駅は、大きいと言われると中くらいなのだが、夕日ヶ丘や呼長屋とは比べ物にならないくらい立派なものだ。
駅のなかにあった飯屋で朝飯を済ませて、町を散策し始めた。
「うーん、あんまりピンとくる場所なんてないよな…。あんまり街に関する思い出ってないのか…?」
今思えば、思い出した記憶に大都市はほとんど出てこないような気がしなくもなくもないわけではない(要約:そんな気がしない)。ほとんど山と田舎の町だらけだ。
「…山が近いな。あそこの方が記憶を取り戻しやすそうだ。行ってみるか。…うん、オレは自分の意見を二転三転しすぎだな…。」昨日は街のほうが思い出せるって言ったばかりだった…。まあいいや。
「路面電車か。山の方にも行けるらしいし、乗るか。」
駅前には、小さな停留所があり、そこには線路が敷かれてあった。周りを走る車は、どことなく少しだけ古い型をしていて、これもまた不気味さを演出していた。
「ミヤコって名乗るくせには建物の高さが低いし、やっぱり昔の日本って感じがするな…。」
そうこうしているうちに路面電車はやってきた。
「ご乗車ありがとうございます。運賃は一律百五十円です。」
乗り込むと、車掌さんが料金徴収をしにきた。
このご時世でツーマン運転とは…。珍しい…。
乗り込んだ客はオレだけらしく、電車はすぐに発車した。
道路の真ん中を走るので、三六◯度のパノラマ展望だ。他に乗客もいないようだし。
「…路面電車…。オレ、どこかで乗ったことあるよな…。」
恋麗がいなくなったときとは違う既視感…。記憶の手がかりのはずだ…。試しに周りをグルっと見渡してみた。壁や天井には色とりどりの広告が貼られている。
少し手狭な車内…。両側に道路が見える景色…。
…そうか!故郷で乗ったんだ!その時の情景を手に取るように思い出せる。中学に上がってすぐ、街の方に遊びに行くためによく路面電車を使ってたっけ。
でも、その時の連れの顔を思い出せない。友人かもしれないし、ただのクラスメイトかも知れん。
…まあ、とりあえず一つ記憶を取り戻したんだ。
後で思い出せばいい。思い出すためのピースが足りないんだ。
安心感のせいか少し気が緩む。のんびり窓の外を見ていると、交差点の隙間から何か見えた。そこには公園がある。
なんの変哲もない公園なのだが、敷地にたくさん生えている木々の奥に建っている建物に、なぜか不気味さと嫌悪感を感じた。
本当に一瞬しか見えなかったのに、ここまで強い感情が湧き上がるとは…。
「なんだったんだ…。あれ…。」
湧き上がってきた感情を前に、オレは困惑するが、その間も路面電車は山の方へと進む。
恋麗の行方は、未だに分からない。
…携帯持ってたら良かったのになぁ…。




