第五章 鉄道は星と舞う
草原のなかからいきなり駅が現れる。周りには本当に草と森しかないのに…。何でこんなところに駅を作ったのか…。
駅は上下線でプラットホームが別々。なので
ホームを行き来するには橋を渡る必要がある。
駅舎はボロい。
「そうそう、夕日ヶ丘駅。こんな名前だったな。小さい頃はここから街に出てたなぁ。」
「デカい街があるのか…。ならそこに行こうぜ。ちょうど列車も来たし。」
遠くに列車の明かりが見えてきた。各駅停車だろう。
「あんな鈍行に乗ってたら日付が二回くらい変わるぞ。ほら。」
恋麗に示されたので太陽を見ると、もうすでに沈みかけていた。日付が二回変わるくらい大都市までは遠いのだろう。絶対終電でも行けねえ…。
って日付が二回変わるって遠すぎるだろッ!
「実はな、この駅、あと一時間もすれば夜行特急が来る。寝台付きだ。」
「うわ、最高かよ。」
寝台特急以外に優等列車もないらしいので、オレたちは夜行特急を待つために、ホームのベンチに座った。
ちょうど夕日を背にしているので、眼前に広がる景色は一面の草原と山、そして遠くで光る星々。
一見普通でも、どこか不気味さを感じるところが、ここが夢の中なのだと示している。
「なあ、永之助。もし、記憶が全ては戻らなかったら、お前はどうする?」
恋麗はまたもや突然に質問をしてきた。急にどうしたのだろう。
「知らんな。それはその時に陥ったオレが決めることだ。今決めることじゃない。それに、言うて大丈夫だろ。まだ家族のことしか思い出せないが、それでも親族のことはほとんど思い出した。初日でな。だから、本当に辛くなるまではオレは記憶を探し続ける。」
「…永之助らしいな…。」
…まだ出会って一日も経っていないのに、恋麗は昔からの仲のような返しをしてきた。
ふと、オレは恋麗と以前会ったことがあるような気がした。記憶がないだけで、知り合いだったか?
いや、オレの知り合いに死人がいるのはなんか嫌だ。
ただの違和感…、で片付けられないんだよなぁ…。こんな状況だから…。
考え事をしている間も、時間は進み、気づけば夕日なんてとうに沈んでいた。
「踏切が鳴り出した。もうすぐ来るぞ。今日の宿だ。」
遠くで黄色がかった明かりが光る。その光は次第に大きくなり、列車全体もようやく見えてきた。
「ブルートレインか。懐かしい。」
「知ってるのか。」
「家族の記憶の中で出てきた。親戚が北の方に住んでて、小さい頃は会いに行くためにブルートレインを使っていた。」
この駅には券売機も自動改札もないので、車内で切符を発行してもらうしかない。
オレたちが乗り込んだドアのところに、ちょうど車掌さんがいた。
「はい、ではユタカノミヤコまでのご乗車ですね。お客様の席はB寝台になりますので、お間違えのないようご注意ください。」
B寝台は、いわば一般向けの低グレードの席。
それでも寝心地はよい。
「はい、永之助の切符だ。」
「助かる。じゃ、また明日。」
「夕飯は食べとけよ。」
オレたちは隣の席だが、プライバシーのこともあるので、明日まではお互いに干渉しないことにした。
列車はオレたちを乗せたあと、すぐ発車したのか、かなり速度を上げてきた。車窓を見ると、もうすでに辺りは真っ暗だ。オレの時間の感覚が狂ってるのか、はたまた単純に時間の流れが速いのかは定かではないが、ついさっきまで昼だったような気がする。
夕日橋の町で弁当くらい買っておけばよかったのだが、今となっては後の祭り。諦めて明日しっかり朝飯を食べよう。
オレはなんとか寝ようと横になったが、なかなか眠れない。慣れない寝床のせいか、慣れない世界のせいか。
「…車窓でも見るか…。そのうち眠くなるだろ。」
相変わらず外は真っ暗で、特に何が見えるとかはないが、時々駅のホームを通過するため、急に眩しくなる。勘弁してほしいね。
町と駅の光しか見るものがないので、やっぱり暇になってきた。
「どうしたもんかねぇ…。」
やっぱり寝台特急に乗ると、座ってるより寝転がってたほうがいいな…。
…記憶が全ては戻らなかったら、かぁ…。
取りあえず記憶を取り戻すことに躍起になりすぎて、そんなこと考えてなかったな。
こんな時に友人の一人でもいてくれたらな…。
オレにも少なからず友人がいたはずだ。
どんなやつかは覚えてないが、きっと心の支えになってくれていたのだろう。
恋麗は…、友人とは言えん。あんなのと友人になってたまるか。
…現実にいるはずの友人との記憶を、取り戻せないのは、なんか、つらい。
一人で感傷に浸っている間も、列車は目的地に向かって走り続けていた。夜空という名のトンネルを。
ーー列車はまもなく大宮野口を通過いたします。
大宮野口を通過後は、緊急の時を除き車内放送は致しません。終点、ユタカノミヤコへは、六時二三分の到着です。ーー




