第十一章 懐古記録
「雪が降った次の日は雨かよ。気象現象がバグってるんじゃねえか?」
「まあ、この世界じゃたまにあることだ。春に台風が来たりとか、夏に晴天が続いたりとか、秋に彼岸花が咲かなかったりとか。」
「ゲームだったら炎上モノのバグだよな…。というか、秋だけ異変しょぼくない…?」
「案外そうでもないよ。ここにいるのは来訪者以外は死者だからね。彼岸花は秋分を教えてくれるいい目安になる。逆に彼岸花が咲かないと秋分って感じがしなくて何か現世に帰りづらい!」
あ、そっか。彼岸の日は亡くなったご先祖が帰ってくる日だったな…。…コイツらに子孫とかいるの…?
「ていうか、そんな自然の摂理に任せずにカレンダー使えよ。」
「この世界の管理人はカレンダー作るのが下手くそなんだよ…。」
「管理人がカレンダー作んのかよ!てか、ずっと気になってたけど管理人って何!?」
「そのうちわかる。」
今日は昨日と違い、動かない布団で安定した眠りを取ることができた。それで起きたらこのざまである。
昨日の天気予報では晴れるって言ってたのに…!天気予報を否定するわけではないが、やっぱり何事もうのみにしないほうがいいのだな…。と、つくづく思う。
とりあえず、しばらくは土砂降りが続きそうなので、弥彦の家で待機するしかない。
「暇だしさ、しりとりしないか?」
「えー?永之助、シリアス小説でしりとりしだしたらタイトル詐欺にならないか?無駄な引き延ばし回だと思われるぞ。」
「そういう事言うな!暇だから仕方ないだろ!ほら、"り"から始めろ!」
「はいはい。じゃあー、利用」
「次、弥彦。」
「え、ボク!?えー、うーん、後ろ!」
「ろ過」
「回想」
「迂回路」
「創意る」
「おい待て永之助!なんだよ創意るって!」
「え、オレがアレンジした言葉。創意の動詞形。」
「うん、暴挙だねコレは。あと日本語を改変しないで…。」
数時間たった。先ほどの土砂降りではなく、少し降る程度までには収まった。
「じゃあ、行ってくる。」
「気をつけて。弾は無駄撃ちしないようにね。」
「わかってる。」
けっきょく弥彦から銃を借りることになってしまった。
今思えば極限状態とはいえ銃を躊躇なく撃ったんだよな。オレは…。…人が相手じゃないし、別にいいか。
「て、あのドス黒石炭野郎がとんでったのは西の方だよな。永之助、あの小学校より西側に行ったことは?」
「ない…。と思う。道に迷ってたからどこをどう通ってあそこにたどり着いたのかわからんしなぁ…。」
「…そうか。…ていうか、この町はお前の記憶をもとに作られてるんなら、なんで迷ったんだよ。」
「全部が全部同じなわけじゃねえんだよ。似てるとはいえ所詮は別物なんだから。」
「そんなもんか。」
それを言い終ったら、恋麗はビニル傘をさして西の方へ歩き出した。続いてオレも傘をさす。
昨日足元まで積もっていたはずの雪は、既に溶けてしまっていて、アスファルトの黒さがはっきりとわかった。
草木もほとんど生えていない。やっぱり冬は冬なのだな…。
少し歩いていると、古びた商店街のようなところに出た。八百屋や駄菓子屋、魚屋、米穀店など、今では見ない店が立ち並んでいる。だが、そこに人の気配はなく、どこもシャッターが降ろされているか、中がグチャグチャになっている。
…中がグチャグチャに…。あのまっくろ怪物の根城と思われる建物も、中はグチャグチャになっていたっけ…。
「なんだここ。きったねぇなぁ。こんなところ見たことないからやっぱり初めてくるところなんだな…。」
恋麗は相変わらず自分のペースで探索をしていた。
オレも探索をしたいのだが、建物の中に入るのはとても気が引ける。
「って、恋麗ー!!何で当たり前のように人ん家侵入してんだ!!」
「え、どうせ廃墟だろ?問題ねぇって。それに、ここがもしドス黒石炭野郎の第二の根城だったら、何か有力な情報もあるかもしれねえぞ?」
「いや、そうかもだけどよ…。って、おおい!恋麗ー!?何も言わずに入っていくなよ!」
オレは、雨が降る中取り残された…。…どうしようか…。とりあえず適当に外に落ちてるものの観察でもするか。周りには植木鉢だの廃材だの壊れた工具だの、けっこういろんなものが散らばってる。
人だけ消えたような、そんな生活の跡が見て取れる。
ここの人は、あのまっくろ怪物に虐殺されたのだろうか。そう考えるとかなり恐ろしい…。
「…これ、アイツの体の破片じゃないか…?」
排気口で隠れてよく見えなかったが、そこには石炭みたいにまっくろな塊が落ちていた。すぐそこに捨ててあった軍手を身に着け、それを触る。
…ブヨブヨしてて気持ち悪い…。でも、コレで確信した。ココはヤツの根城の一つだ。
「おーい、恋麗!早く戻ってこいよ。何してんだ?」
…返事はない。雨音で俺の声がかき消され、届かなかったのか、少し離れたところを探索してるのか…。
はたまた……。
すると、その時、遠くで銃声が鳴り響いた。
この辺りはオレたちしかいなかったはず…。なら、
恋麗に何かあったな…。
オレは急いで銃声が鳴った方向へ走った。
そこで衝撃的なものを見た。
「…!!」
恋麗は、複数の男に囲まれていた。そして、顔にはあざができていた。そばには恋麗の銃が転がっている。
「ああ?なんだお前。オレらに用でもあんのかぁ?」
「おい、お前の顔、見たことあるぜ。お前、呼長屋で逃げやがった坊主だろ。久しぶりだな。」
…!あのときのチンピラか…。
オレは怒りに任せてすぐさま銃を構えた。そして、コレを叩き落とされてもすぐ弓を持てる体勢にした。
だんだん弓道の記憶も思い出してきた。ほんと、やっとだぜ…。
「永、之助…。ダメだ…。」
「なんだ坊主。その銃でオレらを殺す気か?いいよ。やってみな。どうせできねぇからなぁ!!」
オレはすぐさま引き金を引く準備をした。でも、引けない。引いたら、人が死ぬ。人を殺すことになる。
それは、あまりにも、気分が悪い。
けっきょく、困惑と葛藤から引き金を引けず、そのままボコられた。
「まったく…。来なくてもよかったんだ。」
「行くに決まってんだろ。仲間のピンチだぜ?」
「……。その優しさ、もっと現実の友人にあててやれよ。」
「何言ってんだ。オレは誰にも優しい。」
「なめたこと言いやがって…。あと、コレは戦利品だ。」
そう言って、恋麗はとある紙をオレに渡した。
その紙には、黒の生けるもの、人の病なり、異形の形なら、それは頭が元なり。と、書かれている。
「天界史って本からちぎってきたページだ。昔もあんなバケモノが現れたことがあったらしいな。」
「どんな事が書いてあるのかさっぱりなんだが…。」
「要約すると、あのドス黒石炭野郎の正体は、お前が負った病そのものなんだよ。」
「ええええええ!?つまり、オレの敵は……。脳しんとうそのもの…!?」
とんでもない展開になってきたぞ…。まさか、病気をこの手で倒すときが来るとは…。
かなり目標が大きくなってしまった…。




