第8話 ダブルワークのススメ
「これも何かの縁だから」と、店主にバイトを持ち掛けられた。
本業があるので休日がメインになるけれど、店番の手伝いに入ってくれないかと。
「なあに、客はほとんど来ねぇ。問題は本を買いに来るんじゃない奴らだ。そいつらが通り抜けたり、何かを探している間、問題がないよう見張ってて、必要なら後片付けをしてくれりゃいい。本が嫌いじゃないなら、店の本を読んでてもらってもかまやしない」
娯楽のほとんどない町だ。確かに、すでに見るべきところは見てしまった気がする。仕事も定時で上がれる日が多くて暇を持て余し気味なのはそうだった。
「間さんよ。霊感はどの程度だい? ……『手招きする女』が見えて、夢魔には気づかなかった、か。アレと一緒でそのくらいなら、ちょうどいいくれぇかな。クマ公がいるから、危なそうな物への対処もサポートしてもらえるだろう。どうにもならなそうならアレも嬉々として手を貸してくれるだろうよ。あんまり食わせてほしくはないが」
床に散らばった本をマイペースに棚に戻しているオマエを見やりながら、店主は渋い顔をする。オマエはそれに気づいても薄く笑う程度で気にした様子はない。足元には鳥かごに三匹の……三人の? 妖精が入っていてピーピーと抗議の声を上げていた。
「……妖精って、初めて見ました……」
目を擦ってみてもしっかり見えるので、幻覚ではないと思う。
俺の視線に気づいて、妖精たちは憐れみを誘うように手を組んで懇願してくる。
「あんまり見るとつけ込まれるぞ。見えねえと対処できないから店の中では必要最低限見えるようになっとるが、基本は関わらない、だ。無視するくらいでちょうどいい。距離感が大事ってこったな」
対処法マニュアルを渡されてパラパラと眺めてみたけれど、そう難しいことは書いていなかった。だいたいが消えた後の後片付け方法だ。
「怪異との付き合い方がこなれてくれば、寄ってくるものも減るかもしれねぇし、どうだい?」
「……えっと。お試しからでも?」
「かまわねぇよ。こちとらいつでも人手不足だ」
ニッと笑った店主に肩を叩かれ、まずはと散らばった本を棚に戻す作業を手伝った。
*
『お伽堂』は普通の古書も扱っているけれど、異世界の本も混じっているらしい。ほとんどは棚が分かれているので問題ないのだが、たまに普通の本の間に紛れているものもある。人間失格の隣に謎言語の文庫本があったりするのだ。
そういうものは『非売品』の札や印が押してあったりするので買われることはないのだが、何故そこに? という疑問は拭えない。
「奥のふすまやドアの向こう、気配が妙だったろう? この店自体があちこち異界や異世界と繋がっててな。あちらの者が通り抜けるんだよ」
「こっちの世界に来てるってことですか?」
人間に擬態して町を見て回る様を想像してみる。SFの世界っぽい!
「いんや。別の異世界に行くのに、文字通り通り抜けるんだよ。本から本へな。近道みたいなもんだ。店の外に行くやつはほとんどいねぇ」
「ほとんどってことは……」
「対処を間違ったり、妖精みたいないたずら好きは、たまに、な。そのまま居つくやつも、ひと遊びして帰ってくるやつもいるが、できるだけ出さないようにはしてる。おれももうほとんど外での対処は出来んからな」
「そういう時は役に立つんですよ」
オマエがにこにこと自分を指差す。
店主は渋い顔をするものの、仕方なさそうに肩をすくめた。
「不本意ではあるんだが、そいつをおれの目の届く範囲に留めて置ける利点もある」
「えっと。つまり、通り抜ける異世界の住人を監視してる、感じですか?」
引退した勇者の仕事のイメージで聞けば、店主はカラカラと笑った。
「違う違う。どっちかと言うと近道のサービス業さ。異世界同士は交流や貿易が盛んなところも多くてな。こっちからあっちへと出稼ぎに行くやつらも多いのよ。ファンタジー世界で似たような生物が出てくるだろう? ドワーフだのエルフだの妖精だの。兼業してると思やいい。ダブルワーク、トリプルワークも当たり前だな」
「近道……」
「んだから、場所が少しずれるとまずいものもあるのさ。違う世界に行っちまったり、行けなくて暴れられたり……商売だから、客をうっかりソレに食われちまったら困るのよ」
なるほど。
店主の指す先を見て納得する。
「もしかして、良客ばかりじゃなくて悪いのもいるから、そういうトラブルの時は食べていいことになってるんですか?」
「お。察しはいいな。ちゃんと報告と確認を義務付けてるけどな」
店主は頷いた。
たまにごちそうが食べられるから、オマエはおとなしくこの世界に留まってるのかな。
「勇者はタフなんですよ。勝手をするとどこまでも追ってきて首根っこ掴まれるんです。面倒なんですよ。なら、たまのごちそうで自由もある方がいいかなと」
「面倒くさがりなところがあって助かってるよ」
世界を滅ぼすような相手でも、不良息子に対する親のような情があるのかなと店主の表情を見て思う。
勇者は懐も深いのかもしれない。




