第37話 ホワイトデー
あれこれと迷ったお返しは、可愛らしい動物のクッキーがたくさん詰まったクッキー缶にした。クッキーも缶も可愛らしいのだが、味も美味しいと口コミの評価も高い。
俺はそれに合わせて、数種類のフレーバーが詰め合わせになっている紅茶をチョイスした。
「紅茶も可愛らしい缶に入ってるのもありますよ」
「俺のは義理だったし、ティーバッグの方が手軽に飲めるだろ。好みも知らないから、色々試せるほうがいいかと思って」
「……ハザマさんて、そういう気遣いできるし、センスも悪くないのに、どうして振られるんでしょうね?」
「俺が聞きたいわ!」
まあ、こういうのもダメ出しされるのを重ねて覚えたからなぁ。
次に縁があったら、少し長く続くといいのだけど。
「今しばらくは、まともな縁はないと思いますよ」
人の考えを読んだかのように、にやりと笑ったオマエに若干の殺意が湧いた。
「悪縁は食ってもらって構わないんだが?」
「ふふ。せっかくいろんなものが集まってくるのに、それはもったいないじゃないですか」
くそぅ。今年はガチで筋トレしてやる。
*
そんな哀しい予言は聞かなかったことにして、ホワイトデー前の週末に莉音ちゃんを訪ねて行った。平日だと俺の予定が合わせにくいというのもあるのだが、いかにもその日じゃない方がいい気がしたのだ。
二人で訪ねたのだけれど、俺の分もオマエに託して境内の端の方に離れておく。
一応、どうするつもりなのか聞いてみたら、「可もなく不可もなく、今まで通りにしますよ」とのことだった。莉音ちゃんも、そこまで期待している感じでもなかったから、きっとそれでいいのだろう。
とはいえ、『可もなく不可もなく』というのは俺自身にもよく当てはまって、その何とも言えない位置づけに、勝手に同情してしまうのだが。いっそバッサリと振られた方が楽になることもあるのだけど……彼女はどうなんだろうな。
境内の桜を見上げれば、ぽつぽつと蕾が膨らんでいた。そういえば、初めてここに来たのはテディが頭から離れなくなって、だったな。
満開の桜が見事だったことを思い出す。今年は、店主さんも誘って花見をしてもいいかも。
たくさん下がっている絵馬を見るともなしに見て、時々二人の様子を視界の端に映す。紙袋を受け取った莉音ちゃんは、解りやすくちょっと飛び跳ねて喜んだ。
オマエが袋の中を指さして何やら言うと、莉音ちゃんはこちらを向いてニコニコしながら頭を下げてくれた。軽く手を上げて応えておく。
続けて何か言ったオマエに、莉音ちゃんは笑みを消して向き直った。こちらからは表情が見えなくなる。
しばらくした後、オマエがこちらに視線を向けた。話しは終わったのか、そのままこちらにやってくる。
莉音ちゃんはその背中を追うように振り返り――俺とオマエを困惑の眼差しで交互に見やった。
……ん? なんだ?
振られて悲しんでいる風ではない。そして若干の興味本位の視線。
よくわからないまま、俺はぺこりと頭を下げてからオマエと帰途についた。
階段を下りるまで莉音ちゃんの視線が追いかけてきていた気がする。
「……何言ったんだよ?」
「何がですか?」
「ちょっと、妙な反応だったぞ? 正体をバラしたとか?」
「正直に身の上を話しても、そうそう信じるとも思えませんけど」
まあな……俺もしばらく信じられなかったもんな。
「じゃあ、なんて? 変な誤解されるようなこと言ってないだろうな」
「誤解、ですか? 多少されたところで、ハザマさんに不都合ありますか?」
「いや、ない。ないけどなぁ! テディのことでも顔合わせるし、されなくていい誤解はされたくないだろ!」
「べつに、悪口は言ってませんよ……多少端折ったところはありますが。ええと……」
不安だ。悪口ならまだいい気がしてきた……
「『あなた(のお家にいるもの)には興味あるけど、今のところ一番(食に貢献してくれているの)は彼ですので、そういう感じで今後もよろしく……』と」
「……オマエくん!?」
端折ったところを説明するわけにもいかなくて、オマエと二人の時に莉音ちゃんに会うと、しばらく生温かい目で見られることになった。
違う! 違うから! あいつの頭の中、食うことしかないから!!




