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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
5章 諦めは心の養生

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第33話 恋の味

 気づけばコンビニも商店街も赤やピンクのハートで飾り付けられ、チョコレートの種類が増えている。豆や鬼の面もその中に紛れてしまって、どことなく肩身が狭そうだ。

 冷蔵庫が空になったので補充のために買い出しに来たけれど、圧が強くてうっかりひとつ買いそうになる。疲れた時の糖分は至高だよな。


「誰に渡すんです?」

「買うなら自分で食べるけど!?」


 いつものように、なんとなくついてきたオマエが茶々を入れるので、うっかりまともに返してしまった。


「自分用なんて、寂しいですねぇ」

「うるさいな。好きなものを好きなだけ食べれるんだからいいだろ。欲しいなら買ってやるけど?」

「いえべつに」


 涼しい顔して可愛くない奴め。


「こっちのは酒が入ってるぞ」

「!! それは食べてみたいです」

「洋酒と日本酒とあるけど」

「日本酒ので」


 欲望に素直なところは可愛げがあると言えなくもないか。

 店を出たところで、少し前にJK巫女に会ったことを思い出した。バレンタインのポップを振り返って〝お洒落な恋バナ〟を思い出そうとしてみるけど、やっぱりうまく思い浮かばない。


「どうかしましたか?」

「……いや。前にほら、神社の巫女さんにバッタリ会ってさ。暗かったから同じ方向だし一緒に帰ったんだけど、その時の話題で恋バナでもないかって聞かれたんだよな。でも、話せるようなことがなくて」


 オマエは首を傾げた。


「ハザマさんは童貞というわけでもないでしょう?」

「いきなり飛んだな?! それは〝恋バナ〟じゃなくて〝猥談〟だろ」

「そうですが。でも、そこまでいった経験はあるのですから、話せることが無いということはないのではと」

「話しても面白い感じではないというか……結局振られてるしなぁ。オマエはモテそうだから、そういう話も困らないのかもしれないけど」


 オマエはもう一度首を傾げた。


「そんな執着をしたことがないので、経験は語れませんね」

「執着……執着かぁ。そう言われると、俺もそんなに執着したことないかも」

「あぁ……わかる気がします」

「うるさいよ!?」


 納得顔で深く頷くオマエはこちらのツッコミにもお構いなしで、唇の端を引き上げた。


「「別れましょう」と言われても引き止めもしない。振られるわけですよ」

「経験もないやつに……じゃあ、オマエなら恋をどう語るんだよ」

「そうですね……恋とは。しっかりした甘みの中に酸味が潜んでいて、時にはじけるような刺激がある時も。常食すると胃もたれを起こしそうなので、たまにつまむくらいがいいですね」

「……何の話だったかわからなくなるね?」


 わざとなのか、本気なのか、くすくすと笑っていたオマエは、前の方に視線を向けると笑うのをやめて目を細めた。


「……でもあなたのそういうところに、ああいうモノは惹かれるんでしょうねぇ」

「え? 何? ああいう……?」


 オマエの視線の先を見ても、俺には何も見えない。


「神社のお嬢さんと帰った時も、この道を通りませんでしたか?」

「ああ、そういえば」


 一緒に帰った話をしていたから、無意識にその時と同じ道を選んだかもしれない。


「多少は、()()()()のもあると思いますよ」


 オマエの指が眼球を撫でるような動きで、目の前を横切っていく。

 次に開けた視界の先には、白い()()()ワンピースを着た女性が立っていた。時々、向こう側の景色が透けて見える。

 『次の角に――』そう言った莉音ちゃんの声が思い出された。

 思わず足を止めれば、女性はゆっくりとこちらを向いた。肩より少し長い髪。おとなしそうな顔。けれど表情はなく、ただじっと見つめてくる。


「ちょ……ど、どうしろと?」

「この間も言いましたよ。大したものじゃないです。無視すればいいんですよ」

「見えたら気になるだろう!?」


 こんなにガン見されたら!

 オマエはにやつきながら先に行ってしまう。

 残されるのも嫌なので、逡巡したあと思い切って足を踏み出した。距離は五メートルほど。すぐに通り過ぎるさ。

 少し離れた場所を通過しようとしたのに、女性はすぅっと近づいてきて俺の腕を掴んだ。


「……ひっ……」


 暗い瞳が食い入るようにこちらを見ているのがわかる。

 無理無理無理。勘弁して!


「優しくされたいようですよ? 付き合いますか?」

「無理でしょ!?」


 背筋がぞわっとして空気が少し変わったのが解る。女性の表情は変わらないのに、悲しみと怒りが伝わってくる。


「いや、あの、亡くなってる方は、さすがに! 生きてる時に、会えたらよかったですね?」


 虚を突かれたような間があって、俺はその隙にオマエに駆け寄った。


「なるほど。モテるわけですね」

「死者にモテても!」


 絡みつくような視線が無くなって、そっと振り返ってみれば、もう女性はいなかった。いなくなったのか、見えなくなっただけかはわからない。

 少しでも離れようと早足で大きな通りの方へと向かった。


「悪霊化するようなら食べてしまおうと思ったんですけど、どうやら思いを募らせることになりましたかねぇ。時々この道を通ってもう少し育ててくれません?」

「嫌な予感しかしないんだけど!?」


 しばらくこの道は使わないぞ。絶対にだ!


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