第31話 正月
神社からはまっすぐ家に帰った。
オマエにも客用の布団を出してやって、好きにしてくれと自分のベッドに潜り込む。オマエが寝ているところを見たことがないので、眠るかどうかは知らないが。
昨日から散々飲み食いしているので、もう狩りには行かないだろうとなんとなく思ったのだ。
オマエがどう反応するのか気にならないわけではなかったが、あっという間に睡魔に負けてしまった。
朝、七時くらいに一度トイレに行きたくて目が覚めた。
オマエは眠ってはいなかったけれど、布団にもぐって俺のタブレット端末をいじっていた。そうやっていると、本当に普通の大学生のようだ。
特に声を掛けるでもなく、戻ってきたら二度寝に入る。
だらだらと起き出したのは、昼前になってからだった。
「もち食うか?」
「お雑煮ですか?」
「雑煮の準備はしなかったから、っぽいのがよければ、インスタントのお吸い物に入れてやるけど。夜にはちゃんと作ろうかな」
「それでいいです」
にこりと笑ったオマエは、いそいそと棚を開けて日本酒を取り出した。
「あ、待て。一応神棚が先だ」
一瞬悲壮な顔をして、それから渋々と瓶子に酒を注いでくれる。
昨夜買った破魔矢も飾って、ちゃんとお参りしてから餅を焼いた。
「簡易でも、こういう季節感のある食べ物はいいですね」
「そうかもな」
ひとりだとあれこれ面倒くさがってしまうけど、嬉しそうに食べる誰かがいると下手なりに頑張ってみたくなるから不思議だ。
コンビニに雑煮用のカット食材があったよな。今夜と明日の朝くらいは食えるだろう。
上機嫌で酒を傾けていたオマエだったけど、時々ちらちらと神棚を見上げている。お神酒が気になるのだろうか。神社のものほど味が変わるとも思えないのだけど。
「夜までは駄目だぞ」
食器を片付けながら一応釘を刺しておくと、オマエは「いいえ」と小さく首を振った。
「そちらは夜で構わないんですけど……飲む分はありますし」
一升瓶を撫でるようにするのを見て、呆れる。まだ飲むのか!
ん? じゃあ、何を気にしてたんだ?
オマエは確認するように部屋を見渡してから、媚びるような笑顔を浮かべた。
「この部屋に入ってくる怪しいものは全部食べますので……アレを味見してみたりは……」
指差されたのは破魔矢。
「ダメに決まってるだろう!!」
「ダメですか……」
シュンとした顔したって絆されないぞ。
その分というわけではないが、結局酒を飲んでだらだら過ごすことに。
酔い覚ましにコンビニまで行ったくらいで、雑煮を作ってからは何もしていない。
一年の計は元旦にあり、なんていうけど、酒浸りの一年にはしないようにしないとな。
*
明けて二日。
さすがに飲むのはやめて『お伽堂』へと顔を出す。
「なんだ。来たのか。客も来ねぇだろうし、別にゆっくりしてていいんだぞ」
カウンターに座っていた店主はそう言って笑った。
「家にいても酒飲んじまうばかりで」
「ああ……まあ、そうか。じゃあ、店番してもらうか」
「仕事取ってしまうんだったらすみません」
「なぁに。やるこたぁあるんだ。気にすんな」
店主こそ少しゆっくりすればいいのにと思うけれど、そうやって働いているのが好きなのかもしれない。
翌三日も店番をして、正月休みも終わろうとしている。
店主からは年末年始の特別手当をもらって、なんだか恐縮してしまった。そういうつもりでもなかったのだけど。
「そいつの酒代だ」
なんて言われてしまえば、それもそうかと納得してしまう。
結局毎晩飲んでるし。
なんだか本業よりこちらの方がコスパいいような気がするな……って!?
最後に落ちている本がないか見回りをしようと奥まで行ってみれば、めちゃめちゃ楽しそうな妖精と目が合う。
おい、ちょっと! その、火花散る液体は何だ!?
「――お前たち、ここは火気厳禁だぞ!?」
わかっているのかいないのか、妖精は陽気になにか叫んでいる。
「#$%&*@!!」
「え? 何? ちょっと……オマエーーー!!」
助けを呼んだ時にはもう、妖精は火花散る液体を宙にばらまいていた。
パッと散った液体は、小さな花火かイルミネーションのようで、ここが本屋じゃなかったら見入っていたかもしれない。
どこからか現れたオマエが、するりと空を撫でる。散った液体が一つにまとまって、その手の上に移動していった。ぱちぱちと爆ぜる液体に、オマエは愛おしそうに口を寄せる。
液体は恥ずかしがるかのようにほのかに桃色に染まってから、消えた。
「炭酸の強いシャンパンみたいな味ですね。『新年おめでとう』だそうですよ」
「え? 新年?」
今? 時差かよ!
いつの間にかあちこちから妖精たちが出てきて、今度は花びらを撒き始めた。
祝うのはいいけど、片付けもするんだろうな!?




