第30話 年越し
テディと一緒にクマのぬいぐるみが動き出す映画を見た。どこかおっさんくさいクマは笑いを誘う。
エンドロールが流れる頃、店舗の方から店主とオマエが戻ってきた。
「悪かったな。待たせて」
「いいえ。俺も勝手に早く来たから。もう済みましたか?」
「キリがねぇからな。待たせてんだからって終ぇにしてきた」
呆れ顔でオマエに目を向ける店主だったが、オマエはさっさとこたつに潜り込んでくる。
「もうちょっと食べたかったんですけど、乾杯もしなくちゃならないですし」
にこにこと酒瓶に手を伸ばして、こたつの上にドンと置く。
店主は呆れ顔のままコップを取りに行った。
「煙っぽく見えたけど、あれって食っても大丈夫なのか?」
「ポスターがある時に入って来られないモノは悪意のあるモノですからね。やり返される覚悟があって来るのですから、問題ないですよ」
そういう意味で聞いたんじゃないんだが……
「ああいうのに覚悟もへったくれもねぇだろ。間さんは腹壊さねえか聞いてんだ」
「そうなんですか? そうですね。スナック感覚ですかね。あんまりいっぺんに食べると胸焼けするかも? でも、たまにちゃんとした一品ものみたいなのも混じってたりするので」
「選り好みしねえのは助かるが……」
店主は一息漏らして、こめかみをぐりぐりと揉み解す。
「ポスターで止めてるということは、普段から狙われてたりするんすか? 店主さんか、オマエが?」
「まあ、どっちも恨みを買ってたりするからな。それなりに」
「勇者でも?」
「倒される方は面白くないだろうよ」
「全くです」
「おめぇはもっと反省しろ!」
「おとなしくしてるじゃないですか」
オマエは胡散臭い微笑みで酒を注いだコップをそれぞれの前に置いていく。おとなしくはしてるのかもだけど、反省は見えないなぁ。
店主が苦労してそうで、俺も乾いた笑いを小さく漏らした。
「……まあ、今年も無事に終わりますから。お疲れさまでした」
「ああ。お疲れさん」
軽くコップを掲げれば、店主も小さく応えてくれる。オマエはすでに口をつけていて、少しだけ自分もやるべきか迷った顔をした。結局、マイペースを貫くことにしたようだが。
乾物や出来合いの黒豆とかうま煮をつまみに、ちびちび飲んでぽつぽつ喋る。コップが空けば誰かが注いで、気づけば二本目の瓶も空いていた。
自分では結構酔ってるなと思っていたけど、オマエも店主もあまり変わらない。オマエがうわばみなのは解るとして、店主もやっぱり常人離れしているんだな。
トイレに立って、そんなことをぼんやり考えながら戻ろうとしたら、ズボンのすそを何かに引っ張られた。
なんだと思いつつ、開いたドアの向こうが草原で思わず足が止まる。見下ろせば、テディが一生懸命ズボンを引っ張っていた。
そぅっとドアを閉めて、テディの案内で元の部屋に戻る。
……危なかった。うっかり迷子になるところだった。
「開けるドア、間違えませんでした?」
にこにこと見ていたように言うオマエに言葉を濁せば、店主が「酔い覚ましに初詣にでも行ってこい」と笑った。
ちょうど、除夜の鐘も聞こえてきたところだ。
「あれ、筋肉寺の彼がついてるんでしょうか」
「金仰寺、な。嬉々としてついてそうではあるな」
「煩悩を味見してみるというのも面白そうですね」
「俺は行かないぞ」
寺はだいぶ距離がある。
「つれないですねぇ」
「俺は食えるわけでもないし」
「じゃあ、来年は鐘をつかせてもらいに行きましょう」
「もう来年の話かよ。覚えてたらな」
そんなどうでもいい話をしているうちに、神社の階段に並ぶ人の列が見えてきた。
「こちらも盛況ですね」
「ここしかないしな」
並んで人に流されているうちに年が明ける。
「あけましておめでとう」
「はい。今年もよろしくお願いします」
餌として? なんて、うっかり思ってしまったけど、声に出すのはやめた。
向こうから忙しそうに小走りでJK巫女がやってくる。俺たちに気付いてぱっと表情を明るくしたのだが。
「あけまして――酒くっさ!!」
そう言って数歩後退った。
まあ、さんざん飲んでるしなぁ。などとのんきに思った俺に、オマエが胡乱気な視線を寄こす。
おいこら、ちょっと待て! お前の方が俺の倍は飲んでるだろ!?
何、自分は一滴も飲んでません、みたいな顔してるんだ!
JK巫女はハッとして、挨拶もそこそこにまたどこかへと足早に去っていく。忙しいんだろう。
それにしても……飲んだのは事実だけどさあ!!
はぁ。今年もそういう年になりそうだ。
気休めと、世話になっているのでお賽銭は札を入れておくことにする。後で破魔矢も買っておこう。




