第28話 メインディッシュ
気が付けば今年最後の月になっていた。
春に落ち込んだまま異動してきて、こちらの暮らしに慣れるのだろうかと心配していたのが嘘のようだ。オカルト絡みとはいえ、話を聞くうちに田舎のやり方にも馴染んできた。
同僚や高校生の巫女さんなんていう知り合いとも、まあまあ上手くやれているのではないだろうか。
商店街には大きなツリーが飾ってあって、チカチカとカラフルな電飾が瞬いている。ケーキやオードブル、おせちといった食卓に花を添える製品の予約を促すポスターも賑やかだ。
ひとりだとあまり気にせずに焼き鳥でも買って、ビール片手にいつもの夜と変わらない時間を過ごすところだが……
隣でシャンパンのチラシを熱心に眺めているオマエの姿に腕を組む。
「……シャンパン買うなら、オードブルも欲しいよな」
「ビールに焼き鳥じゃないんですか?」
「心を読むのやめて!?」
「わかりやすいんですよ。こちらのことは、お気になさらず」
「そう言ったって、目の前にいたら一緒に楽しめる方がいいだろ」
まあ、酒があれば上機嫌なんだろうけど。
「ビールでも構いませんよ」
オマエはにこにこと、いつも買ってる銘柄の缶ビールへと視線を飛ばす。
たまには、イベントらしいことをするのも悪くないとは思っているのだが。
こいのぼりもお祭りや花火も、思ったより楽しかったと思えていることだし。
「うん。やっぱり買うか。忘年会も兼ねて、店主さんとこでみんなで食べよう」
「『お伽堂』でですか? ……まあ、いいですけど」
オマエはそう言って、小さく肩をすくめた。
*
「うちはかまわねぇが、若者はもうちょっと華やかな人間を誘った方がよくねぇか?」
苦笑交じりに承諾してくれた店主に、俺は情けない笑顔を向ける。
「まだ誘えるほど深い繋がりがないんですよ。ひとりで過ごすよりは、少しでも賑やかな方がいいかなと」
「ここの賑やかさは普通とちーっと違うがな」
わかってますと頷けば、オードブルは用意するから、他をよろしくということで話はまとまった。
当日は普通に仕事があるので、予約したケーキとチキンレッグはオマエに引き取りに行ってもらう。少し面倒そうな顔をしたので、ついでにシャンパン(と正月用の日本酒も)を買うように金を渡せば、すぐににこにこと上機嫌になった。
一度着替えてから『お伽堂』に向かう。
店の入り口から入って鍵をかけ、ついでに店仕舞いをする手はずになっていた。
12月に入ってから壁やドアにクリスマスの飾りをしていたので、一見華やかだ。そうしたからといって、突然客足が増えるということもないのだけれど。
赤い三角帽子を被ったテディが奥のドアから顔を出す。そう表情が変わるわけでもないのに、なんとなく浮かれている気配がした。
一緒に奥の部屋まで行けば、こたつの上に出来合いのオードブルとチキンレッグが並んでいた。テディは狭いこたつの上に、俺は開いている一角に「遅くなりました」と座る。
「お勤め、ご苦労さん」
店主はそう言いながらオマエに目で促した。
オマエは置いてあったシャンパンの栓を慣れた手つきで開けていく。ソムリエとかをやらせても、実はうまくこなすんじゃないだろうかと思える。
が。注ぎ方は豪快だった。
「かんぱーい!!」
テディもプラスチックのカップを持って一応参加する。部屋の隅に飾られたクリスマスツリーの下には、ボタンの目のテディベアも座っていた。
なんとなく、春からのあれこれを思い返しながら料理をつつく。
「最近はどうだい? 変なモノからの横槍は減ったかい?」
「そうですね。おかげさまで。地域の人たちとの交流も増えてきましたし、来た時よりはだいぶ」
「いい傾向だな。それとも上手くやっているようだし」
「それ」と言われたオマエは気にする風でもなく、オレンジ色のテリーヌをつまんで不思議そうに眺めている。
「……ああ、エビやカニを使っているのですね」
ローストビーフにエビフライ、ゆで卵のスライスなんかもひょいひょいと口に放り込んでいく。
「酒さえあればいいかと思ったけど……食べたいならもう少し別のも買えばよかったか?」
いつもより積極的に食べているような気がして聞けば、オマエは軽く微笑んだ。
「まあ、前菜みたいなものですし」
「前菜? じゃあ、メインはチキンかケーキか?」
自分は食べないのに、オマエと張り合うようにして俺の皿にフォークであれこれ取り分けてくれているテディを撫でて笑えば、オマエは緩く首を振った。
「ええと、なんでしたっけ。ほら、毎年NORADが追跡してる……子供のところにしかやって来ないので、なかなか口にできないんですよねぇ。今年はそのクマもいますし、ハザマさんのところになら、もしかしたら立ち寄ってくれるかもしれないなと」
「全世界の子供を敵に回すようなこと、やめてくれる!?」
油断も隙もあったもんじゃない!




