第27話 某おやつの日
商店街の青年部から協力のお礼、ということで同僚がダンボール箱を抱えてきた。
中身は賞味期限がそこそこ迫った細長いチョコがけのお菓子。俺も二箱もらったのでひとつはデスクに、もうひとつは『お伽堂』の店番中につまもうかと鞄に入れた。
店番中に飲食は行儀のよくないことだけれど、こと『お伽堂』に限って言えばそう叱られもしない。元々人間の客が来ることが少ないし、小腹が空いた時にさっとつまむ程度なら許される行為だ。さすがに食べながら棚の間は歩けないけれど、カウンターの奥なら問題ない。
しかしなかなか『お伽堂』に向かえないまま数日が過ぎてしまった。
鞄に突っ込んだお菓子のことなどすっかり忘れたまま休日となる。店の前まで行ったところでオマエと鉢合わせた。
「先にクマを迎えに行かないと」
こっちが何か言う前に、オマエは俺の背を押して歩き出す。
そういえばハロウィン前に預けたんだっけ。ちょいちょい忘れがちだが、あのテディベアはちょっとした厄除けなのだ。
すっかり恒例となっていて、JK巫女も不可解な顔もせずテディを返してくれる。今日は鞄を持っていたのでテディをしまっていこうと鞄を開けたら、JK巫女が思わずというように声を漏らした。
「……ペッキー」
「ん?」
そういえば、入れっぱなしだったな。
「食べる? 開けてないから、欲しいなら」
お菓子の箱を取り出したが、JK巫女はふるふると首を振った。
「あ、欲しいわけじゃなくて。なんか最近学校でもみんな食べてて。よくおすそ分けもらうから」
「ああ……うちも商店街の青年部から協力ありがとうってもらったんだよな。どこかで発注間違えたのかも」
「わー。ありえそう」
特に新製品というわけでも、季節商品でもない。定番と言えば定番なので、たまたまなのかもしれないが、狭い界隈で目につくならきっとそういうことなのだろう。
「ペッキーゲームとか……やっぱりやったりしてる?」
「やる人もいるんじゃないかな? 男子とかやりそうな人何人か浮かぶー。……私はやらないけど」
ちらとオマエを見て付け加えるところは、年頃の女子っぽい。
「どんなゲームですか?」
「知りませんか? ペッキーの端と端を咥えて同時に食べていくんです。多く食べた人が勝ち。口がつきそうになるから、それが嫌で離したり折ったりすると負けになります」
「『多く食べれば勝ち』というのはいいですね」
ぺろりと唇を舐めるけれど、ひと箱いっぺんに咥えてるところを想像してないよな?
世間話はそのくらいにして、俺たちは『お伽堂』へと戻る。
軽く掃除をして、棚のチェック。問題ないのでカウンターにテディを置いて、椅子に腰を下ろした。オマエは暇なのか、カウンターの背後の店主の家に続くドアを開けてそこに座り込む。
そのまま、しばらくは何事もなく時間だけが過ぎて行った。
バサッと何かが落ちる音がしたので、カウンターを離れて奥の棚を確認しに行く。覗き込めば、妖精が落ちた本を拾い上げたところだった。
お互いしばし動きを止めて見つめ合う。
いたずらを始める前にと、俺は愛想笑いを浮かべて妖精に手を差し出した。
「ありがとう」
妖精ははっきりと渋い顔をして、仕方なさそうに本をこちらによこした。
きっちりと元の位置に戻して、妖精には仲間がいるなら呼ぶように言い聞かせる。彼らの言葉はわからないが、あちらはこちらの言うことをある程度分かっているので伝わるはずだ。二匹をカウンターまで連れ戻って、そこで鞄からお菓子の箱を取り出した。
妖精についてはいたずらに気をつけるように言われているだけだったので、おとなしくしてくれるならおやつをあげようと交渉してみる。
甘いものは好きなのか、意外とすんなりおやつに興味を示した。一本渡せば、ポッキーゲームさながらに両端からかぷかぷと食べ始めた。
意外とほのぼのした光景に、ちょっと気が緩む。
自分も一本つまんだ。
口の周りをチョコまみれにして、もう一本とねだられ、渡す。
自分ももう一本咥えたら、ぐいと肩を引かれた。なんだと振り返ろうとしたところで、不機嫌そうなオマエの顔が寄ってくる。
戸惑いの間にオマエはペッキーの向こう端を咥えた。
とたん、自分の咥えていた感覚がなくなる。ペッキーは跡形もなく消えていた。
「多く食べた方が勝ちですよね?」
ちょっと凄まれて、よくわからないまま頷く……けど、なんか、若干ずるくない?
「じゃあ、残りはいただいて問題ないですね!」
さっと箱ごと持って行って、座り込んでは食べている。妖精たちが抗議するようにオマエの周りを飛び回っていたが、オマエはお構いなし……どころか手で追い払う始末。オマエには敵わないと知っているからか、妖精たちは渋々とどこかの世界に戻って行った。
こちらの食べ物にそんなに執着無いと思ってたけど……もしかして、妖精にあげたのにオマエにあげなかったから……拗ねてる?




