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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
4章 楽あれば苦あり

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第26話 ハロウィン

「今年も、よろしく!」


 何が「今年も」なのかよくわからないまま一枚のチラシを置いて行かれる。

 この同僚は必要なことが足りなくて、余計なことが多いんだよな……悪気が無いので強く責められないのだが。

 と、まあ半分諦めの境地でチラシに目を通す。


『ハロウィン大売出し!

 仮装してお買物して商品ゲットだぜ!』


 商店街の売り出しのチラシだった。

 仮装して買い物をすると、店員と写真を撮って張り出され、選考の後に商品が当たるようだ。

 で? よろしくとは? 買い物に行けばいいのか?

 まだ何枚かのチラシを持って部屋を出て行こうとする同僚を慌てて掴まえて詳細を聞く。


「ん? あれ? そうか。去年はいなかったっけ。すっかり馴染んでるから、ずっといたような気になってた」


 へらへらと笑いながら簡単な説明をしてくれる。


「いわゆる地域活性化のひとつでさ。行事にかこつけて売り上げを伸ばそうってんで企画されたんだけど、田舎じゃなかなか浸透しなくて。子供だけじゃなく、大人も乗って行こうぜって感じで、商店街の青年部からの協力要請なんだ。店の方は飾りつけや売り子さんも仮装してくれるから、客の方ももっと気軽にできるように、まあ、サクラをやってくれってわけで」


 なるほど?


「最近は百均でもいろいろ揃うから、よろしく頼むよ」

「……ちなみに茂部(しげべ)さんは何の仮装を?」

「俺? 狼男かなぁ。耳と手袋で済むし。……あ! 山中さーん! え、ちょっと! 逃げないでくださいよ!」


 慌ただしく去っていく同僚の背中を見送る。逃げたくなる人の気持ちもちょっとわかるだけに苦笑いが出た。

 サクラってことは、商品は当たらないんだろうし。


 *


 なんて話を、テディを預けに行ったときに世間話として振ってみようかと思ってたのだが。

 社務所に顔を出したとたん、JK巫女は窓口の向こうで立ち上がってこちらへと回ってきた。


「こっちへ! 早く!」


 などと急かされて、以前にも通された休憩室のようなところに押し込められる。

 相変わらずあらぬ方向を向いていたオマエも、酒のことを思い出したのか、ちょっと期待して表情が明るくなった。

 いや、この感じは違うと思うぞ。

 JK巫女は廊下の左右を確認してからドアを閉め、潜めた声で詰め寄るという器用なことをしてみせた。


(はざま)さん、副業って『お伽堂』のバイトだったんですか!?」

「ああ。うん。そう、だけど……」

「あそこ、妙な気配がするからあんまり近づきたくなかったんです! 間さんみたいな人だと周りで変なこと起こったりしません!? 大丈夫なんですか?」


 俺みたいな人って……


「ええと……まぁ。店主さんとか、オマエも手伝ってくれるから……」


 変なことは常に起こっているので、なんとも言い難い。

 苦笑して答えれば、少々誤解したようだ。

 JK巫女はオマエをちらりと見ると、歯切れ悪くなる。


「そ、そういえば、『お伽堂』で会ったと言ってましたっけ……じゃ、じゃあオマエさんの気配が妙なのもあの店の影響ってことなのかな……」

「妙ですかね?」

「え! あ、えっと、その……」


 オマエににこりと微笑まれて、JK巫女はあわあわと顔を赤くする。

 なるほど。それで誤魔化せるのがアイドル顔。


「色々気を使ってもらってるから、大丈夫だよ。気にしてくれてありがとう。まあ、だからあんまり怖がらずに買い物に来てって友達にも言っておいて」

「……そうですね。必要があれば……」


 漫画はあんまりないから、高校生にはどっちにしろ興味がないのかも。図書館もあるしね。俺は見切りをつけて話題を変えることにした。


「そういえば、なんか商店街でハロウィンイベントやるみたいだね」

「ああ……なんか仮装するやつ?」

「抽選で賞品も当たるみたいだから、若者たち参加してくれないかな? 俺も会社で頼まれてさ」

「え? 間さんも仮装するんですか? でもなー。商品もトイレットペーパーとかみかんとかだとイマイチ盛り上がりに欠けて」

「そうなんだ? ゲーム機とか出せないか言うだけ言ってみるけど」

「それなら……ちょっと、声かけてみます」

「オマエもどさくさに紛れてどうだ? 酒が当たるかもしれないぞ」


 酒がなくとも多分乗ってくれると思いつつ振ってみれば、何を思ったのかにこにこと頷いた。


「ふふ。そうですね。どさくさに紛れて。いいですね」


 何も言わなかったけれど、JK巫女の反応もそこで好感触を得られたので、俺もしめしめと笑うことができた。


 *


 さて、売り出し期間。俺はあちこちに傷のボディペイントをして、釘の刺さったようなカチューシャをつけてフランケンに扮した。

 オマエも黒の細身の三つ揃えのスーツに黒いマントを羽織って、吸血鬼らしい赤い瞳をしている……って、赤!?


「か、カラコン?」


 おそるおそる聞けば、にこにこしたまま「そういうことにしておきましょう」なんて言ってる。突っ込んだら負けなんだろうなぁ!?

 買ってやったポテトを片手に、優雅に商店街を行ったり来たりしながらポテトじゃないものを美味しそうにもぐもぐしているのも、俺は見て見ぬふりをするのだった。


 途中、魔女っ娘に仮装したJK巫女(こう言うと何か妙だが)、莉音ちゃんが興奮した様子で声を掛けてきて、一緒に写真を撮った。オマエと二人で撮ればいいのにと指摘したら、やや残念そうに「間さんと三人なら撮ってもいいって……」と言われてしまう。


「目立ちすぎると行動に制限が大きくなるので」


 オマエは後でしれっとそんな説明をしてくれたけど、莉音ちゃんは残念だっただろうな。ごめんな。お邪魔虫で。

 心の中で謝りつつも、写真の共有のために現役女子高生の連絡先を手に入れたことに、ちょっとだけ心が浮き立ったのは秘密だ。


 おもちゃ屋の奮発したゲーム機のおかげで大いに盛り上がったイベントは、オマエの腹も満たしたようで、八方丸く収まったのだった。


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