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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
4章 楽あれば苦あり

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第25話 おねだり

 『お伽堂』の入り口に高校の文化祭のポスターが貼られていた。無事に準備は終わったのだろうか。

 後夜祭で花火が上がるらしいのだが、これはオマエに注意しておかないとまずいのでは?

 そんなことを考えながら店に足を踏み入れると、店主が何冊かの本を抱えて棚に戻しているところだった。


「おぅ。今日もよろしく。仕事は忙しくないのか?」

「ないことはないですけど、休日まで出るほどではないですね」


 手伝おうと手を差し出せば、持っていた分、全てを乗せられた。


「そういえば、この間神社の娘さんが来とったぞ。暇があったら顔を出してくれ、とよ」


 にやにやとした笑みを浮かべて、二の腕をそこそこの強さで叩かれたが、そういうのじゃないと思うんだよな。


「……彼女、オマエのファンですよ」

「ん? アレのか?」

「オマエとエンカウントするのは難しいですからね。俺とはよく一緒にいるんで何か用事でもあるのかも」

「神社関係者なら、アレの妙な雰囲気はわかりそうなもんだけどな」

「若い子は「ミステリアス」とか、なんかそういう雰囲気を勘違いしたりしますし……まあ、勘違いしたいっていうのもありそうですが。顔はいいですしね」

「顔ねぇ。良くある顔のような気もするが」

「あ。やっぱりダースベイダーではない?」

「何の話だ?」


 張り替えたポスターの( ※)をすれば、店主はカカと笑った。


「仰々しく仮面を被ってたこともあるから、まあ、な。髪の色とかは目立たねえように変えてるが、あんなもんだったと思うが。気配で区別してるから、あんま外見はちゃんと見てねぇな」

「元の髪色って?」

「さあ。そこそこで変えてたからどれが地なのかは知らねぇよ」


 まあ、ピンクでも金でも銀でもアイドル味が増すだけだな。


「それよか、アレにしてみれば神社は()()()だろうからな。言い聞かせてはいるが、あんまり迷惑かけないよう気をつけてな」

「それは、はい。なるべく」


 店主は軽く頷きながら別の本の山を抱えて棚の向こうへ消えて行った。

 テディは手伝っていないのかとカウンターの上に目をやれば、赤いリボンのついたクマと並んで寄り添っている。雰囲気からは眠っているようだ。

 もしかして、そろそろ神社に預けに行くべき時期だろうか。それならまぁ、ちょうどいいかと、俺は本格的に片付け作業に集中するのだった。


 *


 はらり。

 手にした最後の本を棚に差し込んだ時、黄色いものが落ちてきた。

 なんだと拾ってみれば、細長い花びらのようなものだった。

 店主に聞いてみたけど「ただのゴミ」とのこと。安心してゴミ箱に捨てて、また作業に戻る。

 ずぶ濡れの女性の後ろを通り抜け、本の山のところでしゃがみこんでるものも無視して棚に向かえば、ちいさく舌打ちが聞こえた。どんなことでも繰り返せば慣れてしまうものである。


 ちょっと達成感を感じながらカウンターに戻ると、椅子の上に白い菊の花がぽつんと乗っていた。茎が無く、頭の部分だけである。

 さっき捨てたゴミが頭に浮かぶ。あれも、菊の花びらだったような?


「テディ」


 怖いというほどでもないが、なんとなくテディに声を掛ける。振り向いてこちらにやってきたテディに菊を指差せば、テディはそれを見て首を傾げた。フルフルと振られる首は、知らないのか、特に問題ないものなのか。

 菊を拾い上げてカウンターに乗せる。ちょうど店主も戻ってきたので聞いてみた。


「ただの菊だな。別にどうもねぇから捨てていいぞ。見たことねぇ花があったらまた声を掛けてくれ」


 そうは言われたものの、なんとなくそわそわする。そろそろ彼岸だったなというのも思い出しながら、菊をゴミ箱に捨てた。

 まだ見かけていない怪異でも現れるんじゃないかと、緊張していつもよりあちこち眺めてしまう。どこかでバサリと落ちた本を片付けに行って、その棚にまた菊を見つける。テディに見せても反応は同じで、そんなことが何度も続く。

 気づけばゴミ箱に半分くらい菊の花が溜まっていた。

 さすがにちょっと気持ち悪い。


 店主は「気にすんな」と相変わらずドライで、それが正解なのだろうけど、怪異的なものであった方が納得がいくのに。

 スッキリしないまま家に帰って、風呂でも入ろうと浴室のドアを開けた。


「……うわっ!」


 浴槽にはすでに湯が張られていて、その水面を埋め尽くすように色とりどりの菊の花が浮かんでいる。

 思わず一歩後退れば、何かにぶつかった。


「お帰りなさい」


 聞き覚えのある声に振り向けば、オマエだった。

 無表情にじっと俺を見るオマエは、一本の菊を持っていて、その花に「はむっ」と齧りつく。

 ああ、やっぱり何か異常なことだったんだと少しほっとした。


「何だ? その菊が何か?」

「いいえ? これはただの花ですけど」

「……花も食うの?」

「いいえ? ああ、何も食べるものがなくなれば、食べないこともないですけど」


 妙な沈黙が落ちる。


「……風呂の花は?」


 オマエがすっと手を挙げたので、訳も分からず湧いたものではないようだ。


「どういうこと?」


 ふぅ、と一息ついて、オマエは肩をすくめた。忸怩たる、みたいな顔で視線を落としながら重い口を開く。


「……お祭りの時にいただいたお酒、とうとう飲み切ってしまいまして。さすがにアレをもう一本というわけにもいかないでしょう? で、思い出したんですけど、今月頭に重陽(ちょうよう)の節句があったじゃないですか」

「何の節句?」

「重陽。無病息災や長寿を願って、菊風呂に入ったり、菊酒を飲むという……」


 知りませんが?

 って、いうか、何? まさか?


「菊酒が飲みたいアピール!?」

「……いえ、そんな。居候の身でおねだりするわけには」

「遠回しすぎるから! 素直に言って!?」


 調べたら、九という一番大きな陽の数が重なる日で、縁起がいいという中国の風習から来ているようだ。五節句に入ってるけど、七草がゆの日以上に知られてないよな……




※ 第13話魔法陣 参照

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