第23話 寂しがりのテディリターンズ(前)
「ねぇねぇ! 莉音、あのクマ変じゃない? 大丈夫?」
「うん、まあ、普通? 大丈夫だよ。ほら、選んじゃおう?」
カウンターのテディを指差して、同じジャージに身を包んだ女子高生たちが姦しく古いポスターを漁っている。
莉音と呼ばれた子はチラ、と俺を見てから丸まったポスターを開いた。
「莉音が言うなら大丈夫かぁ。店員も普通そうだし、思ったより普通の店だね」
普通そう、は誉め言葉として取っておくべきだろうか。苦笑いして昭和の時代の雑誌をピックアップする。
文化祭でレトロ喫茶風の飾りつけをするらしい。
ジップロックから出した茶封筒で支払いを済ませて、莉音という子が何か言いたそうな視線を寄こす。
……が、結局お互い口を噤んだままにしておいた。
そう。あのJK巫女だ。莉音っていうんだな。それで〝のんちゃん〟なのか。
彼女は二人に背中を押されるようにして入ってきて、俺の顔を見てあんぐりと口を開けた。かと思うと、即座に他人の顔を作ったのは、たぶん、『お伽堂』がいわくつきの店だからだろう。
この町に古書店はここしかない。準備のためとはいえ、ちょっとした肝試し気分だったに違いない。
「あ。雑誌意外と重いかも?」
「交代で持ってけば何とかなるんじゃ」
「じゃんけんで負けた人が信号一つ分持つとか」
「えー! やだやだ。じゃんけん弱いもん!」
ダンボール箱を抱えて、わいわいと言い合う若者が眩しい。
「届けましょうか?」
高校までは歩くと三十分から四十分かかる。確か軽トラがあるはずだから、と声を掛けてみる。
ぴたりとお喋りをやめてこちらを向いた女子高生たちは、一度顔を見合わせた。
「いいんですか?」
「いい感じの時間言ってくれれば、その時間に持って行くよ」
「あ! 車なら私たちも乗せてもらったり……」
「あ、ごめん。軽トラだから一人しか乗せられないんだ」
「えー」
残念そうに肩を落として、三人は相談する。
「じゃあ、商店街に寄ってテーブルクロス用の布も見てきちゃおう」
お昼にもかかりそうだからと、十三時集合でまとまった。
*
時間通りに高校へ行くと、三人は校門のところで待っていた。玄関前につけて助手席から箱を降ろす。「ありがとうございましたー」と声をそろえる様子は、部活動を思わせた。
任務完了と運転席に戻りかけたところで、ふとひとりが荷台を覗き込んだ。
「なんか乗ってますよ」
「ん?」
荷台には何も乗せなかったが?
見れば、二十センチくらいのクマのぬいぐるみだった。
テディ? と、手に取ってみれば、首に赤いリボンをつけていて、目はボタンをバッテンに縫い留めてあるタイプ。俺も見知らぬやつだった。
「誰かのじゃぁ……ないか」
揃って首を振る女子高生たちにどうしたものかと頭を掻く。
「来るときはなかった気もしたんだけど。うちで預かっておくから、もし誰か探してたら伝えておいて」
「は~い」と明るい返事に今度こそ帰路へとついた。
『お伽堂』から気付かず持ってきちゃったのか、荷物を降ろしてる間にどこからか降ってきたのか……それならすぐわかりそうな気もするけれど、静かにしていたわけでもないし。
軽トラを裏に停めて、ひとまず店主さんに報告することにした。
ドアベルの音に、カウンターにいた店主さんが目線だけを上げ、俺の姿を確認したテディが立ち上がる。
「戻りました。荷物はちゃんと渡せたんですけど、荷台にこれが乗って、て……!?」
ひょいと差し出した手の中からクマはすっぽ抜けて、くるりと回転したかと思うと俺の二の腕にしがみついた。
なんだか覚えのある出来事だが、テディはカウンターの上にいる。一瞬動きを止めたテディは次の瞬間、飛び上がってライダーキックを繰り出してきた。
わ。待て! それは……
思わず身を引いたせいでキックは肩に直撃した。勢いでよろけてすっ転ぶ。
そうまでしてもクマは二の腕に張り付いたままだった。
「あたた……待て。マテ……」
興奮してぴょんぴょんしてるテディに待ったをかけて、黙って見ていた店主に助けを求める。
店主はにやりと笑った。
「モテモテだな」
クマにモテてもあんまり嬉しくないんですけど!?
「クマ公よりは執着ねぇみたいだから、無視しとけばそのうち諦めて離れると思うが。そこならそう邪魔でもないだろう。なんか、昔そういうおもちゃあったな」
「そのうちって……明日仕事なんすけど……!」
さすがにクマを腕に付けていく勇気はない。
「話を聞けりゃあ早ぇかもしれねえが、弱々しくてよくわかんねぇな。まあ、面倒ならアレに任せてしまえ」
オマエに、かぁ……
ちら、と腕のクマに目をやれば、クマもちら、と上目遣いに見上げてくる。
店主の反応だと、放っておいても大丈夫そうだし、だとするとオマエにおやつにされるのは少し可哀想な気も。
たし! っとテディに腿を叩かれる。
ああ、うん。同情すんなってことね。でもテディがそれを言うのも、まあまあアレだと思うぞ。
ひとまず立ち上がったら、奥からオマエが顔を出した。
「店主。荷物が届いてる。受け取ろうとしたら戸を閉められた」
「ああ。しゃあねぇな。こっち手伝ってやれ」
俺を見たオマエは、にっこり笑って「モテますね」と言った。
お前が言うとマジ嫌味!




