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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
3章 禍福は糾える縄の如し

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第21話 夏祭り

 花火大会はないが、お祭りはある。

 JK巫女のいる神社の参道に出店が並ぶそうだ。『お伽堂』の入り口にもポスターが貼られていた。


「都会の人にゃあ物足りんと思うがな」


 そう言って店主は笑ったが、行くなら浴衣を貸してやると提案してくれた。


「またなんか曰くでもあったやつですか?」


 ちょっと引き気味に聞けば、カラカラと笑われる。


「おれのだ。何着か持ってるんだが、しまいっぱなしももったいないかと思ってな。雰囲気出るだろ。あんたさんが行くなら、アレも行くのだろうし」


 まぁ、なんかそういうことになって、五千円の小遣いまでもらって祭りに行くことになった。オマエが屋台の食べ物に興味を示すかは判らないが、ビールなら喜んで飲むだろうと。人混みで妙なことをしでかさないように見張っといてくれというのもあるに違いない。


「祭りは行ったことないのか?」

「町中の人が来ますからね。少し離れたところで()()()()はもらってましたけど」


 カラスや野良猫かな?

 当日『お伽堂』で着付けもしてもらって送り出される。足元はスニーカーだけど、それもまあ、今の若者っぽくていいのかもしれない。

 オマエは紺色無地のシンプルなもの。俺は織りで縞模様に見える黒っぽいやつで、地味かなと思ったけど着てみるとそうでもない。

 店主は普通に普段は洋装だけど、昔は着物も浴衣も普段着で着てたんだろうか。ちょっと不思議だ。


 大きな道路に出れば、神社に向かって人が流れている。

 こんなに人がいたんだなと、我ながら失礼なことを思った。まあ、でも某スクランブル交差点とは比べ物にならない。

 屋台が並び始める辺りからは、人を追い越すのも大変な賑わいだった。


「お参りしてから……と思ったけど、こっち側見ながら進んで、帰りは逆側を覗こうか」

「なんでもいいですよ」


 そう答えるオマエの視線は、屋台ではなく人混みの中を見ている。


「……なんかいる?」

「いますよ。こういう人混みは憑いてるものもシャッフルされますから、真ん中の方を歩いていただけると沢山釣れそうです」

「餌扱いやめてくれる!?」


 聞いてしまえば嘘か冗談かに関係なく(冗談じゃないんだろうなぁ!)人混みに突っ込んでいく気にはなれず、なるべく店を覗きながら歩く。並んでいる子供の邪魔をするわけにもいかないから、結局人に流されそうにはなるのだけど。

 ゆるゆると進んでいたら、オマエがふと足を止めた。

 たこ焼きの屋台で、おやじさんがくるくると生地をひっくり返すのをじっと見つめている。


「……食うか?」

「ああ……いえ、そんな風に作っているのだな、と……」


 綺麗な焼き色で均一に丸くなっていく工程はリズミカルで、思わず見入ってしまうようだ。

 小腹も空いたしな、と、黙って見ているだけなのも悪いので一舟もらうことにした。


「ほら。もう少し先に飲み物も売ってそうだから持っとけ」


 オマエは舟型の容器を珍しそうに眺めたあと、竹串でひとつ口に運ぶ。


「熱くないか?」

「大丈夫です」


 花火を口に入れても大丈夫だったからな。心配いらなかったか。


「外はカリッと、中はとろり……食感が楽しいですね」


 黙っていたおやじさんがグッとサムズアップする。

 またとろとろと進み始めたが、オマエはたこ焼きをもう一つ頬張って、スンとした顔で人混みを見ていた。


「口に合わないか? 後で俺が食うから」

「味は美味しいですよ。ただ……そうですね。カルボナーラ味のガムを食べながら、目の前に乾き始めたおむすびがあって、結構お腹は空いている、という感じというか」


 わかるような、わからないような。


「ああ、ほら、そこで飲み物売ってる」


 水と氷に浸かった缶やペットボトルを見つけて振り返れば、すでにたこ焼きはなかった。

 食っちまうの早くない?


 一度参道から外れて飲み食いして、ようやく拝殿へとたどり着く。オマエに真似させながら参拝を済ませて社務所へと向かった。

 ここもいつもより人が多い。おみくじを引く人や、お守りを買う人、絵馬に書き込んでいる人もいる。


「あ! (はざま)さん! オマエさん!」


 声を掛けられて振り向けば、JK巫女が赤い銚子を持ってやってくる。


「わぁ! 浴衣似合いますね!」


 テンション高めに言う視線はオマエに向いている。顔がいいと、何でも似合うよね。

 「どうも」なんて答えているオマエも、巫女さんの手の銚子に気付いて目がキラキラしだした。


「あ。どうぞ! お神酒です。飲めますよね?」


 赤い杯を渡されて、少しずつ注いでくれる。

 わかりやすく喜んだオマエは、一息に飲み干して唇を舐め、「うまい!」と上機嫌に笑った。

 巫女さんはアイドルスマイルに当てられて、頬を赤くして見惚れてる。

 もう一杯、と言わないうちにと俺はオマエの腕を掴んで回れ右しようとした。


「いいもん飲めたな。さあ、反対側の店も見て帰ろう」

「えぇ……もうちょっと……」


 珍しく駄々をこねるように巫女さんを振り返ったオマエの杯を受け取って、巫女さんはさらにその腕を掴んだ。


「あの! えーと……ちょっと、こちらに……」


 さすがに二人で顔を見合わせる。

 なんだろう。

 案内された先は、職員の休憩室のような場所だった。

 「ちょっと待っててください」と、巫女さんは出ていく。


「そんなに美味かったのか?」

「そりゃあもう! ここに来て一番かもしれません。上品な香りの中にピリッとした辛味が味を引き締めていてですね」

「お、おぅ……」


 力説するオマエにやや気圧されていると、巫女さんが戻ってきた。手にビール瓶くらいの大きさの瓶を持っている。


「これ、さっきのお神酒なんですけど、よかったら。他の人に配るほどはないので、その、一本だけだし、大っぴらにはしてほしくないんですけど……」


 もじもじと差し出されたそれに、オマエは跳ねるようにして飛びついた。


「本当に!? ありがとう! ありがとう!!」


 どさくさに紛れて巫女さんをぎゅっと抱きしめて、それから瓶ごとその手を取って振っている。瓶を受け取って満面の笑みで振り返ったオマエの後ろで、顔を赤くしている巫女さんがちょっと可哀想だった。

 コレに惚れても報われないだろうな、と。


「ハザマさん、行きましょう」


 もうお祭りはどうでもいいという顔に苦笑する。


「ありがとう。あんなに喜んでるの初めて見るかも。すごい美味しかったって」

「そ、そうですか」

「じゃあ……また」

「はい。楽しんでいってください」


 「また」と俺が言っていいものかと少し迷ったけど、巫女さんは軽やかに頷いた。


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