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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
3章 禍福は糾える縄の如し

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第18話 夏越の祓

 月末、オマエに付き添う形で神社へと向かった。

 オマエだけで行かせるのは心配だからと、店主の頼みでもある。

 『お伽堂』を出ると、テディは普通のテディベアのように動かなくなった。


「動けるのはあの店だけなのか?」

「そんなこともないはずですけど。ほら、片付けの時は移動してたじゃないですか。一応ぬいぐるみは動かないもの、というこちらの常識を踏襲しているのでは」


 まあ、誰かに見られても上手い言い訳を出来るとも思わないからいいんだが。

 神社に向かう人も、今日はいつもより多い気がするし。

 何かあるのかと思いつつ階段を上りきれば、鳥居の脚の前に看板が設置されていた。


夏越(なごし)(はらえ)


 そう書いてある。

 なんだっけな。半年間の穢れを祓う行事だったか。

 境内に目を向ければ、しめ縄みたいなものでできた大きな輪が設置されていた。それをぐるぐるとくぐっている人がいる。近くに看板が立っていて、くぐり方が書いてあった。

 オマエは鳥居もくぐらずに、いつも外側を通り抜けるのだけど、その看板は熱心に読んでいる。


「くぐって大丈夫なの?」


 オマエが不思議そうな顔でこちらに視線を寄こしたので、「鳥居はくぐらないから」と付け加えれば、可笑しそうにふふっと笑った。


「鳥居もくぐれますよ。こちらはいいんですけど、あちらがどう反応するのか判らないので、余計なトラブルを避けるためです。まぁ、これもくぐりませんけど」


 言いながらテディをこちらに押し付ける。


「ハザマさんはぜひ、くぐってください」


 大変爽やかな笑顔で言われて、胡散臭みが増す。

 まあ、くぐるだけでお祓いになるなら、やって損はないんだろう。

 看板に書いてある通り、八の字に三回()の輪(そう呼ぶらしい)をくぐる。

 少し離れて見守っているオマエは、軽く口を開けてそこに手で扇ぐような仕草をした。何をやってるのかと思ったら、そのままもぐもぐし始める。

 今、何か食いましたね!?


 手の中のテディがそれを見て小さく震えている。

 ぺろりと唇を舐めたオマエは、満足そうにつぶやいた。


「ああ、熟成された旨味が出てくるんですね。もっと人が来るといいのに……」


 いつもより人はいるが、混雑しているというほどでもない。ぽつりぽつりと来る感じだ。


「ハザマさん、行ってきてください。()()()待ってます」


 察するに、落ちた穢れを拾い食いしてる感じだろうか……神様もそれなら怒ることもないだろうと、呆れつつ社務所へと向かった。




「こんにち……あ! (ハザマ)さん。茅の輪くぐりに来たんですか? 人型も要ります?」


 受付にはJK巫女が座っていて、人の形をした紙を持ってひらひらと揺らした。


「え? いや、お願いというか、依頼というか……」


 テディを差し出して祈祷をお願いする。

 JK巫女は目を丸くして不安気に俺を見上げた。


「……また、何か?」

「ああ、いや。悪いことは何も。念のためっていうか……で、できれば前みたいに一週間くらい預かってもらえって、オマエが」

「オマエさんが?」

「一緒に来たんだけど、あのくぐるやつが気になったみたいで、見てるって」


 JK巫女は窓口からちょっと身体を乗り出して外を見たけれど、そこからではオマエは見えないだろう。

 一応色を付けた初穂料の入った封筒を渡せば、彼女はひとつ頷いた。


「じゃあ、取りに来るのもオマエさんなのかな。承りました!」

「よろしくお願いします」


 快く引き受けてくれたのがオマエのおかげのような気がして、ちょっと苦笑してしまった。

 ふと、JK巫女が真面目な顔をする。


「念のため、人型に名前も書いていきませんか?」

「え?」

「まだちょっと、淀んでますし」

「……何が?」

「私、気というかオーラみたいなの見えるんです。病気の人とか運の悪い人はどんよりしてて。これに名前を書いて体のあちこち撫でてください。最後に息を吹きかけるんですよ。こちらで回収してちゃんとお焚き上げしますので。あ! 霊感商法とか思ったでしょう! ほんとなんですからね!」


 ちょっと思ったけど、テディもお願いしたし、何も言わずに言われた通りにした。


「……オマエさんもやらないかな?」

「……彼は宗教が違うみたいだから……」


 あんまり間違ってないよな?

 そこで穢れを嬉々として拾い食いしてますとはさすがに言えない。


「ああ。そんな感じしますね」


 ちょっとがっかりした様子に若干胸を痛めていたら、当人がやってきた。


「頼めましたか? ……!」

「こっ、こんにちは!」

「それ……」


 ぱっと明るい顔になったJK巫女の手元をオマエは興味津々で指差した。


「え? あっ。これ、名前を書いて厄を移すんですよ。オマエさんもどうですか?」


 新しい人型を手にしたJK巫女だったけれど、オマエはあっさり首を振る。


「それじゃなくて、そっちがいいです」

「え? でも、これは間さんのだから……」


 怪訝な顔をしたJK巫女に、俺は慌ててお金を出して新しい人型をもらい受ける。


「ほら、記念にもらっていこうな! な! じゃあ、テディをよろしく!」


 オマエの背中を押すのに夢中で、俺はうっかりぬいぐるみの名前を呼んでしまったことにしばらく気付かなかった。

 お祓いしてもらったクマに名前を付けて可愛がってるいい年の大人って(いや、可愛がってるわけではないんだけど)、女子高生には奇妙に見えるよなぁ!

 ……はぁ。


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