第15話 君の名は
課長に個人的な用事を頼まれて、クライアント先から戻る途中でコンビニに寄った。わざわざ店舗を指定されたので、いつも使うところとは違う店だ。
店員から荷物を受け取っていると、不意に声を掛けられた。
「あれ? 間さん?」
自動ドアを入ったところで首を傾げる、ストレートの長い髪の女子高生に俺も首を傾げる。そういえば高校がこの近くにあったっけ。
それにしても誰だ。女子高生の知り合いなんていないぞ。
「やあ、のんちゃんいらっしゃい。テストかい? 早いね」
「ううん。今日は先生方の会議だかがあるからって午前授業だったの」
「おや。それはラッキーだね」
「うん。お昼食べたら友達とカラオケ」
おじさん店員とは顔見知りなのか、常連客なのか、気さくに会話が続いてる。
うーん。声は聞いたことがあるような。
「間さんはこの辺に来るの珍しいですね」
「え? ああ、用事を頼まれて」
手にした荷物を少し持ち上げれば、女子高生はああ、とちょっと呆れたような顔をした。
「雑用押し付けられそうですもんねぇ。嫌なことは断る勇気も必要ですからね?」
「……これは、ついでだし」
なんだろう。刺されてる気がする。
「でも、以前よりは少し良くなったかな。何か変わったことでもありました?」
「良くなった? 何が? ……特にない気もするけど……副業というか、ちょっと他の仕事を手伝うようにはなったかな」
「お! のんちゃん、おいさんも見てくれよ」
「おじさんは問題ないですよー。脂肪肝には気をつけてください!」
店員をちらりと見て、女子高生は言い放つ。
店員は、はははと笑って感心したようにお腹をさすった。
「そんなことまでわかるのかい? さすがだね~」
「こないだおばさんがうちに来て愚痴ってましたから。酒の量は増える一方だって。休肝日、作った方がいいですよ」
「ぐへぇ……」
ひきつった笑顔になった店員は、会話を切り上げて奥の棚の方へ移動して行った。
俺に視線を戻して、女子高生は少し考えるそぶりをした。
「お仕事忙しくないんですか? 副業する余裕が?」
「というか、休日の時間の潰し方がわからなくて。気分転換にはなってるかな」
「……ここに来る前はどちらに?」
首都の名を挙げれば、女子高生は目と口を真ん丸に見開いていた。
「あ……あ~……でしたら、ここは何もないですから暇ですよね……あの人……一緒に来たオマエ、さん? でしたっけ。あの人もそうなんですか? モデルとか、芸能人みたいな雰囲気あるし、だからちょっと変わって見えるのかな」
「え?」
オマエ? 一緒に?
そこでようやく目の前の女子高生と巫女さんが繋がる。
「……あっ!!」
必要以上に大声が出て、女子高生もびくっと肩を跳ね上げた。
「あっ。ごめん。そうか。巫女さんか……」
本当に女子高生だったんだ……
今まで気づいてなかったのかと、また少し呆れた目で見られたけど、服装も髪型も違うと全然わからない。
「……オマエはこっちで会ったから……」
「そういえば『お伽堂』で会ったって言ってましたっけ。仲良さそうに見えたので」
やっぱり顔のいい若者は気になるよなぁ。
あいつのことを訊きたくて声を掛けて来たのかな。よくうちに入り浸ってはいるけど、仲がいいのとは違う気がする。
「仲……いいというのかな? まあ、妙な縁はあるかも」
「『オマエ』って変わった名前ですよね。本名ですか?」
なんの探りを入れられてるのかと、なんとなく思って少し身構える。本当のことを言ってもどこまで本気にされるかわからないし、俺が変な奴だと思われるのも嫌だし……
「さあ。そう呼んでくれって言われたから」
「そうなんですね?」
あまり突っ込まれても答えられないし、男子高生の集団がやってくるのが見えたので、「じゃあ」と動き出した。
「はい。また」
そのまま店を出て来たけど、「また」があるのかと首を傾げた。
女子高生と接点のある生活じゃない。お互い通勤電車にも乗らないし。
ああ、でも『お伽堂』でバイトしてると、また世話になることはあるかもしれないな……そっちの方では、あんまり世話になりたくないのだけど……
ちょっと振り返ってみたら、ガラスの向こうで店員のおじさんが、にやにやと女子高生に話しかけていた。
ひとつ息を吐き出す。
どうか、妙な噂を広げられませんように!
会社に戻る途中、河川敷の大きな木の下で、その木を見上げているオマエを見かけた。大きな通りの向こう側だったので声を掛けたりはしなかったけど、そういえば目立ちそうな容姿をしているのに、人に囲まれているようなところは見かけたことがないなと思った。
ただ立っているだけなのに何かのポスターのように絵になっている。けれど、通行人の誰も目を向ける様子はない。
見えていないわけではないだろうに。
ふと、オマエがこちらを向いた。
表情がなんとなくわかるくらいの距離。でも確かに目が合って、にこりと笑われる。
トラックが一台やってきて、その姿が見えなくなった。トラックが通り過ぎてしまうと、もうオマエはどこにもいない。
「宅配のバイトも始めたんですか?」
「うわぁ!」
見ていた方向と反対からオマエに覗き込まれてリアルに飛び上がる。
河川敷の木の下とオマエを交互に見やれば、いたずらっぽくふふっと笑って、また何処かへと歩いて行った。
なんなんだよ! もう!




