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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
2章 無理が通れば道理引っ込む

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第14話 その気配は

 バイトを始めてそろそろ一ヶ月。前回は大きな出来事もなく終えることができた。ゴールデンウィークも近づいてきて、『お伽堂』は休まないのか聞いてみる。


「よそ者も多くなるんで、念のため店は閉めとくつもりだが、通行人にゃあゴールデンウィークはねぇからな」


 それはそうか。中は通常営業ってことだよな。


(はざま)さんは連休だろ? どこか行くんじゃねえのか?」

「はぁ。親がうるさいので、前半は実家に顔出してきます。後半は戻ってきて、だらだらしようと思ってるんで、店主さん用事あるなら留守番しますよ」

「いいのかい?」


 少し驚いたように言われて苦笑する。


「頼りになるかわかりませんが、妖精にさえ気をつけていれば、何とかなりそうな気がします」

「一理あるな」


 にやりと笑った店主は、腕を組んでしばし考え込んだ。


「そうだな。じゃあ、二日くらい頼まれてくれるか。アレにも言っておく」

「はい。予定が決まったら教えてください」

「あんまり()()()になるんじゃねえぞ? こっちは助かるがな」


 呆れたように少し笑って、店主はぽんぽんと俺の二の腕を軽く叩いてから、「よろしく」と奥へ引っ込んでいった。

 役に立ってるのか立ってないのか、微妙なくらいしか貢献していないのだが、それでも店主は「助かる」と言ってくれる。ヘマして役立たずと罵られながら左遷された身には、それが少し自信の回復に繋がっていたりするのだ。対人での失敗だったから、いっそ人じゃないもの相手だと、訳がわからなすぎて割り切れるというのもあるのかもしれない。


 さて、今日は何が現れるのか。

 手元に対応マニュアルを用意すれば、カウンターの上でテディがぶんぶんと腕を振り回していた。気合を入れているらしい。

 何事も無ければ、それが一番なんだよなぁ。

 ちょっと微笑ましく見ていたら、店の角の方でカサっと音がした。

 テディも動きを止めてそちらを見たので、気のせいではないようだ。


 ちょっと見たところ異常はない。見えない系かとも思ったけれど、妖精がいたずらしに来ている可能性もある。

 捕獲用の網を持って慎重に確認しに行ったのだけど、異常はない。

 本の山の影を覗いて見ても、わた埃が見えるだけだった。

 やっぱり見えない系のお客さんだろうか?

 それなら放っておくしかない。何かあればテディが教えてくれるはず。

 振り返ってみたけれど、そのテディも首を傾げている。

 スッキリしないけれど、いちいち気にもしていられない。奥の方で一抱えもありそうな大蛇が移動しているのが見えて、慌ててカウンターに戻った。


 念のためマニュアルを確認してみる。

 『うわばみが通る日は、ネズミやカエルなどの小動物は通らないことになっている。もしも迷い込んでいる小動物を発見した時は、一時的にカウンター下に保護しておくように。すでにうわばみに見つかっている場合は、無理に助けようとしないこと』

 と、いうことは妖精たちも来ていないだろう。何故だか知らないが、彼らが苦手としているモノが通るときは姿を見たことがない。


「テディ、念のためカウンター下にいたらどうだ?」


 大きさ的に心配かと声を掛けてみたら、テディはカウンター下ではなく俺の頭の上によじ登ってきた。

 これは、自分を大きく見せるための、言わば虎の威を借る狐的なあれだろうか……見た感じだと人間も一飲み出来そうな大きさなんだけどね。店主は「人サイズは襲わないよう契約がある」と言うのだけど。

 こちらに意識を向けられないよう、できるだけ大人しくしておく。

 狭い通路をゆっくりと窮屈そうに進んでいた大蛇は、ふと動きを止めて振り返った。


 カウンターからはちょっと見えない角度の方だったけれど、カサッとか、スササッとか移動している気配がする。

 大蛇がその気配の方に頭だけを向けるので、嫌な緊張が漂ってきた。

 ネズミだろうか? 古い感じはするけれど、ここでネズミを見たことはない。

 狙いを定めた大蛇が、勢いよく頭を突き出して棚にぶつけた。何冊かの本が棚から落ちて蛇の頭にも当たったに違いない。何かが動き回る気配は続いていて、大蛇は諦めたように目的の本に吸い込まれていった。


 ほっとするも、動く気配の正体が気になる。

 蛇が捕まえられなかったのは思ったより小さかったからか?

 小さくてすばしっこいもの……

 ハッと思い当たる。まさかアイツか! 現実での嫌われ者の筆頭!

 俺はカウンター下からスプレー式の殺虫剤を取り出して、大蛇のいた棚の向こうへと回った。


 落ちた本をひとまず一山にして、死角を減らす。

 その間も動き回る気配に全身で集中した。今、俺の後ろの棚の方に来た。

 カサッと次の動きを察知した瞬間、振り返ってジェット噴射を浴びせる。

 どうだ!


「……んっ?!」


 ぱちくりとまん丸い目玉と目が合った。

 茶色くない。そこまで小さくもない。銀色で不定形のそれは、一瞬だけ不思議そうな顔でそこに留まっていた。

 あれ? これって……

 殺虫剤の白っぽい霧の向こうをよく見ようと目を凝らしたけれど、霧が晴れる頃にはもうそれはいなかった。


 待って! 経験値はいらないから、もう少し観察した……待ってぇ!!!


 カササッと微かな音を立てて移動する気配は、もう俺の目に留まることもなく、いつの間にか消え失せてしまった。

 うぅ。せめてどの本から出てどの本に移動したのか知りたかったな……


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