第13話 魔法陣
前回仕分けした本は店主が細かく分類したらしい。ダンボールに店の本棚に並べるようメモで指示があった。
入る隙間もなかった棚にはちゃんと隙間ができていて、淡々と作業は進められていたのだろう。
そういえば、棚の上に積まれていた紙類も減ったような気がする。
地図とか古いカレンダーとかポスターとか、そういうものも置いてあるのだ。昭和のレトロなポスターは意外とお洒落な感じがするから不思議だ。
ラムネの瓶を持った女性のイラストが描かれたポスターが店内にも貼ってあるけれど、新しいものに張り替えないのは店主の趣味か、単に興味がないだけか。
少し手を止めてそれを眺めていたら、奥から段ボールを抱えてオマエがやってきた。
「好みですか?」
「……いたのか。そういうわけじゃないけど……」
ふと、オマエの顔をまじまじと眺める。
「レトロなポスターじゃなくて、オマエのピンナップでも貼っておいたら女性客が増えるかも」
冗談のつもりで笑いかけると、オマエは不思議そうに首を傾げた。
「それはディスプレイとして貼ってあるわけじゃないですから、店主は貼り換えないと思いますけど。まぁ、この顔がこの世界の住人に好まれやすい顔だというのはそうですが」
じゃあ何のために貼ってあるのかとか、自信ありげな物言いとか、ツッコミが喉まで出かかる。
「でも、そうですね。この顔で封をすればより強固になる可能性も少しは? いや、でもそれなら素顔の方が……今度聞いておきます」
「……素顔? 素顔って!?」
オマエは急ににこにこと笑顔を作って、口を閉じる。
「え? ちょっと? それは仮の姿、とか?」
「ふふ。どう思いますか? 不定形の金属生命体もかっこいいですよね」
それはこの間一緒に見た映画に出てきたアンドロイドだろう。
「さあさあ、手を動かさないと終わりませんよ。こっちの箱もお願いしますね」
確かに今まで見た、この店を通り道にしている異世界の住人は、人間に近くとも少し違う見かけをしていた。
えー。まさかな。
でも、魔王とか呼ばれてたともいうし……
黒いマントに赤い目で、頭に角を生やしたオマエの姿を想像したけれど、アイドルがコスプレしている感じにしか思い浮かべられない。圧倒的に想像力が足りない。
かといってスライムみたいな不定形の姿もどうにもピンとこなかった。
気になりすぎてうっかり非売品の場所を間違えそうになって、テディに注意される。
奥からもうひとつダンボールを運んできたオマエが、俺の視線に気づいてくすくすと笑った。
なんだよくそ! 冗談か!? 冗談なのか!?
異世界ジョークは俺にはわからねーぞ!!
手元が狂って差し込む本を棚板にぶつけてしまい、棚が揺れる。
あっ、と思って慌てて押さえたので他の本が落ちるのは防げたけれど、上から一枚の紙が落ちてきた。
ゆっくりとジグザグに身を揺らしながら落ちてきたそれは、黄ばんでいて少し厚い。その割にペラペラの紙みたいにゆっくりと落ちて来たなと不思議に思いながら拾い上げる。大きさは八つ切りの画用紙くらいのサイズで、羊皮紙というやつかもしれない。何も書かれてない――?
裏にして、表にして確かめて、拾ったときの表側をもう一度確かめると、真ん中に点があることに気が付いた。
なんだこれ?
よく見ようと顔を近づければ、テディも気になったのか俺の頭によじ登って一緒に覗き込む。
点は徐々に広がって、焦げ跡みたいな黒い模様が浮かび上がってくる。燃えてるのかとも思ったけど、煙や臭いは感じない。
紙いっぱいに模様が浮かび上がったところで、今度は模様が光り始めた。
えええ? なんか、まずい? まずくない?
呆然と眺めているその横から伸びてきた手が紙を攫っていく。
振り返れば、オマエがその紙の角を口に入れたところだった。
もぐもぐと口が動いて、光が萎むように薄くなる。オマエが口から紙を離した時には、もう模様も綺麗さっぱりなくなっていた。
……前回の本といい、紙も食べるの?
と、間抜けな疑問がよぎって、頭をひとつ振る。
「ハザマさんは、本当に寄せますねぇ」
にこにこと満足そうに口元を拭って、オマエは弾むような足取りで紙を持ったまま店の奥へと消えた。
なんとなく、肩に降りてきたテディと顔を見合わせる。
ぷるっと身震いして、テディは棚へと飛び移った。
そうだ。片付けが終わってない。
あまり深く考えないようにして、俺は片付けを続けたのだった。
後日。
ポスターが貼り換えられていた。
スターウォーズのポスターで、ダースベイダーの黒いマスクが描かれている。
え。何? オマエの素顔はダースベイダー似ってこと?
それとも、やっぱり丸々冗談!?
ポスターの前で立ち尽くす俺の後ろを、オマエがくすくす笑いながら横切って行った。




