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異界古書店『お伽堂』の異常な日常  作者: ながる
2章 無理が通れば道理引っ込む

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第12話 呪術書

 今日は会社が終わってから店に寄る。

 店を閉めてからの大規模整理を手伝ってくれと頼まれたのだ。

 午前中の比較的影響の少ない時間(あれで?)で慣れてきたようだから、猫の手も借りたいしちょうどいい、と。


 本業の方は別に副業を禁止していないし、報告も義務付けられていない。隠しているわけでもないけれど、今のところ、誰も俺が『お伽堂』でバイトしているなんて気づいてもいないようだ。

 最近は同僚の怪しげなオカルト話も、町周辺のものは興味があるようにして聞き出すようにしている。それをオマエに確認すれば、真偽や対処の仕方を教えてくれるのだ。

 トイレの花子さんも音楽室のベートーベンも学校によくあるような七不思議は放置しても構わないらしい。確かにあんまり事故とか聞かないもんな。


「筋肉寺のある山の中腹の六地蔵は気をつけた方がいいですけどね」

「筋肉寺って……」

「違いましたっけ?」

金仰寺(きんこうじ)じゃなかったっけ」

「そうでしたか? ともかく、あの住職がいなくなったら活性化しそうなので。住職がお元気なうちは大丈夫そうですけど。あなたは構いたくなるオーラを出してますし、必要が無ければ近づかないことですね」


 なんだそれは……何が出てるっていうんだ……

 そういえば、JK巫女も何か言ってたなぁ。

 気持ちだけでもと両肩に手を添えて払い落とすジェスチャーをしておく。

 それを見てオマエは「無駄なことを」と笑った。

 無駄とはなんだ! 無駄とは!




 店の入り口に鍵をかけて、どの山を整理するのかと見渡せば、店主はこいこいと手招きした。


「ここは店を閉めても通るやつらがいるからな。今日片付けんのは奥の部屋だ」


 案内されたのは少し奥まったところにある部屋で、六畳ほどの広さの部屋の半分ほどが本で埋まっていた。

 店舗の奥に繋がるこの家も、外から見た感じより、どう考えても部屋数が多い。『迷子』になったら帰れる気がしなくて、トイレ以外は覗いたこともなかった。


「他の部屋も在庫を置いてるんですか?」

「そういう部屋もいくつかあるが、そうじゃねぇ部屋も結構あるな」


 店主はにやりと笑ってそれ以上を語らない。


「まずは大仕分けだ。日本語の普通の本はダンボールに、日本語じゃねぇやつはそっちのテープで区切った中に、文字の書いてないやつは区切られた反対の方に置いていってくれ」


 上着を脱いで腕まくり。オマエやテディも手伝うようだ。

 目の前の山から適当に一冊取り上げる。『後ろの百面相』……どんな中身かちょっと気になるけど、日本語だからダンボールへ。次に手にしたのは、英語のペーパーバック。その下にあったのはロシア語っぽかった。

 二冊を重ねてテープで区切られた方に置く。

 テディは本の山の奥の方まで行って、表紙に文字のない本を見つけては持って来ているようだった。なるほど。文字がわからなくても無いものは見分けられるもんな。


 黙々と作業を進めるうちに、見たこともない、模様のようなものが並んだ本を見つけた。アラビア文字やグルジア文字も変わってるなと思うけれど、これは文字がどうかも悩むところだ。


「店主さん、これは……」

「テープで区切った方でいい。多少違っても、後で細かく分けるから問題ねぇよ」


 頷いて所定の位置へ積む。

 絵文字のようなものや、ただの線が並んで見えるものなど怪しい本を続けざまに手にしたところで、店主にいっぱいになったダンボールを廊下に出してくれと頼まれた。

 何度か往復した後、戻って新しいダンボールを組み立ててから仕分け作業を再開すれば、目の前の山は見たことのある本や雑誌が主になっていた。

 新しく開いたダンボールも、すぐにいっぱいになりそうだ。

 日本語、英語、謎言語。週刊誌、ファッション誌、写真集。詩集にエッセイ、ラノベまで。


 あらゆるものがあるなぁ、と感心していたら、真っ黒な本が出てきた。

 ひっくり返しても、背表紙も真っ黒。ページも黒くて遠目に見たら箱のようにも見えるかもしれない。厚さは三センチほど。

 これは文字のない方への分類だなぁと頭では考えたけど、どうしてかものすごく開いてみたい衝動に駆られた。中も黒いのか、何が書いてあるのか、気になってしょうがない。

 そっと表紙に手をかける。


 タタタ、と本の山の上を走る軽い足音が聞こえて視線を上げれば、テディがこちらにやってくる。

 ずんずん近づいて、本の端で踏み切ったかと思えば、その身を回転させてドリルキックをお見舞いされた。

 衝撃に黒い本は手から離れて、俺は尻もちをつく。傍に鼻息も荒いテディがスタッと着地して、誇らしそうに胸を張っていた。


「……おっと。これはこちらに」


 オマエが空中で黒い本を受け取って、ぺろりと唇を舐めている。

 店主はそれを渋い顔で見ていたけれど、小さく息をつくと作業を再開しながら言った。


「まあいい。厄介そうだからな。駄賃代わりだ」


 オマエはにこりと笑って、黒い本の角にかぶりついた。

 ……料理本……じゃあ、ないよね?


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